転生はお仕事です
マンガ用の原作はめーいっぱい書下ろしましたので、こちらとは内容がかなり異なります。あらかじめご了承ください。
「マデリーン! この王国の毒花め、ついに追い詰めたぞ!」
抜けるような青空と断崖絶壁を前に、見目麗しい王子様は声を張り上げる。
対するは、小瓶を手にする赤髪の女・マデリーン。その女の腕はピンクブロンドの愛らしい姫君を捕らえていて、追い詰められているとは思えないほど自信に満ちた表情を浮かべている。
海風に長い赤髪が揺れ、降り注ぐ光を浴びたその女は妖艶で美しい。王子の婚約者だったマデリーンという女は、自分を睨む愛おしい人を狂気の目で見つめた。
「随分と遅かったのね、エルヴィン王子。ようやく私が犯人だってわかったの? ふふっ、それだけでも上出来かしら?」
手にしている小瓶の中身は、魔女に作らせた劇薬。それを浴びれば、醜い姿に変わってしまう呪いの薬だった。
「マデリーン! バカなことはよせ!」
「もう遅いわ。この子には私と共に死んでもらうの。婚約者であるあなたを奪った罪、ここで償ってもらうのだから」
本当ならば醜い姿に変わったこの娘を見て、絶望するあなたが見たかった。
でももう、ここまで来たらこの娘と共に崖から飛び降りて心中してやる。
マデリーンは、あくまでシナリオ通りに事を進めた。
しかしここで、突然輝きだした王子が右手を翳す。
「そんなことはさせない!」
王子の手から光の矢が放たれた。
マデリーンは、これもシナリオ通りとわかっていつつも、驚いた表情を作る。
(え? この距離で人質には当たらずに、私にだけ矢が……? しかも昨日まで魔法を使えなかったのに、ヒロインへの愛の力で目覚めたの?)
そう思った一瞬の間に、マデリーンの胸には光の矢が突き刺さっていた。
(なんていうご都合主義……! 素晴らしいわ)
身体が後ろにぐらりと倒れる。そして、ご都合主義にのっとって、人質を突き飛ばすように解放した。証拠の小瓶をその場に落とすことも忘れない。
「きゃぁぁぁ! マデリーン様ぁぁぁ!」
娘の悲鳴が響く。
これから私は死ぬのだ、と感じたマデリーンは、死に際をより美しく見せるよう指先まで意識して優雅に落ちていった。
(あぁ、この浮遊感は久しぶりだわ)
ゆっくりと落ちていく。
目の前に広がる空は、とても澄んでいて美しい。
やりきった。
今回も、私は演じ切った。
口元は自然に弧を描く。
(我ながら見事な死にっぷりね。ふふっ、ボーナスポイントは間違いないわ)
悪役令嬢を演じること93回。
今日もマデリーンはポイントを稼ぎ、転生を終えるのだった。