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悪役令嬢、94回目の転生はヒロインらしい。キャラギルドの派遣スタッフは転生がお仕事です!  作者: 柊 一葉


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16/35

ヒロインが殺されかかるなんて定番



私はリオルドの実験室へと連れて行かれ、ソファーの上に寝かされる。


もう喋る元気もなく、彼が何やらガサゴソと引き出しを漁るのをぼんやりと眺めていた。


彼はソファーの前に跪き、左腕を私の背中に回した。少し上半身を起こされて、口の前にカプセルタイプの薬を持ってこられる。


「これを飲んでください。王宮医師からくすねた万能薬です」


くすねたって何?と尋ねる余裕はない。

乾いた唇にカプセルを押しつけられ、どうにかそれを飲み込もうとする。


「水を」


リオルドがそう言って、私の口にグラスを押しつける。けれど痙攣が始まって、うまく飲み込むことができなかった。


彼は私が自力で薬を飲むのを諦め、自分が水をぐいっと呷る。


そして、口移しで水を流し込んできた。


「んうっ」


口内に残ったカプセルは、押し入ってきた舌に押されて水とともに喉を通る。


気づけば毒の作用で私は汗だくで、人間ってこんなに汗がかけるんだと思うほどに制服がべしゃべしゃだった。髪は頬に張り付いているし、「これヒロインとしてどうなの?」という有様で。


どれくらい時間が経っただろうか、ようやく人心地ついたときには痙攣や咳は収まったけれど、ぐったりとソファーに身を預けていた。


おのれソフィーユ、いきなりこんなに強力な毒を使うなんて悪役令嬢の作法っていうものがなっていないわ!裏で絶対に叱ってやろうと心に決めた。


「マデリーン、落ち着きましたか?」


「なんとか……」


げっそりした私を見て、リオルドまでなぜか消耗しているように感じた。私の左手を握る彼は、とても心配しているように見える。


こんなこと、ヒロインではよくあることなのに。タイミングは違えど、ヒロインが殺されかかるなんて定番中の定番だ。


なぜこんなに心配しているのか、そう思うと何だかおかしくなってきて笑ってしまった。


「ふふっ」


それを見たリオルドは、露骨に眉根を寄せた。


「どうして笑うのです?」

「いえ、何だかおかしくて。だって、ヒロインの危機はよくあることなのに」


私の左手を握る手に、ぐっと力が篭った。


「呼吸器系の症状はつらいけれど、もう何度も悪役令嬢として死んでいるから、身体的な苦痛はわりと慣れているのよ?まさかそんなに心配されるなんて」


喋りながらまた笑いがこみ上げて、私は目を細める。

けれど、リオルドはものすごく険のある瞳を向けてきた。


「心配するに決まっているでしょう?あなたが苦しんでいるのを見たら、頭が真っ白になりました」


それにしては、随分と行動が的確で早かったと思うんだけれど。

疑いの目を向ける私。リオルドはソファーの座面に額をつけ、「はぁ」と大きなため息を吐いた。


彼のダークブラウンの髪が、すぐそこにある。

ちょっと触れてみたくなり、自由になっている右手でそっと頭に手を添えた。


ぴくっと彼の頭は動いたけれど、特に振り払われることもなく、私はそろそろと髪を撫でる。


「ごめんなさい。ありがとう」


端的に告げると、彼は何も言わなかった。


「私がヒロインなんかに転生してかわいそうだから、こうして助けてくれるのよね」


何気なく口にしたそのことに、意外に私の胸が痛む。

なぜこんな当然のことに、もやもやした気分になるのかしら。彼はミスを挽回したい。自分のポイントも稼ぎたい。だから私を心配している。


それの何が気に入らない?


しばらく彼の頭を撫でつつ考えていると、彼は少しだけ顔を上げて上目遣いに言った。


「あなたは、覚えていないのでしょうね」


突然そんなことを言われ、私は混乱した。


「覚えていないって、何を?」


子どもが拗ねるみたいなリオルドの顔つきに、不覚にもちょっとかわいいとときめいてしまう。

沈黙が流れ、急に胸がざわざわしだす。

リオルドは静かに身を起こし、私の前に跪いた。そして、鼻が当たるほどに顔を寄せる。


「リオルド、何を」


逃げることはできなかった。

そっと触れた唇は、さっき口移しで水を飲まされたときより優しくて、まるでこれが正しい形であるかのようにぴったりと合わさっている。


あれ。私そう言えばずっとずっと昔に、誰かとこんな風に……?


驚いて、息も身動きも止めていると、そっと彼は離れていった。

見つめ合うと、彼は何かを期待しているようで。


私は何を忘れているの?

約250年分の記憶を掘り起こすには、今は体力も精神力も消耗しすぎていた。


彼は私の前髪を優しく撫で、苦しげに笑った。


「家まで送ります」


そう言って立ち上がると、リオルドはすでに温和な教師の顔になっていた。学園の馬車を手配するのだろう、彼は私を残し、実験室から出て行くのだった。




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