表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】人生に正解なんて存在しない  作者: 空腹の汐留
本章
39/45

36.狂気・欠落・破壊

恵理の心は落ち着かない。


ベンチに腰を掛け、忙しなくスマホを触ってしまう。

準備室の仲間とのSNSや佳市との写メ。

それを見て、気持ちを落ち着かせようとするが、全く効果がない。


それに慣れない場所のためか、周りの視線まで気になりだしてくる。

この街にあった江戸時代の城跡を市が整備し、城址公園となっている。

普段なら絶対に立ち入らないが、待合にこの場所をあえて選んだ。



ここは心美が佳市に告白した場所だった。



10月に入り、夕方にもなると、少し肌寒くなってくる。

それでもいつものエナジードリンクを飲み、自分に気合を入れる。


ピコーン


スマホが控え目に鳴り、内容を確認する。


それは準備室()()()()()()トークルームからの通知だった。


由香:がんば

真奈美:ふぁいと!

文子:風邪ひかないようにね?


一斉に三人からメッセージが届き、背中を押してくれる。


「他人事だと思って・・・」


言葉では悪態をつくが、内心は嬉しかった。

「1人じゃない」そう思うだけで心強くなる。





その時、同じ制服の女が近づいてくるのが分かった。


遠くからでもその存在が分かる。


佐々原心美だ






「遠山先輩、遅くなりました」


「こちらこそ、呼び出したりなんかしてごめん」


本心はお互いに悪びれもしていない。まやかしだらけの会話が、2人の関係性を如実に現している。


「ここに呼び出したってことは、佳市くんの件ですね?」


「それもあるけど、あんた自身の事もある。ってか分かってるよね?」


心美はとくに驚きもせず、恵理の隣に座る。


(全部分かってきてるくせに。なんで表情一つ変えないんだってーの)


「で、何の事ですか?」


「まずはこの内容からかな」


自分のスマホを操作し、例のアプリからダウンロードした写真を一つ一つ確認を取りながら、心美に全てを見せた。全く表情を変えず、目を通していく心美に恐怖すら感じる。それほど淡々としていた。


「で、これがなんですか?」


「これって、いけない店で知り合った人でしょ? これがばれたらどうなるか分かってるよね? あんただけじゃなくて、うちの学校全体がどうなるか」


「学校全体の事なんてどうでもいいですよ。私には関係ありません」


逆の立場なら、冷や汗が一つや二つ出てもおかしく無い状況だが、心美の表情には変化は全く表れない。


「まじ本気で思ってんの? あんたの頭ん中、お花畑かよ」


「先輩には関係ありませんから」


「だから学校全体の問題だってば」


「私には関係ありません。学校に報告でもして、停学なり退学なりにしてみたらどうですか? 学校のイメージとかなら、先輩のその格好もどうかと思いますけど」


自分の事を棚に上げ、人の弱みに論点を変えようとしてくる姑息さに、憤りを覚えるが、溜息を一つつき心を落ち着ける。


「これ、えんこーしてんの? おっさんたちとやってんの?」


「誰がこんな人達に体を許すと思いますか? 勝手にやってるだけですよ。私は別に強要もしていません。全部、この人達が勝手にやったことです」


「そんなこと言われても信じるわけないっしょ」


「ご勝手にどうぞ。話すことはそれだけですか? 私、この後があるので」


そう言って、立ち上がろうとするが、恵理の言葉がそれを制した。


「じゃあ、この男はなんなの?!」


「大学生の彼氏ですよ?()()()()()()()


「あんた佳市と付き合ってたんでしょ?」


「佳市くんとも付き合ってましたよ?」


「それは同時で付き合ってたってこと?」


「そうですよ? 何か問題でも?」


「じゃあ佳市はこの人の事を知っていたの?」


「私からは話してませんけど、知ってはいますよ? というか、遠山先輩は佳市くんから聞いてないのですか? 私たちが()()()()()()()()を目撃したことを」


「聞いてるよ。だから何で佳市に黙ってたの?!」


「タイミングがなかっただけです。そろそろ言う予定でした」


「知ってたらまだしも、知らないのに、そんなとこ目撃したら、人はどうなるか分かってるよね?」


「さぁ? 私は何も思いませんけど。別で付き合ってる人が居たんだ?と思うくらいです。他人がどう思うかなんて私には関係がありません」


「違う!佳市は!傷ついて!自殺未遂までしたんだよ!? あんたが何も言わなかったせいで!その光景がトラウマになって、一時的に記憶まで失って、苦しんで!あんた何も知らないくせに、よくそんな事言えるね?!」


「はぁぁぁ。佳市くんが理解できなかっただけでしょ?本当は愛してなかったんですね。私の事」


「はぁ!? あんたが佳市を愛してなかったんでしょうが!」


「いいえ? 愛してましたよ? 私なりに」


「あんたの愛してるが、佳市と一緒だと思うな!」


「ばかばかしいですね。私は私なりに佳市くんを思っていました。それは間違いありません。誰がなんと言おうと変わりません。愛なんて人それぞれでしょ? で、もう行っていいですか?」


「あんたね!自分の事ばっか!佳市の事なんも考えてない!」


「はい? 佳市くんは彼氏だったんだから、私のために色々するのは当たり前のことじゃないですか? 彼女の事を喜ばせない彼氏になんの価値があるんですか?」


「だからあんたは佳市に何をしてあげたの!?自分ことばっかで!」


「一緒に居てあげました。少しの間、高校生活を共にしました。それだけで十分でしょ?」


「あんた!意味わかんない!じゃあなんで佳市と付き合ったのよ!」


「遠山先輩は今佳市くんと付き合っているんですか? ならわかるんじゃないですか?」


「分からないし、分かりたくもない!!」


「じゃあもう話すことはないですね。しつれい────」


「だから話終わってない!アタシの彼氏が傷ついてんの!?あんたのせいで!」


「もう別れたんだから、どうでもいいでしょ? 何を言いたいんですか?」


「だから何で付き合ったんだって!? さっきから聞いてるし!」


「尽くす姿が健気で可愛いからですよ? 遠山先輩は違うんですか? 自分の学校生活を楽しむために付き合ってるんでしょ?」


「あんたそれマジで言ってんの? そんな理由で佳市と付き合ったの?」


「華のJKですよ? たった3年しかない、ブランドが詰まった期間を楽しんで何が悪いんですか? 高校生活も私生活も楽しんで何が悪いんですか? JKってだけで、付加価値がついて、大人はそれに群がってくる。それを利用して楽しんで何が悪いんです?」


「あんたそのために佳市を利用したの・・・?」


「利用って、佳市くんにはそんなつもりはありませんよ? 意味が分かりません」


「アタシにはあんたがわかんないよ・・・。じゃあこの大学生の人はなんなの?」


「この人ですか? 佳市くんはお金ないし、どこかへ連れていってもくれないので、車持ってって、色々連れってくれる人が欲しかったら付き合ったんですけど? そんなのも分からないんですか?」


「わかんないよ・・・そんなの・・・」


「遠山先輩ももっと高校生活を楽しんだ方がいいですよ? 佳市くんだけだと、やる事限られるでしょ? そんなの勿体ないですよ。たった3年しかないのに、佳市くんだけで終わるんですか? もっと色々経験した方がいいですよ?」


「アタシは佳市が居ればそれでいい・・・」


「つまらない人生ですね? お察しします」


「じゃあこのおっさん達はなんなの?」


「この人達ですか? 佳市くんも大学生の彼氏もお金はそんなに持っていないので、お金持ってる人から貰っただけですよ? それも分からないんですか? 遠山先輩もお金かかりませんか? 欲しいものだって一杯ありますよね? うち母子家庭なんで、そんなお金に余裕がないんですよ。だからお金持ちから分けて貰っただけですけど? 何が悪いんですか?」


「あんたマジおかしいよ」


「別に遠山先輩にどう思われようが知りません。私は私がしたいようにするので」


「それで人が傷ついてもいいの?」


「私の貴重な時間を無駄にするくらいなら、そんなことはどうでもいいです」


「じゃあ何で佳市に告ったの?」


「だから言ったでしょ? 私が高校生活を楽しむためですよ。容姿も良いし、勉強もできて、運動もできる。それに少し周りに距離を置いていたので、私を優先してもらえると思ったからですよ? 他に理由がありますか?」


「距離を置いてるって、あいつ虐め受けてたんだよ!? 知ってたの!?」


「知ってましたよ? でも私の事じゃないので、気にしてませんでした」


「もう・・・まじなんなの・・・」


「もういいですか? 私、次があるので。あと学校にバラすなら好きにして下さい。皆やってることなんで、どうにもならないと思いますけど。では」





もう恵理には心美を止める事はできなかった。

自分の愛する人が、こんな女に傷つけられたかと思うと、怒りを超え、情けなく、悲しくさえなってくる。全身の力が抜け、脱力感に埋め尽くされてしまう。


去っていく心美の姿が、幻の様に感じ、自分が間違っていたのでは?とさえ感じさせた。




「佳市・・・ごめん。アタシ何も分かんないや・・・」

賛否あると思いますが、ご了承のほど、よろしくお願いいたします。


あえて途中から心情は書きませんでした。

皆さんがどう思うか、それを尊重し、会話のみにしました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ