17.ターニングポイント
好きな相手と同じ布団で一夜を明かす。
多感な時期である高校生にとって、それがどうゆう事を意味なすか?暗黙の中に何が起きるかなど想像がつく。
だが恵理は一晩中、佳市を抱きしめ続ける事だけに努めた。
今にも崩れそうな体と心。それをひたすら守るように抱きしめ続けた。体を求められれば、応じる覚悟もあったが、期待も裏腹に何も起こらなかった。佳市はただ恵理の行為を受け入れるだけに留まった。そこにどういった感情があるのかは、恵理には分からない。
長くもなく短くもない時間を感じながら、冷えた佳市の全てを恵理は温め続けた。その温もりが伝わったかのように、佳市は眠りにつき、寝息を立てている。自分の隣で無防備に寝ているその姿は何とも愛おしく、自分だけのものにしたい衝動に駆られる。だがこの男は今は別の女の男。だからと言って、恵理はこの距離から離れるつもりはない。
気が付くと朝を迎えており、窓の外には日差しが入り込む。
突然、玄関の扉を誰かが叩いた。
二回、謙虚な音が室内に響く。
起きる気配を見せない佳市から、離れたくない本心を抑え、首に絡めた腕をそっと抜いた。
もしかしたらあの女かもしれない。
覚悟を決めた恵理に躊躇はなかった。
だが扉を開けるとそこには、見知らぬ少女が立っていた。
少女は永遠と名乗り、佳市の中学時代の後輩であり、大家の孫娘であると恵理に説明をした。
「ちょっと外で話そうか? 佳市寝てるから」
恵理の提案に永遠も承諾し、アパート傍の公園で話しをするために移動する。
「失礼ですが、どなたでしょうか?」
いきなり女性が佳市の部屋を訪ねてきた焦りから、恵理は自分が誰であるかを永遠に話すのを失念していた。佳市の学校の先輩であり、自分に手を差し伸べてくれた大切な存在であることと、昨夜の出来事をかいつまみながら、永遠に話をした。
「やっぱりですか。また抱え込み過ぎたんですね。前にもあったんです」
佳市は中学時代にも、1人で抱え込みすぎて、一時登校が出来なかった事があり、クラスからも少し浮いた存在であった。幼少期に親族の間を転々とし、幼馴染は皆無で、中学も半ばでの転入のためか周りに上手く馴染めず、さらに祖父との2人暮らしであったことが、全てを抱え込む原因であったことを永遠は知っていた。
また佳市の祖父と永遠の祖父は元同僚の関係だった。佳市祖父がこの街に身を寄せた理由も、孫の今後の生活を古くからの友人にお願いすることにあった。この事も、永遠は母伝いに聞いていた。そのためか中学の時、力になれなかった自分を浅ましく思っており、積極的に関わりを持とうとした矢先に、佳市に彼女ができ、そこから関係が希薄になってしまったとを気に病んでいた。
そして一昨日、久しぶりに佳市を尋ねたところ、中学時代に抱え込んでいた時期と同じ顔をしていたため、今日も様子を見に来たわけである。
「あいつ、そんな事あったんだ」
恵理は佳市から聞いていない事を知れた優越感と、そう感じてしまう自分が疎ましくなる。そんな自分でも今はアタシ達しか佳市を救えない。嫌いな自分でもやれることはやる。そんな思いが膨らむ。
「もっと、あいつの力になってやって?あいつ不器用だから」
「え?でも、恵理さん、センパイの事好きなんですよね?いいんですか?」
初対面の人にまで、佳市への好意が伝わってしまうほど、自分の顔にでも何か出ているのか?と驚いたが、確かに異性の家で、家主の代わりに来客者の対応をするなど、そういった感情がなければ出来ないかもしれないと思い、直ぐに納得した。
「うん。大好き。でも、力になってやって?」
今の恵理には自然とその言葉が言えた。
自分を助けてくれた彼に恩を返したい気持ちと、大好きな彼に立ち直って欲しい気持ちで心は忙しい。
「私、今の彼女さん知ってるんです。佐々原心美さんですよね?以前、ばったり佳市さんの家の前で会ったんです。あの人より、恵理さんが彼女だったら良かったのにな」
「あの女と会った事あるの?何か言われた?」
「私の楽しい学校生活のために、佳市に近づくなって釘を刺されました」
「やっぱり」と恵理は呟く。
自分が楽しいから佳市と付き合っている。この答えは間違ってないと確信した。
佳市の事は何も考えていない。佳市を利用して、自分の欲求を満たしているだけ。佳市のためにとか一切考えてない。お弁当もそうだ。自分に感謝してくる佳市を見てて楽しいだけだ。
「永遠ちゃん、話してくれてありがとう」
「いえいえ。先に言っておきますけど、私も紀元センパイの事大好きですからね? 多分、恵理さんに負けないくらい」
「・・・それは嬉しくないかも」
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