105 唯、夏の理由を知る。
「ぷはーっ。」
…飲んだわけじゃないからね、顔を洗っただけだからね。
実は泳げない私にとって、顔を洗うことはちょっぴり冒険だったりする。
―――呼吸のタイミングが…どうもわからないんだよね…。
昔、友だちに相談したら大爆笑されたんだけど、私にとっては至って真剣な悩み。
鼻で呼吸すると入ってきちゃいそうだし、口を開けるのも難しいし…目はもちろん怖くて開けれないし…。
それはさておき。
「良い匂いがする!」
お魚が焼けた香ばしい匂い、お味噌の優しい香り…食欲をそそる梅干しの…。
我慢できずにテトテトと駆けだした私。
ごはん、ごはん。
『ぷや!』
「おいしいですか?」
『ぷやや!』
「そうですか!よかった…。」
すっかりプラちゃんにメロメロなガーネット姫。
あーんしてあげてるし、これジャイアントさんがみたら嫉妬するんじゃ…。
「ガーちゃん、ありがとね。」
「いえ。今日は大根のお味噌汁です。お魚の骨、ある程度はとっていますが…食べるとき気をつけてくださいね。」
「はーい。いただきまーす!」
ごはん作ってもらって、お魚の骨までとってもらって…立場が完全にプラちゃんと一緒な私。
もうこのままあーんもしてもらおうかな…。
なんて冗談はさておいて、お味噌汁を一口。
「おいしい!沁みるわぁー。」
「ふふふっ、ユイ…ふふふっ。」
「?」
よくわかんないけど、とっても楽しい朝ごはんです。
『ぴよ!』―――おいしいー!
『ぷややー!』
■
「よいしょっと…。ユイ、寝袋は私が持っていても大丈夫ですか?」
「えーっと…うん、大丈夫。」
私が持ってると、間違いなく無くしちゃうし。
「はい。」
テントの片づけをしてくれてるガーネット姫、お皿とキッチンの片づけをしてる私。
だいたい魔法でなんとかなっちゃうこの世界、汚れだって魔法でひょい。
―――なんて便利…。
ますますズボラ加速中な私。
またまた思考を読まれたみたいで、フリルさまからジト目な視線がとんできた…。
それを口笛で受け流して、ちょっと気になってたことを聞いてみた。
「ねぇねぇ、フリルちゃん?」
『ぴよ』―――なぁに?
『ぴよよ!?』―――ボ、ボクのお魚ならあげないよ!?
大慌てで必死にお魚を3匹くわえたフリルさま。
食欲大暴走の私だけど、さすがにフリルさまの分まで取っちゃおうとは思ってない。
「そ…そうじゃなくてね。あのさ、ハナミズキ・タウンが暑いのって、やっぱりフリルちゃんのお友だちが関係してるの?」
『ぴよ?』―――どゆこと?
小首を傾げたフリルさま。
雪たくさんなタケノコの村、春らしい陽気につつまれてた王都…そして熱気あふれる真夏のハナミズキ・タウン。
四季がころころ変わりまくるこの世界、とっても不思議だけど…理由の一端はこの前教えてもらった。
「フリルちゃんの力が、冬の力だから…タケノコの町の周りには雪が降ってるんだよね?」
『ぴよ』―――うん。そだよ。
たしか正確にはフリルさまのもとになった魔法柱、それが冬の力をもってて…えーっと…。
なんかそんな感じで、雪が降ってたはず。
「ハナミズキ・タウン、とっても暑くて夏みたいな感じだし、もしかしたら夏の力を持ってる 鶯遷の三鳥 が関係してるのかなー、なんて思ったりして。」
『ぴよよ』―――ユイちゃんにしては鋭いね!
「ですね。私、そんなこと考えもしませんでした。」
テントの部品を片手に、コクコクと頷いてるガーネット姫。
褒められてる…んだよね?
「…。」
『ぴよぴよ』―――でも、ボクたちは関係ないよ。それに夏の力は…。えっとね、ハナミズキ・タウンが暑いのは、もともとなんだ。
「そうなんだ。って…もともと?」
『ぴよ』―――うん。ガーネットちゃん、知ってる?
「いえ…私、存じません。」
首を振ったガーネット姫。
王国の歴史にはかなり詳しいガーネット姫。
お姫さまだからと言われればそうなんだけど、そのガーネット姫ですら知らないとなると…。
―――大昔の話なのかな?
珍しくさえてる私。
自分で言うのもなんだけど…。
『ぴよよ』―――そっか、じゃあ説明するね。この前さ、魔法柱とか大賢者さまとかのお話したじゃん?
「うん。」
ユイのちゃちゃっと解説シリーズ第一弾。
昔むかしこの世界に「魔法柱」というものがあって、とてつもない力を秘めてた。
それを昔の人たちが活用して、文明の基礎を築いた。
でも、魔法柱はすごすぎるから、悪用されないように幾重にも守りをしいたんだけど…その防御システムが暴走しちゃった。
そこで大賢者さまは、暴走を繰り返さないために…魔法柱の力を鳥の姿に変えた。
それがフリルさまたち、鶯遷の三鳥…なのです。
『ぴよよ』―――まだ魔法柱があった頃はね、この王国があるあたりはずーっと夏だったの。
「ずっと暑かったってこと?」
『ぴよ』―――うん。本当かどうかは知らないけど、大賢者さまはそう言ってたよ。
「常夏の土地だったんだね。」
「初めて聞きました。そんな歴史が。」
ちょっと語彙力あるところを見せたつもりなんだけど、見事にスルーされた私。
コホン…もとの世界でも、ずーっと夏日な国とかあった。
この世界も、昔はそんな感じだったみたい。
『ぴよよ』―――だから、ボクたち三鳥の力が及んでいる場所は…季節が変わってるんだけど、ここは昔のまんまってことだね。
「ふぇー。じゃあ、ハナミズキ・タウンにはフリルちゃんたちの力、届いてないんだ。」
『ぴよ』―――そだね。だから、カエデの町からこっちへの街道、強いモンスターがたくさんいたんだよ。
「なるほどね。じゃあ、プラちゃん、よくここまで無事だったよね。」
モンスターの世界は弱肉強食。
強いモンスターが跋扈しているフィールドでは、プライアントはその辺の小石みたく吹っ飛ばされちゃう。
一番近い出現エリアからも結構距離があるし…。
「ですね。プラちゃん、怖くなかったですか?」
『ぷやや?』
「そうですか。」
「…ガーちゃん、なんて言ってるかわかるの?」
「いえ、まったく。」
すがすがしいほどの一言。
なんならちょっとどや顔なガーネット姫。
「フリルちゃん、翻訳してよー。」
『ぴよよ』―――ボクもわかんない。
「あらら…。」
言語の壁、ここに出現。




