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【完結済】人生に正解なんて存在しない  作者: 空腹の汐留
本章
32/45

29.たったそれだけの事

ギリギリまで書いてたんですけどね。

ポエマーですね

佳市が恵理の自宅に身を寄せてから3日ばかり経った夜。



2人はその間も毎晩体を重ねていた。


恵理の腕の傷を優しくなぞると、あの時の光景が蘇ってくる。


浅いものや深いもの、知ってるものや知らないもの、恵理が自分の命を確認するために付けた傷が並んでいた。


「やめてよ。くすぐったい」


いつもより艶っぽく、軽く汗ばんだ恵理の表情を見てしまうと、また欲情が込み上げてくる。それを抑えるように優しく体を抱き寄せ、全てを包み込んだ。


「マジ、してる時のあんた10割増し」


「ん?どういう意味?」


佳市の胸板に手を添え、荒れた息を整える。


「知んなくていいの。特等席だけが見えるんだから」


よく意味が分からないが、何となく嬉しい。


佳市は少し回りくどい恵理も好きだった。

普段の露骨な愛情表現とは違う、照れ隠しな言葉や表情が心をくすぐってくる。


佳市はこの時間も好きだった。


お互いの存在を確認し、しっかりと心が繋がった気がする。

自分が経験していた()()()()とは違い、なんとも言えない充実感があった。


「チョー好き。大好き。ずっと一緒に居て」


「だから最後重いってば・・・」


佳市がそれを言うと、恵理は毎回クスッと笑う。

”返品不可です”といった悪戯っぽいその顔にも、愛情が沸いてくる。


その後は、どうでも良い事ばかりをお互いに伝え合い、自然と乱れた服装を整えた。これも2人のパターンだった。



だがこの日は思わぬ事を恵理が口にした。



「そろそろクラスに行ってみたら? アタシももう戻ってもいいかな?って思ってる。何かあったら、また準備室があるし」


佳市もいつかはクラスに戻る必要があるとは思っていた。このまま周りの厚意に甘え続けるわけにはいかない。自分でも何かをする必要がある。それは分かっている。

そして心美と別れた今が絶好のタイミングかもしれない。


「恵理も戻るのか?大丈夫?」


「大丈夫。あんたが一緒なら」


自分の存在が、自分の行動が恵理を支えれるならと、佳市も気持ちを固めた。


「じゃあ、一緒にクラスに行ってみようか」


コクンと恵理は頷いてから、もう一度唇を重ね、2人は眠りについた。









次の日、いつもと違う、本来正しいはずの与えられた居場所。


”自分のクラスの席”に佳市はいた。


意外にもそこは居心地が悪くなかった。


一部の男子が、佳市に侮蔑的な視線や言葉を浴びせてくる。


それに屈せず、少しでも話した事がある者に、当時の痴態を1人1人詫びて回った。


「何か変わったね? 自信みたいのが前より感じるよ? 何かあったの?」


そう隣の席の女子が話しかけてきた。

自殺未遂の証拠である首の痣を指摘してくれた人。勇気をもって話しかけてくれたんだな、と、あの時を思い出し、深く、しっかりと謝罪した。


「あの時は助けられた。本当に迷惑をかけた。何でも言ってくれ。恩を返したい」


女子は少し焦った様子で、「な、なにもしてないよ?そんなんじゃないから・・・」と首を垂れる佳市を起こしてくれた。


そこから、何もわだかまりが無かった様に自然な会話を重ねた。

あの時倒れてから、どうなったのか?クラスの反応は?休み明けのテスト結果はどうだった?などを話すうちにある事に気付いた。


(関係を避けていたのは自分だったのかもしれない)


どうせ自分なんか、自分なんかどうなったっていい、どうせ虐められる、どうせ妬まれる、そんな気持ちが以前の佳市にはあった。


それがどうか?


この期間、色々な人に接しているうちに、1人ではないと気付き、頼っていいことも知り、どこかで誰かが見てくれていること。それが分かった事により、自分の自信に繋がった。その結果、こうして堂々としていられる。


(孤立していたのは自分の卑屈さが原因だったのか)


何も家族が居ない事や貧乏な事を恥じる必要はない。それが自分なのだから。

ならもっと自分を知ってもらえればいいだけだ。


助けてくれる人はどこかにいる。居ないと思っていたのは自分が知らなかっただけだ。どうせ分からないと諦めていた。それがいけなかったんだ。


(もう一度クラスの皆に謝ろう。()()()()()()()


意を決して教卓の前に立ち、クラスを見渡す。


「紀元佳市です。この度は大変ご迷惑をおかけしました。自分の過ちを恥ずかしく思います。誠に申し訳ございませんでした。貧乏で、どうしようもない俺ですけど、これからは皆さんの役に立てるよう、心を入れ替えました。クラスの一員として、ゼロからまたよろしくお願いいたします」


「俺も誤解してた!これから宜しく!」

「私も、ちょっと勉強が出来るからって妬んでた!ごめんなさい」

「貧乏なの知っててカラオケ誘ってごめん!」

「正直なんかとっつきにくかった!これから宜しく!」

「取り敢えずテストやばかったから勉強教えて!」


そんな声がクラスから湧きあがる。

パラパラと拍手すら挙がる。




依然として、”一部の男子”からは、軽蔑的な視線を向けられていたが、そんなことはもうどうでも良くなっていた。

虐めにも様々な原因があり、複雑です。

それにこんな劇的に変わることはないかと思います。

ですが、物語ですので、こういった形に収めました。

「自分が経験したのはこんなんじゃない」と思う人がいるのは理解しています。佳市の答えがこれだっただけです。


ただし、この後も”距離感”を間違えると、元の木阿弥です。

しっかりと相手の性格に沿った対応を知ることが大切だと思います。


以上、後書きでした。

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