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23 社長さんちの岩


「ずいぶん大所帯になったね」


 香山建設の社長さんは、六人で自宅に押しかけたあたしたちを見てあきれた声を出した。隣に奥さんもいる。

 香山建設の社長さんの家の電話番号や住所は、立花のおじいさんが知っていた。岩がここにあると知って、調べてくれたのだそうだ。

 なかなか大きな家だった。ここまでは荒川さんのワゴン車で来た。


「早速岩を見せてくれ」


 陶元さんが言った。


「あ、そっちです。勝手に見てください」


 芝生や花壇がある庭の奥の方に、さっきから大きな岩が見えていた。


「失礼するよ」


 あたしたちはぞろぞろと岩に近づく。あたしの身長くらいはある。一五五センチくらいだ。梅子さんも昔はそれくらいあったのだろうか。縮んだのかな?

 岩は黄土色で、太った弾丸のような形をしていた。


「この岩か?」


 陶元さんが立花のおじいさんに聞いた。実際に見たことがあるのは、この中では立花のおじいさんだけだ。


「うーん、そんなに注意して見てたわけじゃないからなあ」

「なんだ、頼りにならんやつだ」

「でもでも、はっきり違うわけじゃないんですよね?」

「そうだな、たぶんこれだ」

「よし、高見くん」


 高見さんは大きな段ボール箱と、布に包まれた長い物を持っている。鎧と刀だ。

 高見さんは段ボール箱を地面に置くと上を開いた。


「ねえねえ、なにをするの?」


 香山建設の社長さんの奥さんが、ささやき声で聞いてきた。なんだか楽しそうだ。


「この岩に封印されている、首なし武者の首を跳ねたお侍の霊を、鎧と刀に移すんです」


 あたしもひそひそ声で返した。来る途中に聞いたのだ。


「へー、今度はそんな話なんだ」

「今度はってなんですか」


 話している間に鎧は箱から出され、岩の上に置かれた。風が吹いたら落っこちそうだ。


「刀はどうします?」


 高見さんは鎧から眼を離さずに聞いた。


「立てかけとくか」


 割とアバウトだ。


「いつまでかかるんですか?」


 社長さんが言った。


「真夜中までかな」

「そんなに! じゃあ玄関は開けときますんで、トイレは自由に使ってください」


 なんて親切な。


「庭でしないでくださいよ」


 そういうことかー。


「君たちも付き合うのかい?」


 社長さんはあたしたちに眼を向けた。


「ええ、あたしたちはお互いの家にお泊まりなんで」


 今日が決戦の日なのだ。もう時間は残り少ない。気がする。


「お互いの――まったく、なんで大の大人がこんなことをしてるんだか」

「実際に見たからな」


 立花のおじいさんが言った。


「見た? 幽霊を? また俺をからかってるのか!」


 社長さんは顔色を白くした。


「私は首を跳ねられかけました」


 荒川さんが真顔で言った。顔色が悪いのは思い出しているのかも。


「そ、そんな馬鹿な!」

「ホントにいるのかもよー」


 奥さんがからかう調子で言った。いるんです。


「お、俺は信じないぞ!」


 社長さんは家に入った。


「なんでしたら中で待ってもらっても構いませんよ」


 奥さんが言ってくれて、高見さん以外はおじゃますることになった。高見さんは鎧が落っこちないように見張るようだ。

 時々交替で高見さんのところにいってさみしくないようにしてあげた。

 なんだかんだでリビングは盛り上がり、真夜中まではあっという間だった。

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