15 鳴く岩
あたしと小夜ちゃんが大きな声を出して立ち上がったので、髭の社長と女の人は驚いて身を引いた。髭の社長は片足が宙に浮いている。
「な、なに?」
「あ、す、すみません」
あたしと小夜ちゃんはあたふたと腰をおろした。驚きすぎてしまった。
しかし失われたと思った岩の所在がわかったのだ。これで桃ちゃんを助けられる――どうやって?
「あの、変なことを聞きますが、その岩が来てから、なにかおかしなことが起きたりしませんか?」
「おかしなこと? 特にないなあ」
「あの岩って夜中に変な音を出してない?」
女の人が言った。
「えー? いつ聞いたんだよ」
「夜中に庭に出た時」
「風の音じゃないのか?」
「うーん、風なんかなかったと思うけどなあ」
「どんな音だよ」
「人が唸るような、ううー、ううー、みたいな」
女の人は喉の奥から絞り出すような声で低く唸った。怖い!
「お、お前、そんなウソつくなよ」
髭の社長が声を震わせると女の人は可笑しそうに笑った。ウソかい!
「あの、おふたりは結婚してるんですか?」
小夜ちゃんがおずおずと尋ねた。
「そう」
「この人はこう見えて、すごく怖がりなの」
「やめろ」
「でも、音が聞こえたのは本当よ」
「やめろって!」
「工事現場から出た石が庭石になることがあるんですか?」
「そうだね、大きな石で形や色が面白ければ、造園業者なんかが買っていくこともたまにあるかな」
「あとは埋め立て地なんかに利用されるんですか?」
「それもあるけど、砕いて砂利にしたり」
「ほうほう」
うまくごまかして仕事の時間を無駄にさせたあと、あたしと小夜ちゃんは香山建設をあとにした。友達を救うためなんです! ごめんなさい!
ふたりはにこやかにあたしたちを送り出してくれた。
「岩のありかがわかったけど、これからどうすればいいのかな?」
自転車を押しながらあたしと小夜ちゃんは相談した。
「岩を元の場所に戻すとか?」
「どうやって動かすかもあれだけど、勝手に置いてもショッピングモールに撤去されちゃうよ」
「ショッピングモールに掛けあわなきゃならないのかー」
駐車場に幽霊が出るので岩を置かせてくださいって頼むことになる。信じてくれるかなー。
「それで出なくなるならいいんだけど、カクショーはないんだよねー」
幽霊相手に確証を求められてもなあ。
「あ、ラインで連絡しとこ」
小夜ちゃんが足を止めて、立花のおじいさんと陶元さんに岩のありかがわかったことを伝える間、あたしはどうしたものかと頭をひねったが、なにもアイディアはこぼれ落ちなかった。
◇◇◇◇
翌日の学校で小夜ちゃんと相談した。
「小夜ちゃん、やっぱり岩を戻さなきゃダメなんじゃないかな?」
「ということは、ショッピングモールと香山さんに話をしなきゃね」
「もし香山さんが岩を譲ってくれるとして、どうやって運ぶの?」
「うーん、どこかからリヤカーを借りて、ふたりで運ぼうよ」
小夜ちゃんは真顔だった。かなりでっかい岩だと思うが、リヤカーで運べるのだろうか。かなり距離がある。坂道だってあるし、道路も渡らなければならないだろう。
昔のピラミッドを作った人たちの心境が理解できた気がした。しかし、彼らはやりきったのだ。あたしたちもピラミッドを建てなければならない。
「じゃあ今日はショッピングモールに行こう」
小夜ちゃんが言って、あたしはうなずいた。




