35.コンタクト
1-4の教室内は騒然としていた。
昼休憩時に見慣れない上級生が、クラスの前にいたからだ。
ただでさえ、上級生が教室にくるなど珍しい事なのに、その人物の容姿がさらに拍車を掛けた。黒ギャルとまではいかないが、ギャルメイクに金髪手前の髪色、制服のスカートもギリギリまで上げており、両耳にも無数のピアスを着けている。男子からの下賤な視線と、女子からの異物を見るような視線が彼女に突き刺さる。
(どいつもこいつも見た目ばっか)
ここに来ることは自分で決めたことではあったが、予想通りの下級生の反応が不快感をつのらせる。
「佐々原心美さんってこのクラスだよね? アタシは2-2の遠山恵理っていうんだけど、佐々原さんにちょっと聞きたい事あるんだけど、呼んでもらえる?」
ドアの傍で呆然と立っていた男子生徒に話しかけると、無言で頷いてくれ、足早に心美のもとへ駆け寄っていった。心美は友人と昼食を取ろうとしていたが、その男子生徒から、知らない上級生が自分を呼んでいる事を聞き、顔を上げて扉の方向を睨んだ。
明らかに不機嫌なのが分かるその表情に、クラスメイトも「喧嘩か?」「心美なにかしたの?」と声を掛けるが、ニコッっと笑い返し、それを制止した。
急ぐこともなく、普段の歩調で、自分のもとへ向かってくる心美に、恵理は少したじろいでしまうが、手首のリストバンドを触ることで落ち着きを取り戻した。
「あんたが佐々原心美さん?」
「2年生がわざわざ何のようですか?」
異様な空気を放つ2人に、「今から何が起こるのか?」という野次馬根性を見せる生徒が近づいてきてしまい、恵理はそのまま本題に入れず、睨み合う様になってしまった。
「ここでは話せないから、授業後時間ある?」
「少しならいいですけど?」
「じゃあ、終わったらここへ来て」
他の生徒に見えないように注意しながら、スマホの画面を見せると、心美の表情が一層険しくなった。
「分かりました」
そう言い放つと、そさくさと、心美は自分の席へ戻っていった。
(本当に気に入らない)
───心美のクラスを離れ、自分のクラスへ続く階段に近づくと、そこに佳市が1人で待っていた。
(マジ、こういうとこ好き)
「・・・顔、デレてますよ?先輩」
「うっさい」
たった一瞬で彼に癒されてしまった自分は「なんてチョロイんだろう」と、感じてしまうが、この後の事を思い出し、また表情を強張らせた。
「今日、先輩の家で待ってますね」
「・・・うん。終わったらいってくるね」
「んじゃ、何かあれば、直ぐに呼んで下さい」
お互い手を振りあい、教室に戻る。
もう一度、リストバンドを触り、”心美との戦いの時”へ、自らを奮い立たせた。
区切りが良いとこにしたら、かなり短くなりました。
本日中にもう一話上げます。