友達の幼馴染を観察。
※主人公の友達視点です。
俺は陸から話を聞いた後から、春木さんの様子を観察することにした。何もしないとはいえ、こうなった責任は俺にもあると思ってるから、この騒動の行方を見届ける必要がある。
―1日目―
俺の席は春木さんの斜め後ろで観察するにはもってこいの位置にある。陸から話を聞いた直後から俺は春木さんを見ることにした。
―授業中
「えー、この紫式部が書いたとされる『源氏物語』でですね~…」
「…」チラチラ、プイ
「えー、つまり当時の貴族の~…」
「…」チラ
「ここは教科書の38ページにですね…」
「…」ブンブン
授業中にも関わらず陸をチラチラと見ては何やらかぶりを振っている。
―休み時間
「ね~、桜やっぱり今日なんか元気なくない?」
「う、ううん、全然!!全っ然元気よ!!」チラチラ
「そ、そう。ところでさ~。」
「え、なにかしら…」チラチラ
会話中にすら陸の方をたまに窺っている。
―帰りのHR
「~というわけで不審者が目撃されていてですね~…」
「…」ソワソワ、チラ
なんだ?なんだかとても落ち着きがない。
「みんな気を付けて下校してください。さようなら。」
「さようなら。」
「…」チラチラ
ずっと陸の方を窺っている。陸は一切見向きもせず、最速で教室から去っていった。
「!!…。」
しょんぼりした顔をしている。…早く仲直りしろよ。
―2日目―
俺が教室に入ったとき、陸は既に席に着いて本を読んでいた。多分偶然ではなく、春木さんと顔を合わせるリスクを避けたんだろうな。
授業開始ぎりぎりになって春木さんが走って入ってきた。
「!!…。」
陸の方を見て信じられないような顔をして自分の席に向かった。
…疲れてそうだな。春木さんの目の周りには薄っすらと隈ができていたように見える。
―休み時間
「桜ホントに大丈夫?疲れてない?」
「ううん、大丈夫。本当になんでもないの。」チラチラ
五月が本気で心配し始めたが、頑として気丈に振るまっている。そして陸の方をチラチラ見やるのも相変わらずだ。
「…空海君と何かあったの?」
そりゃ遠目で見てるだけの俺でもだれを見てるかは分かる。いわんや五月をや。まあそもそもあれだけ仲の良かった二人が突然なんの交流もなくなれば誰でもおかしく感じるんだろうが。
「…別に何にもないよ。」
やや不機嫌な声。かぁ~全く未だにしょうもない意地張ってやがる。
「…そう。困ったらいつでも言ってね。」
「ありがと。」
―帰りのHR
「~ということで、テストに備えて各自、勉強を頑張ってください。」
「…。」ソワソワ
「それでは、さようなら。」
「さようなら。」
まただ。落ち着きなく、髪を弄んだり腕を組み直したりする春木さんと、最速で去る陸。
そして
「!!…うっー。…うー。」
落ち込む春木さん。今回は机に突っ伏してしまった。もう陸以外に隠す気ないだろ。
こんな具合が金曜まで繰り返された。毎回毎回同じ。違うのは春木さんの疲弊具合が目に見えてひどくなっているところだ。五月も流石に本気で心配していたが、春木さんは「何でもない」一辺倒だった。
―月曜日―
さあ、土日とあったがどうなったのだろうか。登校する前から俺の頭はそれでいっぱいだった。正直見てるだけの俺ですら辛くなってきた。…まあでもあれだけお互いのことは実際は想い合ってる二人だ。きっと関係は修復してるはず…。いざ!
祈るような気持ちで教室の扉を開ければ、
「…。」
そこにはつまんなそうに本を読む陸の姿があった。…お前らマジいい加減にしろや。
そして、再びギリギリになってから春木さんが入ってきた。
「…。」
うわっ!印象はもう失礼ながら幽霊みたいだった。顔色は真っ青で目の周りには深い隈。足取りもヨロヨロしていて、悲惨極まるもの。…陸、この姿をちゃんと見てやれよ。
一方陸は幼馴染をやめてから春木さんを視界に映さないようにしているようだった。休み時間になればすぐさまどこかに消える。いたとしても、必ずと言っていいほど本を読んでいるのだ。
俺ももうそろそろ動いた方がいいのか。干渉しないほうがいいと思ったものの、流石にここまできたら別問題だ。
「ちょ、ちょっと桜!ホントにどうしたの?」
五月も心配して春木さんの席に駆け寄り、声をかけていた。
「…。」
春木さんは机に突っ伏して一言も発さない。
「ね、ねえ!ちょっと!
「はい、授業はじめるぞ~。五月、席に着け。」
「…はい。」
―昼休み
最悪だ。昼休みまで結局陸と話ができなかった。とにかく今からでも話さないとな。
俺は教室から出ようとする陸の肩をつかむ。
「陸、ちょっといいか?」
「…なんだ?」
こいつもこいつであの時からどんどん無表情になってきた気がする。今では常時どこか近寄りがたい雰囲気が出ている。
「ちょっと外で話さないか?」
「…わかった。」
――
「で、なんだ?」
「春木さんのことだよ。」
「…はぁ。なんだ。もう俺には関係ないだろ。」
その話はしたくないとばかりに嫌そうな表情をしてきた。…けどこの問題はほっとけないんだわ。
「あるんだよ。お前今日春木さんの顔見たか?」
「…別に。だからなんだよ?」
「見てみろ。マジで辛そうだぞ。いつまでお前はつまんねえ意地張ってる気だ?」
「は?お前だって賛成してくれたじゃねえか!なに意味わかんないこと言ってんだ!」
それはその通りだ。最初は賛同して後になってからやめろ、とか自己中にもほどがある。その点から言えば俺にはそもそもとやかく言う資格なんてどこにもないのかもしれない。
「それについてはマジですまん。けど、流石にここまで来たら黙ってられん。」
「ここまで来たら?…お前、本当は最初から俺のやり方に賛成してなかったのか?」
「!!いやそんなことは…
「…はぁ、ふざけんなよ。話は終わりだ。」
しまった。俺はとんでもないミスをしてしまった。帰ってしまう。マズイマズイマズイ!
「待て!!せめて春木さんが今どうなってるか遠目でもいいからちゃんと見てくれ!!お前のことを何とも思ってないならああはならないぞ!!」
「…。」
陸は振り返らずに中に戻って行った。…俺はもしかしたら初動の時点でとんでもなくバカなことをしていたのかもしれない。




