102 唯、海と山を見る。
「海だーっ!」
キラキラの海に向かって、想定の倍くらいの大声で叫んじゃった…。
驚かせちゃってごめんなさい…どうも、泳げないけど海は大好き、22歳のユイです。
「キレイですね…!キラキラしてます、輝いてます!宝石みたい…。」
ガーネット姫による、かわいらしい情景描写に圧倒された私。
もとの世界では小説家を目指してたはずなんだけど…。
コホン…それはさておき。
ここは「ハナミズキ・タウン」。
大海原をのぞむ浜辺の町で、漁師さんの町としても知られてる。
ガーネット姫曰く、この国で消費される魚介類、そのほとんどがハナミズキ・タウン産だそう。
―――おさかな…おさかな。
すっかり食欲に思考が染まった私。
この世界にお刺身はないらしいけど、お魚は煮ても焼いてもおいしいもんね。
ぐぎゅーぅるるる…。
―――…。
私のおなかにすみつく、とっても大きな虫さん。
「ユイ、何か食べましょうか。」
「…う、うん。」
『ぴよぴよ』―――おさかなー、おさかなー!
私そっくり、食べ物に勢いよく反応した水色のもふもふ。
氷をパリンって割って、空中へ飛び出した。
■
どこまでも続くような砂浜を眺めつつ、町の中心街へと向かった私たち。
海までは…どうだろう、50メートルくらいかな…サラサラとした砂浜で、ところどころにビーチパラソルがたってる。
―――浮き輪…あるかな?
ライフジャケットみたいなのは見かけたし、きっと大丈夫。
子ども扱いされることの多い私だけど、浮き輪を買うときだけは…ちょっとだけありがたかったりする。
…メンタル的にね。
ちなみにバグステータスでもって泳げるようになってないかな…なんて、淡い期待を抱いてはいるんだけど…さすがに無理だよね。
「ユイ、カレーがありますよ!」
「カレー!」
食べます、食べます。
夏といえばカレーだよね。
暑い季節にスパイスたっぷり、ピリ辛カレーライス。
夏の定番、アイラブサマー。
「いらっしゃい!」
元気の良い声に迎えられた私たち。
スパイスの香りがただよう店内、シーフードな香りもあいまって…よだれがとまりましぇん。
日差しがないぶん、少ししのぎやすくなった室内で、ゆったりまったりメニューをながめる。
「シーフードカレーとおさかなカレー、あと海の幸カレーがあるみたいですね。」
「そだね…え?」
シーフード…おさかな…海の幸…。
な、なにが違うんだろう。
「私は海の幸カレーに…あぁでも、シーフードカレーも捨てがたいですよね…迷います…。」
「いや、えっと…。」
迷わなくて良いと思う。
たぶん、一緒…。
「決めました!海の幸カレーにします。初志貫徹です!」
「じゃあ…私もおんなじのにしよ。」
ツッコんではいけない謎の雰囲気を感じつつ、「海の幸カレー」をふたつ注文した私たち。
超特盛があったので、私はそっち。
―――す…すごい視線を感じる…。
フリルさまのジト目の圧をもろに受けつつ、とっておきのお魚を献上して中和をはかる。
『ぴよ…』―――仕方なし…。
よかった…買収成功。
■
「お待たせしました。シーフー…ん?海の幸…?えっと…カレーでーす。」
絶対店員さんも区別ついてないよね、これ。
そんなことより…。
「わぁ!おいしそうです!ありがとうございます。」
「ありがとう…ございま…す…。」
ルンルンなガーネット姫、お魚食べれてゴキゲンなフリルさま…超特盛の大きさに困惑する私。
なんだろう…「山」かなこれ。
向かい合って座ってるはずなんだけど、カレーの山に隠れてガーネット姫のカレーが見えない。
―――た…食べきれるの…かな?
さすがに諦めて、一部テイクアウトをお願いしようと思ったその時。
「ふへぁ…暑い…。ん?ユイちゃん?」
「はい…あ、カノンさん!」
またまた出会ったカノンさん。
ヒマワリの町でもお世話になったし、タケノコの村でもお世話になった。
タケノコの村で人助け…村助け?かな…をしている、とっても心優しい冒険者さんだ。
「カノンさん、ご無沙汰しております。」
「ガーネットひ…えっと…ガーネットさん。どうもです。」
『ぴよ!』―――こんにちは!
「フリルさ…じゃなくて、フリルさん。ご機嫌麗しゅう…。」
お姫さまと「鶯遷の三鳥」を前にして、てんやわんやのカノンさん。
そう、これが普通なはず。
私の距離感覚が、ちとおかしいだけ…。
「今日はどうされたのですか?」
「えっと…魚を村の人たちに頼まれまして。でも、なんだか魚があんまりとれないらしくて…いつもの倍くらいまで値段があがってましたね。」
お魚とれない問題の影響がもろに出てた。
「そうなんです。うちのカレーも値上げしなきゃいけないかもで…。」
話にするりと入ってきた店員さんも、困り顔。
これはますます、なんとかしなきゃいけなくなった。
まずは情報収集…ということで、店員さんにききこみ開始。
「お魚とれなくなったのって、何か理由があるんですか?」
「私はあんまり詳しくなくて…あ、店長!」
「どうしたー?」
呼ばれて登場の店長さん。
角刈りにはちまき姿、ぴっちりな黒色ティーシャツには「カレーは飲み物」と…どでかく書かれてる。
服のセンスは賛否両論として、書いてあることには全面的に同意する私。
そう、カレーは飲み物なのです。
「魚があがらなくなった理由をお知りになりたいそうで。」
「あぁ、そうでしたかい。私もよくわからんのですが、漁師をやってるじいさまによると…魚が怖がっちまってる…らしいですよ。海になんか出たんじゃないかと噂にはなってますが…なんとも言えないですね。ささ、冷めないうちにどうぞ!」
やっぱりモンスターが暴れてるっぽいね。
よしよし、モンスターの問題ならバグステータスの管轄。
さてと…。
「ありがとうございます。いただきます。」
「はい…い、いただきます。」
山に挑んだ私。




