38.そして彼は更生していく
「ごめん!佳市!まった・・・よ・・・ね?」
「おねーちゃんお帰り!佳市おにーちゃん寝ちゃった」
「うん。寝顔もイケメン」
「ほんと、こんな幸せそうに寝る人初めて見たかも」
リビングでとても幸せそうな顔で寝息を立てている彼を見ていると、今日起きた不愉快な出来事など、もうどうでも良くなってくる。
「マジ羨ましいな。こんな彼氏がいて!」
「本当にアタシも奇跡だと思ってるよ」
本当に自分には足りすぎた彼氏だと思っている。
心美も言ったように、勉強も運動も出来て、体格も良く、顔も良い。
それでいて、貧乏だった境遇のためか、謙虚でガツガツしていない。今までの彼氏とは真逆なほど、出来過ぎた彼氏。ちょっと心が脆いが、そこは自分が支えたらいい。
「起こすの勿体ないね」
「うん。でも起こさないと。泊りの用意してきてないだろうし」
「じゃ!あとはおねーちゃんに任せた!私は部屋に戻るね!」
2人きりになったリビング。
テレビもついておらず、雑音が無い。
なぜだか佳市の部屋に居る気分になってくる。
隣に座り、寝顔を覗き込むと、我慢できなくなり、そっと唇を重ねる。
既にそれ以上の事をしている関係なのに、やはり鼓動は速くなり、口から心臓が飛び出てきそうなほどだ。ファーストキスの時も、ここまで緊張した事はなかった。なぜだろう?と自分でも不思議になってくる。
「・・・寝てると思った?」
「ンンンンンッ!?」
悪戯っぽく笑いながら、佳市は目を開いた。
「い、いつから起きてたの?」
「帰って来た時には起きてた」
「サイテー」
顔を真っ赤にしながら、逃げるように立ち上がろうとする彼女の腕を優しくつかみ、佳市はそっと自分の胸元へ導いた。胸板にポスッとはまりこんでしまい、2人の距離は再びゼロになる。
「お疲れさま。どうだった?」
「うるさい」
「何かわかった?」
胸板から伝わってくる佳市の鼓動はいつもと変わらない。
ドキドキもせず、落ち着いたままだ。いつからだろう?関係が逆転したのは。ちょっと不愉快。
(いつもアタシだけが余裕がない。全部見透かされてる)
「あんた分かってたの?」
「俺の思ってることと、恵理の思ってることが一緒なら、分かってたかな」
「言ってくれたら良かったのに」
全部分かっていたのに、何も言わずに送り出し、自分の好きにさせてくれた彼氏に、少しだけ苛立たしくなる。
「言ったって聞かないでしょ?」
「・・・うるさい」
「恵理が納得できるまで、気付くまでやればいいんだよ。俺もそうだ。自分で納得して気付けた。全部、恵理のおかげだった。本当に出会ってくれてありがとう」
「もう・・・まじ・・・ばか・・・」
「青春っていいわぁ~」
「あま~い」
扉に少しだけ開いた隙間から、野次馬が覗いていたことを2人は知らない。
我慢できませんでした!ごめんなさい!
そしてそろそろ終焉の時です、