13.メンヘラ子
今回は恵理視点に変わります。
佳市の自殺未遂が発覚した。
そのショックを皆で引きずっていた。
半ば強引に先輩の先導で、下校後ハンバーガーショップに集合。
話題の中心は、勿論佳市。
「えりっちがあんな事するなんて、マジビビったョ!」
「恵理大胆すぎて、焦った。」
あんな事 とは 紀元佳市ビンタ事件
当のアタシは表情を隠しながらストローを咥える。
「えりっち、紀元に救われたんだ?」
ニヤニヤしながら半目で見てくる。このモードに入った先輩はたちが悪い。とことん食らいついてくる。出会った頃から変わらない性格。そんな先輩に悩まされたり、助けられたりした事を思い出す。
「恵理、リスカ止めれたんだね?おめでとう」
横に座っていた、由香の手がアタシの頭に伸びる。
「えらいえらい」
セットが崩れるので止めてほしい。
あんたに「えらいえらい」されても、そこまで嬉しくない。
少しの間我慢してから、由香の手を軽く払いのける。
「まぁ救われたというか、その・・・」
佳市の事を思い出すと、急に言葉が出なくなった。
まさか皆の前で、2人だけの秘密を丸裸にしてしまい、恥ずかしいのと、他の何かの感情で自分が小さい人間だと感じている。
「で、あんな啖呵きったんだから、何があったか言ってみ?」
「うんうん。私もそれ聞きたい」
やっぱりそこ聞くか。
正直、そこのを突っ込まれるのは分かっていた。だから店に向かう道中で気持ちの整理はつけてきた。それでも何か不快。本当はアタシと佳市の仲だけの大切な思い出。
「アタシが壁殴りして、傷だらけになった右手に包帯巻いてたら、紀元に見られただけ・・・」
自分でも全く説明が足らないのは分かってる。
でも、表面だけで言うとそれが全て。
「アハハッ! ちょっと意味わかんないんだけど?」
先輩が少しだけムッとした。
そんなこと聞いてるんじゃない。って顔に出ている。
「でも、本当にそれだけだよ」
「フーン。まぁいいや。で、何か紀元に言われたの?」
スルーしてきた。ムカつく。
言うべきか言わないべきか。出来る事なら、2人だけの秘密にしたい。
そこに先輩が畳み掛けてくる。
「傷見られました。やめました。にはならないっしょ?普通」
あーもう!この人はめんどくさい。
ずけずけと他人のテリトリーに入ってくる。
その性格が部活内での孤立に繋がったのに、分かってるのかな?と思う。
「えーっと。なんだったかな・・・」
由香がむむむ!って感じで見つめている。
そんな顔を友達にされると言わないといけない雰囲気になるじゃん。この時だけは由香が友達であることを後悔する。この子だけには勝てない。
それと、本当は言われたことは全部覚えている。
それもまた恥ずかしい。
すーと息を吸い込み、なるべく小声で話す。
「・・・うんっと・・・『次やる時は僕の前でやって。それで僕に手当てさせて下さい』・・・だったか・・・な?」
「で、好きになっちゃったんだ?」
「・・・うん・・・えっ?」
先輩も由香もニヤニヤしている。
そこが狙いだったんだと気づいた。
2人にも自分にもムカムカ。
「一言一句覚えているとか、本当に助けられたんだね」
ニヤニヤしながらも由香が助け船を出してくれた。
アタシは多分、顔真っ赤。
「・・・まぁ」
「えりっち、そりゃ弱ってる時に言われたら落ちても仕方なくない?ってかもう開き直っていいんじゃない?」
別に弱ってたからじゃない。
ずっと横顔を見てきた。
真面目で、優しくて、いくじなしで、優柔不断。
そんな佳市を意識したのは、ずっと前からだった。
開き直るとか意味わかんないけど。
でも、こんなやり方でバレたのは癇に障る。
やっぱりこの先輩は苦手。
もう中身が残っていないにストローを口にする。
ズーズーと音がするだけ。
その間で気持ちの整理をもう一度つけようとする。
「小郡さん、今日集まったのって佳市の事?恵理の事?」
「うん?どっちもっしょ? あんなん見せつけられたんだから」
少しだけ、由香が間を引き延ばしてくれた。
そこで恥ずかしい気持ちにやっと整理がついた。
「でも、紀元って彼女いるんしょ?なら片想いか~。辛いなぁ」
「うん。誠に遺憾」
そんなん最初から知ってるし?
だからって、好きになっちゃダメとかじゃないし?
彼女居ても少しくらいアピールしてもいいでしょ?
そんな言い訳を心の中で繰り返した。
ってか先輩以上にあの女は気に入らない。
アタシはこの場で話そうとしてたことがあった。
この人達なら、話しても大丈夫。
全員、佳市の味方だから。
でも今話そう。
間違ってたら、責任は自分で取る。
それで後から佳市にも謝る。
また息をスーッと吸い込む。
「ねぇ?紀元が戻ってきた理由、虐めじゃないと思う」
「えっ?えりっちどゆこと?」
言葉は発しないが、由香も頭にハテナマークを浮かべた感じで首を傾げた。
「たぶん、彼女と何かあったんだと思う」
「え? ナニ? 女の勘ってやつ?」
はじめは勘と言えば勘だったけど、今は違う。
「ちょっとコレ スクロールして見ていって」
2人に見えるようにスマホをテーブルに置いた。
実は佳市の彼女の投稿型SNSのアカウントをフォローしている。
そこに上がっているのは佳市との話ばかりで、フォロワーもクラスメイトぽい子しかいない。
で、中学の後輩が別のアプリで、他校の友達をフォローしていて、そのストーリーを見る機会があった。なぜか急に胸騒ぎがして、後から自分でもそのアカウントをフォローした。そこからあるフォロワーに飛んでいくと、胸騒ぎが激しさを増した。ただの【映え】を意識した内容だったが、ユーザー自体を不審に感じた。
今開いて見せてるのはそれ。
「これあそこのバッグでしょ?15万くらいしないっけ? あ?この財布欲しかったんだ~。これも高いんだよね〜」
「このお店、予約取れない。しかも高い」
「で、これがなんなの?」
アプリを変え、アカウントを開いて、またスマホを置く。
「ん? これ紀元の彼女? なんか紀元との惚気とかばっか。なに? えりっち、ちょっと怖いよ? 愛しの紀元を取られたからって・・・」
「違うって。さっきのアプリに変えて、アップしてる写真見直して」
少しスクロールすると、由香が反応した。
「自撮りの人一緒。メイクとか髪型、コーデが違う」
「うっそ?まじ?・・・・・・ほんとだ・・・」
同一人物のアカウント。
佳市の彼女【佐々原心美】の表と裏。
「紀元の彼女って金持ちなの?」
「・・・アカウントのホームに母子家庭って」
「うわ・・・まじだ・・・」
うちも母子家庭だけど、わざわざそんな事を世間にアピールなどしない。
でも、わざわざ書いてるってことは、何かのパフォーマンスだと思う。
色々、由香が気づきだした。
2人で観ていたスマホを取り上げ、熱心に触りだした。
アタシが気づいた事と一緒だと思う。
「バッグや服装、メイク、背景、料理・・・全部趣向が違う」
「ちょ、ちょっとゆかりん説明くわしく!」
「多分、この子、お金持ちとの交流がある。そこに年上の男性も混じってる。だって高校生だけでこの店には行かないと思う。あとこれ。傍で見切れてる人が男性の服装。それも少し年配。でもこっちは若い。一緒に友達も沢山写ってる。きっと何かのグループだと思う」
「うわぁ~。しかもこっち『ひかり』って名前じゃん」
残りのポテトを口に流し込む。
「勝手な予想だけど、紀元はこれの全部か一部を知ってしまって悩んでる。それも戻ってくるってレベルなんだから、けっこうパナイほどの何かがあったんだと思うんだよね」
「パパ活とか? えんこーしてるのかな? で、スマホ見ちゃったとか? あ、その現場にばったりとか?」
「全部見たけど。相手絶対1人じゃないね」
沈黙の時間が流れる。
なんで佳市ばっかりこんな思いしなきゃいけないんだろ?
虐めに彼女の良くない交際関係。家庭環境。1人で不幸を全部背負ってる。
助けたい。
でもこの事実を知った佳市はまた自殺をするかもしれない。
今度は、失敗しなくて本当に死ぬかもしれない。
アタシが好きな人が居なくなる。
多分、今、失ったら後を追うかも。それくらい大きな存在。
彼女が出来たくらいでちょーショックだったし。
あの時、先に告っておけば、付き合えてたかも?
メンヘラってて自分に自信がなかった時期だったし。
友達からも『メンヘラ子』って呼ばれてたし。
何よりもまだ異性として意識していなかった。
あの時は全部が遅かった。
「まだこの子。何か隠してるよ」
由香がまた何かに気づいた。
アタシが気づいていないことかも?
「ちょっと色々探ってみるね」
「うちも!うちも!」
佳市には迷惑かもしれないけど、やらずにいられなかった。
さて、心美は何を隠して?るんでしょうか。
書いててもめっちゃもやってしますね。早く書きたい。
ここから恵理は準主人公的な役割をもちます。
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