103 唯、星空を見上げる。
浜辺に置かれてたベンチに陣取った私たち。
茜色の空、徐々に長くなってきた影。波のザバーンって音と、ビーチパラソルが風でバサバサとなびく音…なんだかノスタルジックなハーモニーを奏でてる。
―――むにゃ…おなかいっぱい…。
芸術的センスよりも、やっぱり先にたった食欲と睡眠欲。
山のようなカレーを飲み…食欲の次は睡眠欲ということで、もう目がしょぼしょぼしてきた。
ガーネット姫に少し寄りかかってるけど、寝てはない。寝ては…ない…。
『ぴよよ』―――ユイちゃん?
「ふぁい…。」
ところで山みたいだったカレー、さすがに食べきれなかったんだけど…思わぬ人が助太刀してくれた。
「カレー、おいしかったねー!」
「カノンさん…ありがとうございました。」
「こちらこそ。本当に良いの?お金。」
「はい。私が頼んだカレーですし…。」
そう、カノンさん。
私がカレーの山を見つめてるのを見て…心配してくれたみたい。
―――普段ならなんてことない量なんだけど…夏バテかな?
数十分で夏バテになるとは思えないけど…。
『ぴよぴよ』―――あれだけ食べてたら…そりゃおなかいっぱいになるよ…。
「…。」
うっ…どうやらフリルさまにはバレてたみたい。
実は原因明白で、カエデの町でお魚を買いに行った道中、おなか空いちゃって…いろいろとつまみ食いをしてた。
かりんとうみたいなお菓子1袋と、とっておいたお団子を3本…あとりんごも1つ食べたっけ…。
『ぴよ…』―――…。
「…。」
「ところで、ユイちゃんたちは今夜、どうするの?ハナミズキには宿屋さんないけど…。」
「…!?そ、そうでした!どうしましょう!?」
泡を食っちゃったガーネット姫。
そういう私も…何にも考えてなかった。
「ハナミズキ街道の方に行けば、宿屋さんあるけど…。もしあれだったら、キャンプ場があるよ?」
「キャンプ…ですか?」
「うん。ギルド出張所の裏手、キャンプ場になってるんだ。出張所でキャンプセットも借りれるし、シャワーとかも貸してもらえるよ。今はお祭りのシーズンじゃないし、普通に開いてるはず。」
それを聞いて、眠気はすっかり明後日の方向へと飛び去った。
良いこと教えてもらっちゃった。
「…あ!もうこんな時間じゃん。じゃあ、私これで。またタケノコの村にもよってね!待ってるからー!」
「はーい!」
夕陽が粘り腰を発揮するなか、ハナミズキ街道へと駆けだしたカノンさん。
手をふりふりして見送る私たち。
「…カノンさん、楽しそうですね。」
「うん。私も…落ち着いたら、ヒマワリの町に住もうかな?」
それも良いかなって思い始めた今日このごろ。
まぁ、せっかくのバグステータスだし…魔王軍だけはベシベシしてからだけどね。
ぐへへ。
『ぴよ』―――ユイちゃん…顔、怖い…。
そんなこんなでギルド出張所へと直行した私たち。
キャンプなんて小学生のとき以来、テンションが急上昇。
―――憧れるけど…なかなかできないことだもんね。
キャンプで作るカレーとか、火をおこして焼くお魚とか…石窯とかも作っちゃおうかな。
ピザ…ピッツアも良いよね。
慣れない発音を意識するほどに、思考が山のような食欲に覆われてきた。
さっきあんなに食べたけど、キャンプとなれば別腹ですよ。うん。
―――よし…まずはテントを。
こっちを引っ張って…それでこの棒でとめといて…ふわっ!?
■
テントやら仮設キッチンやら…組み立て方がよくわかんなかったけど、力業でなんとかなった。
―――途中…バキってなって、フリルちゃんに直してもらったけど…。
誰にだって失敗はあるもん。
ちょっとだけ格好良いことをいって、ハンマーの柄を折っちゃったことの正当化を試みた私。
普通に振ったつもりなんだけど、地面はえぐれちゃったし、釘みたいな部品もひしゃげちゃったし…さんざん。
そんな悲劇はさておいて…周りにモンスターもいなさそうだし、天気もばっちり。
そのまま丁度良い感じの切り株を発見して、ちょこんと休憩スタート。
「ユイ。夜ごはん、私が作りますから、テントで休んでてください。」
「ガーちゃん、いいの?」
たしかに私、お姫さまに食べてもらえるようなものは…作れないけど、さすがに申し訳ない気がする。
…料理はできるからね、うん。
ちょっと火加減が苦手なのと、味付けが独創的なだけだから。
『ぴよよ…』―――それを料理がへ…いや、なんでもないぴよ。
「…。」
下手じゃないもん、苦手なだけだもん…。
「自炊もできないと、一人前の冒険者とは言えませんからね。」
「そっか…うん、わかった。何かあったらすぐ呼んでね。」
「ありがとうございます。」
というわけで、テントの入口あたりで休ませてもらうことにした私。
仮設キッチンも見える位置だし、突然モンスターとか出てきてもなんとかなる。
「きゃっ!?」
「!?」
まばたきしたその瞬間、ガーネット姫の悲鳴が聞こえた。
何事かと飛び上がって、ドタドタと駆けつけた私。
「大丈夫っ!?」
「は、はい。えっと…プライアントちゃんが…。」
「プライアント…?」
ガーネット姫の視線の先には、食後のデザートにと用意しておいたリンゴがふたつ。
その隣に、もぞもぞと動く…わらびもち?
ぷにゅぷにゅとした水色…半透明で、つるつるしてる。
『ぴよよ』―――あれ?プライアントだ。
「…あ、プライアント!」
やっと思い出した。
そうだ、スラ○ムみたいなモンスターだ。
ヒマワリの町の周囲ではよく見かけてたけど、最近は魔王軍とばっかり戦ってて…忘れてた。
『ぷや?』
「…か、かわいい…。」
きょとんとしたおめめにおちょぼ口…ガーネット姫の目がハートになってる。
たしかにかわいいけど…モンスターだよね。
「あの…ガーちゃん、大丈夫なの?そんな近づいて…。」
ずんずんと距離をつめるガーネット姫。
プライアントはぽやんとした表情のままだけど、流石に危なくないのかな。
「プライアントは基本、攻撃をしてきません。人懐っこい性格ですし、討伐依頼が出されることもまれです。」
「そうなんだ。」
『ぴよよ』―――モンスターに分類されないこともあるんだよ。
「ふぇー。」
そうとわかれば私も。
こんなにキュートな見た目、それで人懐っこいとくれば…いくらモンスターに恐れられまくってる私でも、大丈夫なはず。
ガーネット姫をまねて、りんごを片手にふりふり。
「こっちおいで。」
『ぷゆゆ?』
りんごにつられたプライアントは、ポンポンと鞠みたいに跳ねながら、こっちへ近づいてきた。
あとちょっと。
『ぷや!』
「あ…。」
りんごに頬ずりしてる…かわいい。




