報告
目が覚めたとき、私はヒロインではなく悪役令嬢ギルドのスタッフに戻っていた。
「終わったのね」
ここはいつもの転生部屋。
ひとりがけのソファーで眠るようにして魂を飛ばしていた私は、深呼吸して深く目を閉じ、そして右手の感触にようやく気付いた。
「お帰りなさい、マデリーン」
そっと手を握るのは、燕尾服をきたリオルド。少しだけ早く、彼の方が目覚めていたらしい。言いたいことは山ほどあるけれど、とにかく今はまだ彼がそばにいてくれてホッとしていた。
「「…………」」
気まずいわ。
何かしら、さっきまで別世界とはいえあれほど情熱的にキスをしていた仲なのに、得体のしれない恥ずかしさがこみ上げる。
もしかして私だけ?
ちらりと彼の顔を盗み見ると、ほんのり耳が赤くなっていた。どうやらお互い様みたい。
ここからどうすれば、何を言えばいいの?
そんなことを悩んでいると、ひとつしかない扉からギルドの職員証をつけた人たちがやってきた。
「リオルド、これから調査を始める。そこで君には、嘘偽りなく証言してもらう必要がある」
背の高い40代くらいのこの男性は、ナビゲーターの管理官。リオルドの上司だ。私は不安に駆られてリオルドを見つめると、彼はふっと笑って私の髪をそっと撫でてくれた。
そしてそのまま何も言わずに、彼らに連れられて部屋を出て行ってしまう。
「リオルド!!」
私の声に、彼は答えなかった。振り向いてもくれなくて、一層不安が募る。
「マデリーンさん、あの……」
今にも泣きそうな私に声をかけてきたのは、先に還っていたソフィーユだった。どうやら彼女もこれまで事情を聴かれていたらしい。
ソフィーユは私の背中にそっと手を添えて、労わるように支えてくれた。
この子の方がヒロインに向いているんじゃないかしら、そんなことを思う。
これからどうなるのかしら、不安で表情を曇らせていると、悪役令嬢ギルドの管理官が私に報告を促してきた。
この女性は、転生数たった52回で正キャ員になった伝説の悪役令嬢・ヨーキヒー様だ。あぁ、なんてこと。トラブルが起きたことで初めて、憧れの人にお会いできるなんて。
「マデリーン、動揺しているところ悪いんだけれど、話を聞かせてもらえるかしら?あなたの最終試験についても、報告がしたいわ」
「……わかりました」
pixivノベルさんにて、表紙絵が公開されていまーっす!
活動報告でも載せておりますので、ぜひご覧くださいませ( *´艸`)




