1.絶望
「ごめんなさい、私賢人さんとはもう付き合えないの…」
彼女だった女が目の前で両手を合わせて謝りウインクする。
「そういう事だ、諦めな。お前に彼女が惚れるわけないだろ」
すると隣にいたいけ好かない同僚が彼女の肩を組んで自分の方へと引き寄せた。
親しげな様子から昨日今日仲良くなった感じでは無さそうだ。
きっと自分と付き合っていた頃からの関係なんだろう。
「じゃあ今までありがとう。さよなら」
彼女は笑って手を振ると同僚と消えていった。
その場に自分一人ポツンと残されていた…
「はぁ…」
賢人は通帳を見つめてため息をつく、そこには貯金残高50000円となっていた。
今年で30歳の賢人は彼女がいた事が無かった。
30歳にて初めて出来た彼女に今まで貯めていたお金を捧げた。
「賢人さんとはいつか一緒になれたらいいね…」
「私…結婚するまではそういう関係になれないの」
初めての彼女の言葉を鵜呑みにして彼女の為にお金を使った。
そしてとうとう金が無くなりそうになり最後の金を使って安いが指輪を買った。
その指輪でプロポーズをする為だ。
しかし結果は見ての通り、もう金が無いとわかったのか同僚の男を連れてきて別れてくれと…
「クソっ!」
賢人は指輪の箱を地面に叩きつけようと振りかぶった。
しかし悔しそうに手を下ろして指輪をショルダーバッグにしまう。
もうお金が無いのだ、これも売って金にしないと…
両親は早くに亡くなってもういない、自分には金を借りられる相手もいないのだ。
「……」
賢人は絶望の中、指輪を換金してくれるお店を探がす事にした。
携帯を取り出して歩きながら検索すると…
ストーン!
何か踏み外して下に落ちる。
「え?」
賢人はそのまま真っ逆さまに落ちて行った。
「んっ…」
賢人は目が覚めると森の中で倒れていた…
「へ?え?あれ?」
周りを確認するように見渡すが全部草、木、土…自分がいた場所とは明らかに違う。
「なんで俺こんなところに?」
自分を見るとスーツにいつもの仕事用のスーツに黒のショルダーバッグ、中にはパソコンが入っていた。
いつも通りの持ち物に少しホッとするが奥からあの指輪のケースが出てきて現実に引き戻された。
「あっ!携帯!」
携帯を探すが何処にもない、近くに置いてないかとくまなく探して見るが何処にもなかった。
落ちた時にどこかに放り投げてしまったようだ。
誰にも連絡出来ないのか…
賢人はハッとしてパソコンを開いて見ると電源が入っている。
よかった、これで誰かにメールすれば…
賢人がメール画面を開くと「ピロン」ちょうどメールが届いた。
「はっ?tennokunkara.mail.comなんだこのふざけたアドレスは」
詐欺メールだろうとゴミ箱に捨てようとするがカーソルをゴミ箱にしても捨てられなかった。
「え?なにこれ…」
「ピロン、ピロン」
すると続けざまにメールが届く。
無視して他のアドレスにメールを送ろうとするが何も反応しない。
「まさかウイルス…」
サーッと顔が青くなる。
自分のいる場所もよくわかってないのに携帯もなく、助けのパソコンが使えないとなると絶望的だ。
「うう…」
賢人はダメ元で先程届いたメールを開いた、すると問題なく開ける。
「なんでこれだけ」
意味がわからないがとりあえず中身を確認してみる。
詐欺でも通じるのかこれならここで誰かと連絡を取るしかない。
「えっと…はっ?」
賢人は中身の文を読んで思わず声を漏らした。
そこにはこう書かれていた。
『山田賢人様
この度はご愁傷さまでした。あなたの望みが叶う場所へと転移しました。パソコンは充電の必要の無いようになっております。その他説明は次のメールにて送付しておりますので確認のほどよろしくお願いします。では第二の人生をお楽しみ下さい 神より』
「………」
賢人は何度も何度もメールを読み直すが毎回同じ内容だった。
「望み通り?何か望んだっけ?」
目を瞑って考えるとある事が浮かんできた。
そういえば穴に落ちた時に声が聞こえたような…
でも必死で叫んでてよく聞いて無かった。
その時は自分を裏切らない女が欲しいかったって叫んだけど…
彼女どころか人っ子一人いないんですけど…
賢人は青々と生い茂る草むらの中でまた一人ポツンと立っていた。