21 愛用の品
「おじゃまします!」
玄関扉をバシンと開けて陶元さんのうちに入った。靴も揃えず奥に向かう。
「おー、来たな」
立花のおじいさんがソファから立ち上がった。
「では出かけよう」
陶元さんもだ。
「えっと?」
「道々話そう」
四人で外に出る。大通りに行くと、タクシーを拾った。
◇◇◇◇
いくつものガラス張りのケースや、壁一面のガラスの中は明るかった。室内灯は暗い。ガラスの中には古びた色々が置かれている。郷土資料館の展示品だ。
陶元さんは係の女の人となにかしゃべっていたが、すぐにあたしたちの元へ来た。
「こっちだ」
陶元さんは展示ケースの間を進む。あとを追った。
「これだ」
立ち止まった陶元さんの前の大きなガラスの中には、古びた鎧があった。
「こ、これが滝川なんちゃらの」
「利長だ」
目の前にあるのは、首なし武者を倒した滝川利長の愛用した鎧だという。
「あれが刀だ」
やや離れたところに日本刀が飾られていた。
「お久しぶりです、栗山さん」
刀に向かおうとした時、陶元さんに声がかかった。見ると三十歳くらいの痩せた男の人だ。眼鏡をかけて、スーツを着ている。
「ご無沙汰してすまんな。君たち、こちらはここの学芸員の高見くんだ。こちらは私の友だちだ」
陶元さんはあたしたちを友だちと紹介してくれた。
「あはは、若い友だちがいていいですね。高見謙介といいます」
高見さんはさわやかに笑った。あたしたちは自己紹介した。
「よろしく。それで栗山さん、用件というのは?」
「うむ。この鎧をくれ」
高見さんの顎がかくんと落ちた。
「く、くれって、そんなこと出来るわけないじゃないですか」
「じゃあ貸してくれ。たぶん無事で返す」
「たぶんって!」
つまり、首なし武者を退治するのにこの鎧を使おうというのだ。滝川利長愛用の鎧なら、なにかしらの霊験があるかもしれない。とは陶元さんの弁だ。
「頼む」
陶元さんは深く腰を折った。
「ちょっと、やめてください、栗山さん。なぜこの鎧が必要なんですか? わけを聞かせてください」
「わけを話せば貸してくれるか?」
「貸しません」
それでもあたしと小夜ちゃんはわけを話した。
「首なし武者、ですか」
高見さんは腕組みして難しい顔をしている。
「百物語にも載っとるぞ」
「五十しかないけどな」
立花のおじいさん、黙って!
「だからといって」
「首なし武者は榊原蔵左衛門直継だ」
「えっ、あの榊原直継が?」
さすが学芸員、知っているのだ。
「しかしなあ。栗山さんは見たんですか?」
「俺は見とらん」
「わしもだ」
「見たのはこの子たちだけなんでしょう?」
「俺は信じる」
「…………」
立花のおじいさん?
「とにかく貸せません。無理です」
「だったら高見くん、見に行こう」
「ええ?」
「おっ、面白そうだな」
「わたしたちも行きます!」
「うん!」
ガオウがいなけりゃ大変だ。
「なに言ってんだ、お前たちが夜中にうろうろしてたら、わしたちまで補導されちまう」
立花のおじいさんたちは補導じゃすまないと思うけどなー。
「高見くん、車は持っとるか?」
「持ってますけど」
「ちょうどいい」
「ええ? 僕が出すんですか?」
高見さんはうまく丸めこまれて、今晩見に行くことになったようだ。あたしたちは結局、一緒には連れて行ってもらえないことになった。
その夜、あたしは眠れなかった。スマホの時計は午前一時になろうとしている。
あたしは小夜ちゃんに電話した。小夜ちゃんはすぐに出た。
「行こう」
『うん』
待ち合わせの場所を決めて、あたしはそっとベッドを抜け出した。




