20 万事休す
「岩を譲ってくれだって?」
次の日の放課後、あたしと小夜ちゃんは香山建設を訪ねていた。社長さんと奥さんを前にして、以前と同じ応接ソファに座っている。
「それはできないなあ、気に入ってるからね」
「いいじゃない、あんな石」
「おい」
「でも、石はあげてもいいけどどうやって運ぶの? お金かかるわよ?」
「ちょっと待て」
「ふたりでリヤカーで運びます」
「ふたりでリヤカー!? それは無理だよ!」
「四人ならどうでしょう?」
小夜ちゃんが言った。立花のおじいさんと陶元さんに手伝わせる気だ。
「四人でも無理だよ。そもそも、なんであの岩が欲しいの?」
これも隠すわけにはいかないだろう。あたしと小夜ちゃんは眼を合わせてうなずきあった。
かくかくしかじかと説明する。
「く、首なし武者の幽霊……?」
「あはは! なかなか面白い話ね!」
社長は信じているのかいないのかはわからないが顔を青くした。しかし、奥さんは全く信じてない。
「本当なんです! 友だちが危ないんです!」
あたしは叫びにも似た声を出した。
「き、君たち! そ、そんなことあるわけないだろう! 俺を怖がらせようってイタズラか! 帰ってくれ!」
「あっ」
社長は勢いよく立ち上がると、どこかへ行ってしまった。
「またそんな話を思いついたら聞かせてね」
奥さんはにやにやしながら立ち上がろうとする。
「待ってください! 奥さんは岩が鳴く音を聞いたんでしょう!?」
あたしが言うと、奥さんは立ち上がりかけた身体をぴたっと止めた。
「そ、それは風の音よ」
そう言って立ち上がったが、顔は少し白くなった。奥さんは立ち上がったまま、あたしたちの方を向いて動こうとしない。もう帰れということだろう。
あたしと小夜ちゃんはしょんぼりと香山建設をあとにした。
「今度こそ手詰まりだ……」
小夜ちゃんがとぼとぼと自転車を押しながらつぶやいた。
「ダ、ダメだよ、諦めちゃ。きっとまだなにか方法があるよ」
あたしはそう言ったが、なにも思いつかない。ただ、桃ちゃんがいなくなるかと思って悲しくなるばかりだ。
「……う」
小夜ちゃんが呻いて顔を向けると、小夜ちゃんは泣いていた。涙がぽろぽろと眼からこぼれ落ちる。
「さ、小夜ちゃん、泣かないでよ、小夜ちゃんが――」
あたしはあとを続けられなかった。あたしの眼からも涙がこぼれたからだ。
高二にもなって恥ずかしいことだが、あたしと小夜ちゃんは泣きながら自転車を押したのだった。
◇◇◇◇
あたしと小夜ちゃんは気が抜けたように、翌日の学校を過ごしていた。
休み時間にラインの通知があることに気がついた。開いてみると、立花のおじいさんからだった。
――とうげんちにしゅうごう――
漢字変換しろ。
「小夜ちゃん、ライン」
「……んー?」
小夜ちゃんに立花のおじいさんのテキストを見せた。
「なんだろう?」
香山建設でのことはラインで知らせておいたから、なにかいい考えがあるのかもしれない。
「小夜ちゃん!」
「うん!」
あたしたちはそわそわと放課後を待った。