この転生が終わったら
邸を出ると、外は真っ暗。人通りはなく、私はリオルドと共にうちへと向かう。
「ねぇ、降ろして」
「……」
「ねぇ、無視?あなたヒロインを無視するなんて、いい度胸ね」
「……もう少し、このままで」
切ない声で乞われたら、無理に降りるとは言えなくなってしまった。
お姫様抱っこなんて初めてだわ。悪役令嬢には誰もそんなことしてくれないもの。
しばらく無言が続くと、私は恋のせいでふわふわと浮かれた心地から少しずつ頭が現実に戻ってきた。
「これからどうしようかしら。こうなると、シリル様の求婚をお受けするわけにはいかないわ」
「そうですね」
「あ~あ、シリル様の求婚を断ったらポイント全額没収にならない?せっかくがんばってきたのに、台無しだわ」
もう笑うしかない。ここまでがんばってきて、結局最後の最後で自分の恋心を優先してしまった。これがイベントに換算されるのかはわからないけれど、もうシリル様との未来はない。
リオルドは何も言わなかった。
ただひたすら足を進め、夜道を歩いて行く。
まさか、これで私たちの関係はおしまいなんてことはないよね?
私はわざと明るい声で話し続ける。
「ヒロインが王子様ともセラくんとも結ばれないエンドなんて、続編があるみたいよね?もう金輪際、ヒロインなんてやりたくないけれど!あぁ、そういえばソフィーユはもうあっちに還ったのかしら?まだ還っていないなら、今からでも悪役令嬢にイジメてもらって失った分のポイントを取り戻したらどうかしら?」
「どうでしょうねぇ」
何その気の抜けた返事は。
私はため息をついて、彼の肩に頭を寄せた。
「マデリーン?」
「……どうして何も言ってくれないの?」
「ちょっと考え事をしていました。これからのことで」
「そう。で、何か浮かんだの?」
「ええ、まぁ」
「ふぅん。どうせ鬼畜な作戦を思いついたんでしょう?あなたのことだから」
投げやりにそう言えば、彼はクックッと笑った。
「心配しなくても、ポイントは稼がせると約束したでしょう?」
私が心配しているのは、もうポイントのことではない。あなたのことで頭がいっぱいなの、とはさすがに言えないけれど。
この日、リオルドが何を考えついたのかは教えてもらえなかった。
ただ、帰り際に交わしたキスがとてもとても幸せで。
幸せすぎて、この仮初めの世界の終わりが近いことを感じずにはいられなかった。
この転生が終わったら、私たちはどうなるのかしら。互いにそれは頭によぎっているのに、どちらも何も言わないでいる。
口にしたら、この幸せが終わってしまいそうだから。
「好きよ、リオルドが好き」
「私もです」
こうして私は、ヒロイン最後のイベント(?)を終えたのだった。




