こうして俺たちは幼馴染をやめた。
「おはよ。」
桜はいつものように玄関の外に立っていた。このつぶらな瞳を見るだけでいつもは心が高鳴ったが今日はどうにもつらくて、どうにも吸い込まれそうになる。…いや馬鹿か、俺は。俺は今日でコイツと幼馴染をやめるんだ。
「…おはよ。」
「もう遅い!どんだけ待たせるのよ。早くいかないと遅刻しちゃうじゃない。」
「…うん。」
「全く、ボソボソしゃべらないで。ほら、シャキッとする!」
「…うん。」
そういえばいつからだろうか。桜がこんな風にどこかきつく当たるようになったのは。よく俺に甘えてきた小さいころと比べれば大分変ってしまったように思う。勿論、それでも俺はその歯に衣着せぬ言い方というかよく言えば正直な性格を好いてきた。…まあ今となってはだからこそ、あの時の恋バナが、俺をなんとも思ってないということが真実という裏付けになってしまったわけだが。
桜はやはり嘘をつかないのだ。
「ていうか…その…あの…あっ!陸、カバンは?」
「…ああ、持って帰るの忘れた。学校にある。」
「バカね。じゃあ宿題とかもやってないの?」
「…ああ。」
「はぁ、ダメダメね。先が思いやられるわ。」
「…。」
「…なんか返事しなさいよ。」
気まずい。俺としてはすぐさま「幼馴染をやめよう。」と言いたいものだが、一方で罪悪感があるためになかなか言い出せずにいた。そして別れるつもりでいるから、最後の会話に興じたりする気分ではなかった。
顔をまともに見れないから灰色のアスファルトを見つめて俺は歩いていた。いつ言おういつ言おういつ言おう…。
気づけば交差点にいて、俺たちは信号待ちをしているところだった。…ここだ。ここで言うしかない。
「なぁ。」
「ん?」
「…俺たちもう高校生じゃん?もう、こういうの…やめないか?」
「…こういうのって何?」
「なんか一緒に登校したりすることだよ。そろそろ…やめたほうがいいだろ。」
「なんで?」
存外に桜は怖い顔をしていて思わず気圧されてしどろもどろになってしまった。桜、自分勝手でごめん。でも俺、お前を見るのがつらいんだよ。
「噂とかになるし…桜だって迷惑だろ?」
「…本気で言ってる?それでいいと本気で思ってるの?」
どこか桜の声は震えている。相当に怒っているのかもしれない。怖くて俺は顔を直視できなくなってしまった。
「…ああ。」
「!!っそ。じゃ勝手にすれば!!私先に行くから!!」
信号はすでに点滅していて桜は振り返りもせずにツカツカと行ってしまった。今は拒絶されて怒っているようだったが、元来なんとも思わってない男のことなんかすぐに忘れるだろう。それで、相応しい人を見つけるのだろう。今までありがとう。―さようなら。
こうして俺たちは幼馴染をやめた。




