13 新情報
「ほいほーい、買ってきたよー」
ホームセンターから戻ってきた小夜ちゃんが水の入ったビニール袋を掲げた。三匹の小さな赤い金魚が入っている。形はフナに似ていた。小夜ちゃんにスマホで連絡して買ってきてもらったのだ。
「大丈夫かなぁ?」
心配そうな声を出す小夜ちゃんから、あたしはビニール袋を受け取った。池に放して生きていけるかわからないので買ったのは三匹だけだ。この子たちは実験台なのだ。南無。
三人で池に行って、あたしはビニール袋を傾けた。どぼどぼと水がこぼれ、金魚は池に落ちていった。金魚はすぐに緑色の水に潜って見えなくなった。
「頼むよ、お前たち」
そのあとは玄関扉の修理だ。立花のおじいさんに教わって、あたしと小夜ちゃんで取り付けた。自分たちでやりたかったのだ。
扉をはめ込むのもあたしと小夜ちゃんでやった。ふたりで扉を持って、息を合わせる。がちゃんとはまって動かすと、扉はカラカラとスムーズに動いた。
「やった!」
立花のおじいさんを入れて、あたしたちはハイタッチで喜びあった。
「あ、そうそう。わしがここに来たのは嬢ちゃんたちに話があったからだった。休憩がてら中で話そう」
立花のおじいさんがカラカラと玄関を開けた。なんだか嬉しくて、小夜ちゃんとふたりでくすくす笑った。
「なにか冷たいものでも出してくれ」
立花のおじいさんはソファにどっかと座った。
「はーい」
と小夜ちゃんが台所に入っていく。あたしもあとを追ったが人のうちの台所というのはどうも落ち着かない。
「麦茶出してー」
コップを用意しながら小夜ちゃんが言った。お昼を作ったからか、慣れた様子だ。
人のうちの冷蔵庫を開けるのは台所に入るよりも気まずい。あたしはちょっと古びた冷蔵庫をおそるおそる開けた。ほとんどなにもない。小夜ちゃんが作ったお昼の残りの材料があるくらいではないか。食事は大丈夫なのかな、といらぬ心配をしながら、ドアの下の方にある麦茶のガラス瓶を取り出した。
「おーい! 休憩にしよう!」
立花のおじいさんが大声を出したのは陶元さんを呼んだのだろう。麦茶のコップを応接テーブルに置くと、陶元さんがやってきた。頭にタオルの鉢巻きをしている。
「色々やってくれているようだな。ありがとう。煙には火事かと思って驚かされたがな」
陶元さんはソファに座った。蚊取り線香のことかー。
「それで、話というのはなんですか?」
四人が席に着くと小夜ちゃんが言った。
「ああ、この間、寺沢のうちで話しただろう」
立花のおじいさんは水滴が付き始めたコップを置いた。寺沢さんは豪邸の元地主さんだ。
「嬢ちゃんたちは岩だか祠だかを気にしていただろ? 業者が持っていったっていう。その業者だ」
「わかったんですか?」
大きな工事になると元請けとか下請けとかで、なんだかややこしいことになるようだ。そんなことを立花のおじいさんが話したあと、
「いやー、苦労したぞ」
と二つ折りの紙をズボンのポケットから取り出して、応接テーブルの上で広げた。恩着せがましいと感じたあたしの心は、きっと庭の池のように濁っているのだろう。
「ありがとうございます」
小夜ちゃんとふたりでのぞき込む。
「かやま?」
「香山だ」
香山建設という会社名と電話番号、所在地が、奇麗な字で広げた紙に記されていた。
「ここで聞けば岩がどうなったかわかるのか……」
「どこかに埋め立てられちまったかもしれないけどな。明日はちょっと付き合うことができないんだ。明後日なら一緒に行けるぞ」
桃ちゃんにいくら時間が残されているのかわからない。手がかりが見つかった以上は、あたしたちに悠長にしている時間はなかった。
「だ、大丈夫。ふたりで明日の放課後行ってみる」
「うん」
小夜ちゃんも力強くうなずく。
「俺がついていこうか?」
陶元さんが袂に腕を入れる腕組みのまま言った。ありがたい申し出だけど、
「いえ、わたしたちだけで大丈夫です。陶元さんは調査を続けてください」
小夜ちゃんが言って、あたしもうなずいた。
しばらくしてあたしと小夜ちゃんは陶元さんのうちをお暇した。立花のおじいさんは残っていた。調査の邪魔だから早く帰れ。




