怒りに燃えるヒロイン
ガタゴトと鳴る馬車の中。気まずい空気が流れている。
セラくんが私の隣にいて、彼のローブを纏った私は汗臭くないか心配していた。
正面にはリオルドがいて、この馬車は学園のもの。
リオルドは馬車を手配した後、王子やセラくんに事情を説明してくれた。毒を盛った容疑者のソフィーユは、公爵家の自宅で謹慎、取り調べとなるらしい。
男爵令嬢ごときの私に犯人を調べてくれという権利はないが、シリル王子を狙った犯行かもしれないという無理やりな理由をつけて王子様自身がきちんと対処してくれると言ってくれた。
『君は何も心配しなくていい。必ず私が守ってみせる』
シリル王子は正義の人だった。何から何まで、ありがとうございます。
あぁ、ヒロインって全部まわりがやってくれるからとても楽だわ。悪役令嬢って全部自分で指示しないといけないから大変なのよね。誰も守ってくれないし。
王子様は王宮に戻って犯人を捜すために全力を尽くすといい、セラくんは私の家まで付き添ってくれるそうだ。
今日出会ったばかりなのに、彼は私を心から心配してくれている。なんて優しい子なの!?
「本当にもう大丈夫?」
初めて育む友情に、私は胸が熱くなり「ううっ」と涙ぐんで顔をそむける、
「ありがとう!大丈夫。その気持ちだけで不死身になった気分」
「マデリーンは大げさだね」
リオルドは、「自分が送るから君は帰りなさい」と言っていたけれど、セラくんはにっこり笑ってそのまま馬車に乗りこんだ。敵対しないけれど、言うことも聞かないよという姿勢なのかしらね?
「え、あれがマデリーンの家?小屋だよね?あそこに住んでいるの?」
めちゃくちゃ失礼。小さいけれど小屋って何よ。
セラくん、さてはお金持ちね。さすが伯爵家の息子。
馬車を降りると、セラくんとリオルドも律儀に降りてきてくれる。ローブは洗って返せばいいか。汗臭いだろうし。
私は二人にお礼を言って、邸の中へ入った。
さて、体力は回復した。
両親はまさか娘が毒を盛られて帰ってきたとは思わず、「おかえり」と言って笑いかけてくれた。
お父様は積もり積もった借金について、そろそろお母様に話す頃だろう。夫婦仲がよさそうなところを見ると、まだ白状していないようだけれど。
私は部屋でシンプルな蒼いワンピースに着替え、動きやすいショートブーツに履き替える。
「ふふっ……!ソフィーユめ、私がこのままおとなしくヒロインやっていると思ったら大間違いよ!!」
不出来な後輩は、しっかり叱らないと。
ついでにお父様の借用書も盗んでやる。ヒロインは多少不幸な方が同情を誘うけれど、この際だから危険な要素は排除してやろうじゃないの。
赤い髪をリボンで一つにまとめた私は、こっそりと家のベランダから抜け出してソフィーユのいる公爵家へと向かった。




