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22 手のひら返し


 ガオウを連れて家を出た。もちろん蚊取り線香も忘れてない。

 小夜ちゃんと合流してショッピングモールへ急いだ。ガオウのリードは外した。時間は二時を過ぎた。


「はぁ、はぁ、はぁ、いた!」


 ショッピングモールの駐車場に入ると小夜ちゃんが前方を指差した。首なし武者が刀を抜いていた。腰が抜けたのか、地面に座った人影が四人いた。四人?

 ひとり多いが気にしちゃいられない。


「ガオウ!」


 あたしと並走していたガオウが、だっと駆け出した。首なし武者が地面に座って後じさるひとりの前で刀を振り上げる。


 わん!


 あわや刀が振り下ろされるという時、ガオウが吠えた。

 首なし武者がびくりと動きを止めた。粒子が舞って、首なし武者が薄らいでいく。あたしに身体を向けたような気がするが、はっきりわからないまま、首なし武者は消えてしまった。


「陶元さん!」


 あたしは自転車を止めるとそのまま降りた。がちゃんと自転車が倒れる。


「おお、助かったぞ……」


 陶元さんと立花のおじいさん、高見さんがいる。みんな顔色を悪くして少し震えている。

 はて、斬られそうだった人は誰かと見ると、知った顔だった。ショッピングモールの総支配人、荒川さんだ。


「荒川さん、犬を連れてこいって、言ったでしょ!」


 荒い息の合間に言って近づくと、


「犬を飼ってる知人がいなくって……」


 荒川さんは、震える声で言った。見に来ようとはしてくれていたのだ。

 陶元さんたちも立ち上がり、よろよろと集まった。全員が集まると、


「ほらね、幽霊はいたでしょ?」


 と小夜ちゃんが笑った。



  ◇◇◇◇


「香山建設の社長を説得してもなあ」


 陶元さんのうちに立花のおじいさん、高見さん、なぜか荒川さんとあたしたちが集まっていた。

 ゆうべは自転車のあとを、家まで車でつけられ大変だった。平気だと言ってもそのまま帰してはもらえなかったのだ。放課後、陶元さんのうちに来たところだ。


「なぜ荒川さんがいるんですか?」


 素朴な疑問だ。


「なに言ってんだ。うちは当事者じゃないか。それにこの件を解決できるのは君たちだけだろう」

「はあ」


 と気のない返事をしたが、解決できるのはあたしたちだけと言われて悪い気はしなかった。


「うちは岩を置くところを整備しますよ。なんなら岩を買いとっても構いません」


 荒川さんはすっかり手のひらを返して協力的だ。これで事件はすっかり解決するのだ。


「しかし、それでは将来、また同じようなことが起きるかもしれんぞ」


 陶元さんが言った。


「岩を戻せば首なし武者が出なくなるなら、それでいいじゃないか」


 立花のおじいさんが言って、高見さん、荒川さんがうなずく。


「でもでも」


 と言ったのは小夜ちゃんだ。みんなの視線が集まる。


「それで本当に桃ちゃんが元気になるのかな?」


 うーむ、とみんなうなって黙りこんでしまった。

 岩で封じたとしても、首なし武者を成仏させたとしても、これまでの犠牲者が元通りになるという保証はない。なんとなく元気になるような気がしていたが、実際のところはどうなのかわからないのだ。


「その辺のところはどうなんだ、郷土史家に学芸員さん」


 立花のおじいさんが言った。陶元さんと高見さんは顔を見合わせる。


「古来、幽霊ゆうれいたんというものは怪異が退治されれば悪影響はすべて霧散するな」


 陶元さんが言った。


「不思議なことですが、そもそも幽霊というものが不思議なアレですし」


 高見さんがうなずく。


「岩で封印すると祟りはどうなるんですか?」


 荒川さんが言った。すでに馴染なじんでいる感がある。


「うーむ」


 誰にも答えは出せない。と思ったその時、


「封印でも怪異はなくなりますよ」


 と高見さんが顔を上げた。


「高見くん、それは本心かね?」


 陶元さんがじろりと眼を向けると、うっと高見さんはうなった。


「えーと、今のやりとりはどういう意味ですか?」


 なんか変だった。


「郷土資料館に行った理由だよ」


 と小夜ちゃんがささやいた。でも、他のみんなにも丸聞こえだったと思う。


「んー? あっ! 鎧か!」


 滝川利長の鎧と刀を借りるとかもらうとかいう話だった。高見さんが頭を抱えた。

 岩が効くのかわからないとなると、鎧刀を使うことになるのか。出し渋っているのだ。


「その鎧と刀で首なし武者を斬っちゃえばいいんですか?」

「まあ、そう考えたんだが、相手も首なしとはいえ剣豪だ。普通の者では歯が立つまい」

「誰か強い人を連れてくるんですか?」

「そういうことになるな」

「誰ですか? あたしたちの知ってる人?」

「うむ、その名は」


 あたしたちは陶元さんの言葉を待った。


「滝川利長だ」

「はい?」


 あたしはわけがわからなかった。

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