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16 ショッピングモール


「あの、このショッピングモールの一番偉い人とお話をしたいんですが」

「はい?」


 インフォメーションセンターのキレイなお姉さんが笑顔で眼を丸くした。一番偉い人という表現なのか、その人に会いたいというのが制服姿の女子高生だからなのか、全然見当違いのところで聞いてしまったのか、そもそも一番偉い人に会わせろなどということがおかしいのか、理由はわからなかった。


「えーと、総支配人かしら?」


 その人が一番偉い人ならそうなのだろう。


「はい」


 小夜ちゃんが答えた。


「どういうご用件ですか?」

「あ、あの、社会の宿題で」


 あたしがこう言ったのは立花のおじいさんのせいだが、少し期待していた。


「あー、なるほど。ちょっと待ってね」


 やっぱり! 魔法の言葉か。

 キレイなお姉さんが受話器を取り上げ、女子高生とか社会の宿題とかJKなどと言っている。


「会ってくれるって」


 フランクな言葉使いになったのは、社会の宿題と聞いたからだろうか。


「あそこの通路の奥に関係者以外立ち入り禁止のドアがあるから、そこを入って二階。ドアにプレートがあるからすぐわかると思うよ」


 なんだか妙ににこにこするお姉さんに見送られて、トイレがある通路の奥にふたりで行った。


「ここだ、小夜ちゃん」


 関係者以外立ち入り禁止のプレート。


「なんだかドキドキするね」


 小夜ちゃんが言ってノックを二回した。


「失礼しまーす」


 とおそるおそるドアを開けるとすぐに階段があるだけだった。


「緊張して損した」


 小夜ちゃんが低い声で言って、ふたりで階段を登った。

 上がった先は真っ直ぐな通路で、左側にドアがいくつも並んでいる。誰かに会ったらどうしよう、などと無駄に緊張して進むと、総支配人室と書かれたプレートがあった。


「よーし」


 謎の気合いを入れた小夜ちゃんがドアをノックする。


「どうぞー」


 中から男の人の声がした。


「失礼しまーす」


 総支配人室は左奥にパソコンのディスプレイが乗った大きなデスク、真ん中に応接セットがあるだけの部屋だった。

 ワイシャツに斜めストライブのネクタイを締めた大柄な男の人が椅子から立ち上がった。顔は優しげだ。


「どうぞ、座ってください」


 ソファを手で示しながら歩いてくる。あたしたちがソファの前に来たところで、


「総支配人の荒川あらかわといいます」


 と名刺を差し出してきた。


「ありがとうございます」

「あ、どうもどうも」


 名刺の受け取り方など知らないが両手で受け取ると、


「総支配人 荒川道雄(みちお)


 とあった。

 あたしたちも自己紹介した。ソファに腰掛ける。


「で、社会の宿題なんだって? どんな話が聞きたいの?」


 なぜこうも社会の宿題に食いつくのか。荒川さんは身を乗り出してくる。


「えーと」


 ここはもう単刀直入にいくしかあるまい。変にごまかしてこじれても困る。


「駐車場に出る幽霊のことなんです」


 あたしは言った。


「あー、そのことか。なんだか噂になってるみたいなんだけど、困るんだよね!」


 荒川さんはどっかと背もたれに大きな身体を預けた。


「どこからそんなデマが沸いて出たのか」

「違うんです」

「違う?」

「幽霊はホントに出るんです」

「バカバカしい」

「わたしたちは見たんです、首なしの武者の幽霊を!」


 小夜ちゃんは大きな声を出した。荒川さんは驚いた顔をしたが、すぐに眉をひそめた。


「君たちはそんな話をしに来たのか? 帰ってくれ、そんな話に付き合っていられるほど暇じゃないんだ」


 荒川さんはソファから立ち上がった。


「待ってください!」

「ホ、ホントなんです!」

「話を聞いてください!」

「桃ちゃんが!」

「友人や、何人もが危ないんです!」


 あたしたちは口々に頼みこんだ。


「荒川さんしか、わたしたちには頼れる人がいないんです!」


 荒川さんはデスクに向かいかけた身体をぴたりと止めた。

 あたしはぎょっとして小夜ちゃんの横顔を見た。陶元さんや立花のおじいさんは?

 小夜ちゃんがあたしにひじ打ちしようとして空振りした。あ、そういうことか。


「はー、じゃあ話してごらん」


 荒川さんはため息をついて、ソファに座り直した。どうやら話を聞いてくれるようだ。

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