友だちになりましょう
しばらくぼんやりしていると、どこからか視線を感じて私はキョロキョロとあたりを見回る。
「どうしたの?」
「何だか、見られているような気がして」
するとセラくんはすぐに周囲に探知の魔法を放った。半透明の円を描く魔力の糸が、一瞬にしてあたりに広がっていく。
立ち上がった彼は、三歩ほど前に進んで校舎の方を指差した。
「あれだね」
私も立ち上がり、彼が指示した方向を見上げる。
三階の窓には、にこりと笑って手を振るリオルドがいた。
「あそこって実験室!?」
もしかして全部計算?
応接室だった部屋を実験室に変えたのは、イベントが校舎裏でよく発生して、それを監視できるから!?
「手を振ってるけれど、知り合い?」
セラくんが私を見て尋ねる。
「知り合いって言うか、そうね、知り合いよ、先生だもの」
「ふぅん」
ダメだ。何だか意識してしまって、リオルドの顔がまともに見られない。
これだけ距離が開いていても、彼の視界に私が収まっていると思うと挙動不審になってしまう。
「君、名前は?」
「名前?マデリーンよ」
「そっか、マデリーンか。いい名前だね。僕はセラ」
改めて自己紹介されると、何だか仲良くなれた気がした。
懐柔とはいかなかったかもしれないけれど、嫌われていないということはこれから仲良くなれるチャンスはある。
「セラくん、私とお友達になってくれないかしら?」
意を決してお願いしてみる。
彼は一瞬だけきょとと目を瞠ったら、すぐに不機嫌そうな顔になった。
「…………友達?」
図々しいと思われたかも。
私はどきどきしながら彼の言葉を待つ。
「僕の魔法を見ても逃げない?」
「逃げないわ!永遠の友達よ!」
「重いよ!」
しまった。距離感がわからなくてぐいぐい行き過ぎたわ。
セラくんがちょっと引いている。
こうなったら泣き落としだ。私は彼の腕を両手でつかみ、必死で縋った。
「お願い!友達になってください!私のことを捨てないでっ!」
「捨てるって、まだ拾っていないよ!?もう、わかった、わかったから離して!」
「うれしい!ありがとう!」
歓喜に震えていると、セラくんは大きなため息をつく。相当呆れられているけれど、言質は取ったのでよしとしよう。
しかもここで、シリル王子が登場した。
「セラ。マデリーンと親しくなったのかい?」
「シリル様」
え、どこから来たの?ちょっぴりストーカーのにおいがするシリル様を見て、私は驚いた。セラくんはさっき探知の魔法を使ったので、シリル様が近くにいることはわかってたらしく平然としている。
王子様は私の前に立ち、困ったように笑った。
「あまり親しくしていると、妬いてしまうな」
「シリル様?」
――ピコンッ!
『好感度が上がりました』
――ピコンッ!
『ボーナスポイント獲得です』
「そうだ。マデリーンに仕事を頼みたいんだけれど、いいかな?」
シリル様はそう言って柔らかに微笑んだ。
「仕事ですか?」
「うん。セラも一緒だよ」
セラくんを見ると、すました顔で立っていて何も言ってくれない。
「わかりました。お仕事ですね!」
私に王子様の申し出を断る権利はないんだから、受けるしかない。
笑顔で答えた私を見て、シリル様は満足げに口角を上げた。
「よし、行こう!」
「キャッ……」
校内で堂々と、私の手を引くシリル様。婚約者がいながら、女性との手を取るとは!?
あぁっ、ソフィーユが校舎の陰からこちらを見ている!殺気の篭った目がいいわ。
セラくんはそれに気づいたようで、目元を引き攣らせている。「女の嫉妬、こわっ」と呟いた後、彼も私たちに続いて歩き出した。




