12 お礼2
「起きなよ。もう夜だよ」
小夜ちゃんに揺さぶられて驚いて飛び起きた。あたしはいつの間にかごろんとソファに横になっていた。慌てて外を見ると昼間のように明るい。小夜ちゃんに目を戻すとおなかを抱えて笑っているではないか。まだ昼間だったのだ。
「もうー」
あたしはよだれを手の甲で拭うと小夜ちゃんを睨みつけた。
「ごめんごめん、あんまり気持ちよさそうに寝てたからつい」
「ひどいよ」
と言いつつもおかげで目が覚めた。あたしたちは草刈り作業を再開した。
雑草は三時半頃には全部刈ってしまった。池は深緑色に濁っていた。ボウフラは水辺に棲むのでこれをなんとかしなければ蚊の繁殖を抑えられない。とはいえ今回はなにも考えてなかったので機会があったらなんとかしよう。
問題は玄関のガタピシだ。この扉が素早く動かないと蚊が入るではないか。しからばなぜ扉はガタピシなのか。あたしと小夜ちゃんは考えた。扉の下にあるコロコロ転がるやつが壊れているのだろうということで意見の一致をみた。戸車というやつだ。だとすれば扉を外さなければならない。どうやって外すのだ? あたしと小夜ちゃんが激しい議論を戦わせていると、
「おー、綺麗になったな!」
門の方から声がした。見ると立花のジジイ、もとい、おじいさんだ。昨日はちょっと怒りにまかせてひどい呼び名をしてしまった。反省。
「で、なにをもめてるんだ?」
「あ、立花さん、こんにちは」
「玄関の修理をしようと思ってるんですけど、外し方がわからなくって」
「なんだ、そんなことか」
立花のおじいさんは玄関扉の上の方をちょっと確認したあと、
「よっ」
と玄関扉を持ち上げ、下の方から抜くようにして、いとも簡単に外してしまった。
「ちょっとちょっと!」
あたしは慌てた。このままでは蚊が家に入り放題ではないか!
あたしは蚊取り線香を折っては火をつけ、上がり框にふたつの受け皿を置いた。もうもうと煙が立ちこめる。
「これでよし」
あたしの奮闘をよそに、小夜ちゃんと立花のおじいさんは、横にした玄関扉の底を調べていた。
「ここだ」
「あー、金具が折れちゃってる」
「交換するしかないぞ」
あたしは折った蚊取り線香を持ってのぞきにいった。コロコロを支える金属が、ぽっきり切断されて曲がっている。これでは戸車の役目をしないだろう。
「ドライバーあるか?」
「うん、用意してきた」
立花のおじいさんが外した壊れた戸車を持って、小夜ちゃんが自転車でホームセンターへ向かった。新しいものを買ってくるのだ。
「立花さん、池をなんとかしたいんだけど」
残ったあたしは緑色に濁った池のことを思い出した。
「どれ」
ふたりで池のそばにいった。
「このままだと蚊が増えるばっかりだから」
「蚊に親でも殺されたか?」
「うん、ふたりともミイラにされちゃって」
「それじゃあ仇を討たなきゃな」
立花のおじいさんはちょっとだけ笑ってそう言った。
「なにか飼ってるのかな?」
「聞いたことないな。いそうにもない。水を抜くか?」
この池はどこからか水を引いているようには見えない。きっと雨水が溜まっているのだろう。抜いてもそのうち溜まってくるかもしれない。
「金魚」
ふと口から出た。金魚を放てば憎き蚊の幼虫、ボウフラを食べてくれるのではないか。
「え、どこだ?」
立花のおじいさんは池をのぞきこんだ。そうじゃない。
「金魚を飼えばボウフラを食べて、蚊が出なくなるかも」
「ああ、そういうことか。じゃあメダカでもいいな」
「メダカか!」
金魚やメダカをどうやって手に入れようか。野生の金魚はいないだろうが、メダカならいるのかも。
「……ひょっとして、本当にミイラにされたのか?」
立花のおじいさんが、心配そうな顔をしてあたしを見つめた。




