10 助っ人
「首なし武者の幽霊って、そんなおめえ」
頼りになると思ったのは間違いだった。お腹を抱える立花のジジイを見ながらあたしは後悔している。
あたしたちはすべてを話したのだ。首なし武者を見たこと。友達が首なし武者に祟られて入院していること。立花のジジイに聞いた、ショッピングモールが建つ前にあった岩が原因だと思っていること。
信じがたいことだとは思うが、そこまで笑わなくてもいいじゃないか! とあたしが憤っていると、
「ふむ、なかなか興味深い」
深くうなずいたのは陶元さんだ。
「はあ? 幽霊話だぞ?」
「いにしえの書物を紐解けばそんな話はいくらでもある。そんなことも知らんのか」
「いや、だからといって――」
「よし、決めたぞ。俺はこの子たちを手伝う。こんな老いぼれになにができるかもわからんが、力を尽くそう」
陶元さんは力強く言ってくれた。
「暇なのか?」
「まあな」
立花のジジイの問いに、陶元さんは真面目な顔をしてうなずいた。暇だろうが忙しかろうがあたしたちにとっては願ったり叶ったりだ。
「ありがとうございます!」
あたしと小夜ちゃんは深く頭を下げる。
「やれやれ、それじゃあわしも、ごめんなすって、というわけにはいかないな」
立花のジジイがため息をついた。
「さっそく俺は書物を当たろう。お前は茶でも淹れてくれ」
陶元さんはソファから立ち上がり奥の部屋へ消え、立花のジジイは、へえへえ、とまた違う部屋へ行った。
「手伝います」
と小夜ちゃんが立花のジジイを追ったので、あたしは陶元さんを手伝うことにした。
陶元さんの消えた方へおそるおそる進んで行くと、開けっ放しの部屋の中に陶元さんの姿を見つけた。
「あのー、なにかお手伝いできることは――」
と中を覗いて驚いた。
「うわっ、すごい!」
恐るべき本の数である。本棚に入りきれない分は床に直接置いてあったりしてそこら中本だらけだ。
「ん?」
本棚の前に立ってなにやら選りだしていた陶元さんが、あたしに顔を向けた。
「あ、なにかお手伝いできることはないかと」
「ああ、じゃあこの本の内容をざっと見てくれ」
と古びた和綴じの本を手渡してきた。
「はい」
と受け取り開くと、
「うっ」
ミミズののたくったような毛筆の字で一字も読めない。
「なんだ、読めんのか?」
陶元さんが眼鏡の上からじろりとにらみつけてきた。
「いやあ、その、あっ、コンタクトずれちゃった!」
ウソである。
「はっはっは。冗談だ。普通の人は読めんわな」
陶元さんの笑った顔を初めて見た。意外とお茶目なところがあるな。
「もー」
「すまんすまん。君にはインターネットで調べてもらおうか。まあ望みは薄そうだがな。隣の部屋にあるから自由に使ってくれて構わんよ」
へえー、割と高齢だと思うがパソコンを使えるのかと感心した。
陶元さんのパソコンを借りて、思いつく限りの検索ワードで調べたがそれらしい情報はヒットしなかった。
五時を少し過ぎてから小夜ちゃんとふたりでお暇した。立花のジジイはまだ残るようだ。家を出る前に、なにかわかったら教えてもらうために電話番号を交換した。ついでに立花のジジイのも。
家に帰ってからはお風呂に入ってからすぐ寝てしまった。初めての人にたくさん会ったし移動距離も長かったので、心身ともにへとへとだ。しかしなんだか気持ちのいい疲れだった。




