23.決別
会話調なので、苦手な方はすいません。
俺の精神はギリギリだったらしい。
どこか最後で踏ん張って来たと思っていたのに、それは自分の甘い考えだったようだ。
当の前に俺の心は折れていた。自殺しようと行動した時点で、分かっていた事だが、どこかで認めたくなかった。そう理解した時点で、自分の全てが壊れてしまった気がするから。
何を間違えたのか?
そんなことを考えたくなかった。全部が自分の大切な思い出だった。そこに間違いなんてあると思ってなかった。心美と付き合ったことも間違いとは思いたくない。彼女と一緒に居れた時間は、辛くもあったが、自分を認めてくれ、求めてくれたと思ったからだ。
だが遠山先輩に抱きしめられた時、その間違いに気付いた。
心美が肯定してくれたのは、俺の存在ではなく、俺の行動だと気付いた。
それほど、抱きしめられた感覚は俺の心を温めてくれた。
心美を抱いている時の充実感とは全く違う。
必死にお互いを求めあう行動に、その一瞬は心を満たされ、何とも言えない快感が体を突き抜ける。
先輩が俺にしてくれた事はそれをも超える何かを体に植え付けた。ただただありのままの自分を受け入れてくれ、包み込んでくれた。そんな感覚は、心美には一度も覚えたことはない。それが俺の中の答えだと思う。
「俺は遠山先輩には救われてばかりだな」
今となっては、心美と別れる理由を思い出す必要はない。
先輩が教えてくれた温もりだけで、心美との時間をもう一度取り戻そうとは思わない。それが十分な理由になる。今になってようやくわかった。
もう一度、心美に電話しよう
俺は、心美に電話を掛けた
彼女が電話に出る。雑音が聞こえない。自宅にでもいるのかもれない。
『あ? 佳市?この前どうしたの? 心配だったんだから』
『心配かけたね』
『ううん? 良いの! でこの前の事、考えてくれた?』
この前の事は俺が忘れてしまった何かなのだろうか?意味が分からない。でももうそこに拘りは無い。もう別の理由で君とは一緒に居たくないのだから。
『ごめん。ちょっと言ってる意味が分かんない。でも言いたい事があるんだ』
『え~なになに? エッチしたいの? もう少し後ならいいよ?」
俺の心とは裏腹に、短絡的な話しかしてこない彼女にいら立ちを覚える。
『俺はもう一緒に居たくない。心美との時間に疲れた。別れよう』
意外な言葉を言ったつもりはないが、彼女はどこか意外な雰囲気で押し黙った。
『なんで? どうしたの?』
『君との時間を思い出しても、嬉しさや楽しさはあったけど、俺自身が癒されたとか、そういう感覚がないんだよね。何でなんだろ? って思った』
『え~エッチとか沢山したじゃん? ご飯一緒に食べたりとかしたよね? デートも! それで癒しが無いとか酷くない?』
『確かに酷いかもしれない。でもそういった時に癒しとか、安心は感じなかった。ただ心美に愉しんでもらいたいって一心でいたんだ』
そう感じてる事だけを正直に述べた。それがどんな結果になろうと気にする必要も今はない。この恋愛は間違っている。
『なんか酷いよ。 もっと沢山一緒にいてもらいたかったのに。満たしてもらいたかったのに。自分勝手過ぎない?』
『自分勝手なのは、俺だけなの? 君は俺を満たしてくれないのかな? 俺だけが君のために色々とすればいいの?』
『当たり前じゃん? 私と付き合ってるんだから、私を満たすのは彼氏の仕事でしょ? それに私毎日お弁当作ってたよね? それって佳市のためでしょ?』
『そうだね。お弁当には感謝してる。本当にありがとう。でもあの時間もちょっと違うと思っていたんだ。君は僕が話をするまで、ずっとスマホ触ってばかりで、何も言ってくれなかった』
『人に作って貰っててその言い方は酷くない?』
その言葉にも彼女に俺に対する思いを感じなかった。心配しているとかは本心だと思う、でもそれは俺に会えないっていう、心美の欲求から来てると思った。お弁当も俺に会う口実というか、自分を満たすためのイベントというか、そんな物を感じた。そして過去の自分には分からなかったであろう、誰かが俺を思いやってくれるという気持ち。この短期間だが、先輩や永遠、先輩のお母さんに触れ、その感覚が分かった。じーちゃんには勿論感じていたが、それは家族だからできると勘違いしていた。
『だから、お弁当の事は本当に感謝してる。でも俺が心美に対する気持ちは、本当にずっと一緒に居たい、っていう感情とは違うんだ。だからごめん。そしてもう一度言うね? 別れよう』
『本当に皆勝手だね。折角の楽しい時間を壊してくれて』
『それはごめん。最低だね』
『本当最低。別れたいのは分かった。また話そう?』
『もう話すことはないんだ』
もうこれでおしまいにしたい。その気持ちだけで、なんとか踏ん張る。
何に?この時間に?自分の折れてしまいそうな心に。
『そう。でもまた声は掛けるね』
『うん。さよなら』
『はぁぁ。じゃあ』
そう言って心美は電話を切った。
皆勝手とはどういう意味だったんだろう?少し疑問に思えたが、もう終わったんだから気にすることもない。
「先輩に報告だけでもするかな?」
一応、サヨナラすることはできました。
でもまだ謎はありますね・・・