1.貧乏人に彼女が居たらだめですか?
超がつくほどのド貧乏。
自宅は築五十年の木造二階建ての四畳半一間。
風呂なしトイレ共同。
どこぞの大学の苦学生かと思われる生活環境が【紀元佳市】高校一年生の自宅だ。
風呂は夏は二日に一回、冬は三日に一回の銭湯で。それ以外は流しでタオルで体を拭くだけ。
洗濯は週に二回のコインランドリー。日々のご飯はお金が無い時などは、五枚切りの食パンを一日一枚二つに切って食べる。
貧乏を通り越して貧困ともいえる状況。
そして天涯孤独の身だった。
両親は生まれてすぐに蒸発。親族の家を転々とし、やっとの思いで、中一の時に祖父に引き取られた。だがその祖父も半年前に他界。財産は伯父叔母に全て持っていかれた。
残ったのは僅かな家電と家具のみ。
それでも高校受験に成功していて、奨学金でなんとか通学している。
このままでは社会に出た途端に借金生活が確定するハードな人生。
当然、部活など出来る余裕はなく、バイトの合間に勉強をするルーティン。
交通機関?なにそれ美味しいの?と言わんばかりに移動はもっぱら自転車。
高校まで片道一時間。10kmの道のりも慣れたものだ。
そんな佳市にも彼女が出来た。
入学して二か月、隣のクラスの綺麗系で人気がある【佐々原心美】に突然告白され、付き合うことになった。
デートはもちろん自転車で行ける範囲で、公園とかショッピングモールなどだ。
心美も佳市の環境を理解しており、「2人で居れるだけで十分だよ~」と言ってくれる。
昼食の時間も貧相な食事を広げていた佳市のために、文句一つ言わずにお手製の弁当を毎日作ってくれる。校内では出来損ないの旦那を支える、できた嫁と評判になっている。
無論、心美の周りは佳市と別れ、「もっとマシな男に乗り換えな」と繰り返し説得しているが、本人が「私は、佳市が笑顔になってくれるだけでパワーでるから」と毎度のごとく切り返すため、諦めムードが漂っている。
せめても、と思い、格安SIMと格安スマホだが、心美といつでも連絡取れるように、厳しい生活費から捻出してる。
from SNS
心美:『佳市、今日もバイトお疲れ様!』
佳市:『ありがとう!心美がいるから頑張れるよ!』
心美:『もう~。体壊したらもともこもないんだからね?』
佳市:『うん!気を付けるよ!心美のお弁当毎日食べたいからね!』
心美:『明日は一日バイトだけど、何かちゃんと食べてね?』
佳市:『了解!何食べたか報告するよ!』
初カノであり、健気に支えてくれる心美に感謝しかない。
「ごめん!大学を卒業したら今までの分をお返しするから!」
心美に苦労を掛ける度に、佳市が口にする口癖だった。
「本当に心美には迷惑かけてばかりだな。絶対に幸せにしてみせる!」
今日もそう決心し、スマホの電源を切って布団に横になった。
翌日も、朝から引っ越し業者、夕方から居酒屋でのホールスタッフのハードワークだった。そんな大人もへばるほどの疲労も、心美を思えば忘れられる。
今日はお店が暇だったため、早上がりとなった佳市はスマホの電源をつけた。
心美からバイト終わりの連絡が入っているはずだ。
はずだった。
どれだけ更新をしても心美からの連絡はなかった。
電話を掛けたが、普通なら5コール以内で取るはずが、10コールしても呼び出し音が続くだけだった。
(もしかしたら、バイト帰りに事故にでもあったかも?)
そう思うと、いてもたってもいられず、心美のバイト先に全力疾走で向かった。
心美のバイト先は知っていた。以前一度だけ、近くまで送っていったことがある。
居酒屋から自転車全力で10分。大して遠くない距離にあるカフェだ。
心美のバイト先に着くと、まだ営業中であったが、店内には心美の姿を確認できなかった。
佳市の頭の中はバイト帰りに事故にあっていると思い込んでいるため、その光景を不自然に感じない。
「まずは何時に上がったか確認しよう」
そう呟きながら、意を決して店内に入った。
ぜひ、感想とブクマ、評価お待ちしております。