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18 百物語


「こんばんわー」


 カラカラと扉を開けた。素敵。


「おー、来たか」


 立花のおじいさんの声がした。


「おじゃましまーす」


 あたしと小夜ちゃんは靴を脱いで陶元さんのうちに上がった。

 応接間に行くと、立花のおじいさんと陶元さんがソファに座っていた。陶元さんはなんだか晴れやかな顔をしている。


「ああ、いらっしゃい。さ、座りなさい」


 陶元さんが言って、あたしと小夜ちゃんは長ソファに腰を下ろした。テーブルの上には立花のおじいさんと陶元さんの前にたぶん麦茶の入ったコップが置かれ、空のコップふたつとたぶん麦茶の入った汗っかきのガラス瓶が真ん中にあった。


「麦茶いただきまーす」

「どうぞ」


 あたしたちは遠慮を忘れてきていた。コップ半分ほどを一気に飲む。あたしたちは急いで来たので汗をかいていた。


「すみません。じゃあ、お話を聞かせていただいてよろしいですか?」


 小夜ちゃんが口を手の甲で拭って言った。


「うむ」


 と陶元さんがうなずいて、あたしたちは姿勢を正した。


「百物語といってな、怪談を集めた書物がある。江戸時代に庶民の間でそういうのが流行はやったのだ。で、この地方でもそれを真似た書物が作られていた」


 陶元さんは一冊の和綴じの本を持ち上げた。かなり古いもののようで、茶色く変色している。


「これは百物語と題されているが、話自体は百もない。五十ちょいだ。その中に――」

「百ないのに百物語とはおかしいじゃないか」


 立花のおじいさんが口を挟んだ。もっともだと思う。


「怪談集を百物語と呼んだんだ。先を続けるぞ」

「しかし」

「立花さん、今は陶元さんの話を聞こう。百物語の件はあとで一緒に厳しく追求すればいいし」


 あたしが言うと、立花のおじいさんは、そうだな、とうなずき、陶元さんは嫌そうな顔をした。


「続けるぞ。この本にある話だ。場所ははっきり書いてはいないんだが、ある竹林に首なしの侍の幽霊が出るという話がある」


 同じだ!


「その幽霊は害をなすので近隣の者は困っておった。そんな折、旅の僧侶がその幽霊を封じようということになった」


 出た! 旅の僧!


「僧侶は大きな岩を用意させ、その岩に首なし侍を倒したという侍の霊を宿らせた」

「首なし武者より強いんだ」


 小夜ちゃんが言った。


「まあそう考えていいだろうな。で、その岩を竹林に置いたら」

「首なし武者が出なくなった」


 あたしが言った。


「そういうことだ」


 陶元さんはうなずいた。

 思っていた通りでちょっと拍子抜けした感は否めないが、岩を戻すことの裏づけが取れたということでもある。やっぱりショッピングモールの荒川さんと香山建設の社長さんに協力してもらうしかない。などと考えていると、


「岩はどうやって運んだんですか?」


 と小夜ちゃんが尋ねた。リヤカーよりもいい方法がないかと期待したのだろうか。


「それはわからんな」


 小夜ちゃんは肩を落とした。


「これだけではなく、まだ続きがある」


 陶元さんの言葉にあたしと小夜ちゃんは顔を上げた。


「この百物語が書かれたのは江戸幕府が開かれておよそ百年後だ。書かれた年の五、六年前頃の出来事として記載されている。どういうことかわかるか?」

「んー?」


 算数なのか?


「江戸時代にこの辺りで侍同士の戦いはあったんですか?」


 小夜ちゃんがなんだか関係なさそうなことを言った。


「記録には残ってないな」

「じゃあ戦国時代の戦いで、首なし武者は首を切られたんですよね?」

「そうだろうな」

「百年以上経って、封印された……どうして倒した人がわかったんでしょう?」


 小夜ちゃんが言った時には、陶元さんは別の和綴じの本を掲げてこっちに表紙を向けていた。

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