12.出来た後輩と不出来な先輩
久しぶりに何か食べよう。
そう思い立ち、冷蔵庫を開けた。
綺麗にすっからかんで、卵すら切らしてた。
この時間からATMに行くと手数料取られるから行かない。
でも財布の中には512円しかない。
カップ麺とオニギリくらいは買えるかな?
勿論、コンビニなんていう高級店には行けないので、遅くまでやってるスーパーまで行く決心をする。
服を着替えていると、ドアを叩く音がする。
ビクッ!と体が反応した。
もしかして、あいつが来たのかもしれない。
急に額が汗ばんでくる。
「紀元センパーイ、永遠でーす。いませんかー?」
明らかに奴とは違う声に安堵した。
声の主は大家さんの孫娘で中学の後輩、【公文永遠】だった。
この前、壊れたドアノブを修理してもらったので、その様子でも見に来たのかもしれない。
「今出まーす。どうしたのこんな時間に?」
「良いから開けてくださーい」
急かされる様にドアを開けた。
「やっと開きましたー。生きてて良かったです」
その言葉に何かを見透かされた気がした。
「どうしたの?遅い時間なんて珍しいね?」
「そっちこそ珍しくこんな時間に電気が点いていたので」
そうか。いつもこの時間はバイトしていて、僕の部屋は真っ暗のはずだ。それが電気が点いていると不自然に思えるかもしれない?思わない?良く分からなくなってきている。
「体調崩してて、バイト休んでるんだよね」
「えっ?体大丈夫ですか?取り敢えず中入っても?」
「あ、どうぞー」
まぁ直ぐに帰るだろうと思い、招き入れた。
「相変わらず、狭い部屋ですね・・・」
君がそれ言う?
「センパイなんかやつれてませんか?ちゃんと食べてます?」
「実は調子悪くて、数日食べてない・・・」
はぁ~と深い溜息をつかれ、いきなり頭を小突かれた。色々、台所近辺を物色していたが、本当に何も無いのが分かったのか、無職の旦那でも見るような表情で、僕の前に座る。
「お金無いんですよね?何か余りものでいいなら持ってきますから」
「いや!お金ならあるから!施しはいらないから!」
焦りながら制止する僕の手をするりと潜り抜け、部屋から出て行ってしまった。
人から物を貰うのは苦手で、極力避けてきた。施しを受けているようで、惨めに思えてくる。働けるなら働いて、そのお金で物を買いたい。それが僕のアイデンティティだった。
だからこんな強硬手段に出られるのは正直困る。受け取らないと逆に失礼になってしまい、受け取るしかなくなる。そうすると耐えてきたものが崩壊しそうで怖わい。
戻ってくるよね?来ちゃうよね?
案の定、ものの10分くらいで、永遠は戻って来た。
なんせ自宅は僕が住んでいるアパートの隣だ。
おにぎり二つとオカズを三品ほど皿に盛ってある。
それをレンジで温めてくれる。
久しぶりに舌が味を感じた。
そして惨めな自分と、暖かいご飯に涙が止まらなくなった。
「ちょ、ちょっとセンパイ? どうしたんですか?」
「・・・わかんない」
明らかにいつもと違う僕に、永遠は狼狽えてしまい、アワアワとしている。
水道水を飲むと少しだけ落ち着けた。
そんな僕を見つめる、永遠の優しい表情に吸い込まれそうになる。
「きっと、辛い事、またあったんですね」
違うんだ。
人の優しさに触れてしまうとこうなってしまう。いつも僕の周りから人は去っていった。そんななか生きてきた。たかだが16年の人生かもしれないが、その16年は僕の全てだ。先輩達にも、あいつにも、優しさを感じたときはこうなってしまっていた。
今日だってそうだった。
僕は本当に脆い。
情けない・・・
不意に僕の背中を永遠が叩いてくれた。
トントントン って子供をあやすような
「なんだよ?」
「センパイは自分で抱え過ぎなですよ。無理しないでくださいね? 困った時は誰かを頼っていいんですよ?」
後輩にそんなこと言われると、さらに惨めに感じるじゃないか。
やめてよ。
僕まだ頑張れるから。
大丈夫だから。
「急いで食べないで、ゆっくり食べて下さい?誰も取りません」
また、泣きながら、差し入れてもらったご飯を食べ続けた。
明日は9時予定でアップします。
また明日、心美が暴れます。
どういった価値観なのか想像してみてください。
まだまだ心美の深層心理までとはいきませんが、お楽しみ下さい。