表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】人生に正解なんて存在しない  作者: 空腹の汐留
本章
13/45

10.僕は過ちに気付く

学校まで10km


いつもなら軽快に回るペダルが重く感じる。

昨日の事を引きずってるからではない。


虐めなんて慣れている。

やり返さずに、無視をすれば、そのうち相手も飽きる。


だけど、あの夜の心美の姿だけは耐える事ができない。それからくる食欲不振から、全く力が沸いてこない。


普通の高校生は親が送ってくれる?

辛いなら休んだっていいの?


そんな甘えが許される?


だって高校生なんだから?

未成年なんだから?


でも僕にはそんな甘えは許されない。

生きるためには、自分で乗り越えるしかない。


たまたま親がいないから。

たまたま貧乏だから。


そんな理由で、僕は皆と違う物を乗り越えないといけないんだ。


死ねないなら生きるしかない。








準備室の前で一呼吸。


すーはーすーはー


二回してんじゃん、とか野暮なことは言わないでおくれ。



「おはようご・・ウフッ・・・」


扉を開けた途端、3人に取り押さえられた。


大中小の柔らかな感触が・・・煩悩をしげき・・・



「の"り"も"と"~」


「紀元、紀元、紀元」


「佳市、よかった・・・」


どうしたんだ?この人達?

泣きたいのは僕なのに、なんか代わりに先輩たちが号泣してる。

重役まで定時に登校って何があったの?


あ、ペタペタさわるな! あ!そこ!大事な・・・!


六本の腕によって僕の身体はもみくちゃにされた。



「せ、先輩たち、朝からどうしたんですか?」


「の"り"も"と"ぉぉぉ~」


こら! 無理やり濁点を濫用するんじゃない! そんな響きは日本語にないでしょ!


取り敢えず、全員話にならなかったので、1人1人落ち着かせて、いつもの席に座らせた。なんで下級生の僕がこんなことを、なんて言わない。この人たちが泣き虫なのは知ってる。


「で、どうしたんです?落ち着いて話してもらえませんか?」


「「「・・・」」」


「Can you speak Japanese?」


複数形になってなくない? なってない。 いいんだ今は。


「わだじがへんなごどいっだがら、のりもどがぁ~」

「アタシが買ってきたスポドリののせいで・・・」

「良かった。あと佳市、ちゃんと男の子だった」


「ちょ、ちょっと皆一斉に話しかけないで!」


3人一斉に話し出すから、全部聞き取れなかったでしょうが!

あとなんか変なの一つ混じってなかった?

よく聞こえなかったけど、変なの1人いたよね?


「ぼ、僕は大丈夫ですから! 何か昨日はごめんなさい!」


「「「ほんと?」」」


仲いいな?おい。


「ほんとにほんとですよ。 だから泣き止んでくださいよ」


ぐすんぐすんと嗚咽をしながらも、先輩達は泣き止んでくれた。

傍から見たら、女を3人も泣かしてるクズ野郎に思われてしまうじゃないか?

そんな甲斐性は僕にはないよ!


「でも、虐めがそこまで酷くなってたなんて・・・」


「ごめんね。佳市。私気づいてあげられなくて」


うん?昨日は確かに虐めが一時的に酷くなったし、それもあって早まった事をしかけたのは間違いない。

だけど、僕がここに戻ってきてしまった理由はそれじゃない。あのモノの裏切り行為によって、ここに戻る結果になってしまったわけで。


そんな話を誰にもしていないから、勘違いされるよね。

だから勘違いのままでいいや。


「ねぇ?首の包帯の下、見せてくれる?」


遠山先輩の言葉にギクリとする。


僕は首の痣を準備室の人達に見せたくなく、包帯を巻いて登校していた。

昨日聞かれたときも、「ちょっと髭が生えてきて、その処理に失敗しました」って流していた。


「ねぇ紀元?見せてよ」


「と、遠山先輩?傷口開いちゃうからね?ね? 強制執行は裁判所の許可の上、行政だけに許されたものだからね? やめましょうね?」


「由香! 紀元確保して!」


「アイアイマム!」


どこで覚えた!?その掛け声!!

遠山先輩と由香先輩の見事な連携プレイにより、僕の首に巻かれた包帯はあえなく剥ぎ取られる。

こんな状況でも背中に当たった、中型の柔らかなタワミは、僕の力を削ぐには効果が抜群だった。僕から触れにいった訳じゃないからセーフでしょ?


「「「えっ!?」」」


仲いいな?おい。 デジャヴ


その反応になるのは分かっていた。

この痣を見て、僕が何をしようとしてたなんて一目瞭然。


「佳市、その痕って・・・」


「ゆかりん、それ以上言わない・・・」


遠山先輩に至っては、何も言わず、ただ泣いていた。

2人も絶句したまま、それ以上の言葉を掛けてくれない。



「えーっと。失敗したしだいでありまして。こうして五体満足でおります」



下を向き直視すらしてくれなくなっちゃった。

そりゃそうだよね。馬鹿なやつ、と思うわな。

いいんだ。僕なんて。


「紀元、ちょっとこっち来て」


近くに居るのに何事?と一歩だけ、遠山先輩に寄った。


バチ─────ン!!


僕の左頬を叩く音が室内に響きわたった。


小郡先輩と由香先輩がその音に反応し、うつむいている体が少し跳ねた。



「あんたね!? アタシにはあんなことしておいて、自分で何してんの!? なに様!? もう絶対にこんな事しないで!?」



泣きながらだけど、ハッキリとした口調で、遠山先輩が叫びに似た声を上げた。

もしかしたら、一般教室がある所まで、その声は響いたかもしれない。

それくらいふり絞った声だった。


「これ見て!? アタシね!? あんたに助けられて、リスカしなくなったんだよ? 見てよ?ちゃんと! これ!ほら! 新しい傷ないでしょ!? ねぇってば・・・」


左手首に巻かれていたリストバンドを投げ捨てると、自傷の痕があらわになる。

確かに、傷は古いものばかりで、新たにつけられたものはなかった。


「・・・うん。綺麗だ。右の拳も見ていい?」


「いいよ・・・ほら・・・」


遠山先輩は右手の拳を僕の目の前に突き出した。


僕の方が、15cmほど背が高い。


だから不格好。


さっきのビンタも、精一杯手を伸ばして、叩いてくれたんだな。


「綺麗だ・・・すごいね・・・」


遠山先輩はリスカ以外に、過度の緊張やストレス過多になると、自宅のブロック塀を血が出ても殴りつける癖があった。


以前、包帯でぐるぐる巻きになった手を見て、僕が言っちゃったんだっけ。苦手な先輩と少しでも仲良くなりたくて。「次やる時は僕の前でやって。それで僕に手当てさせて下さい」って。

それから何度も、遠山先輩のリスカの痕も手当てしたっけな。



「アンタが居たから、止められたんだから! だからもう・・・」



僕のために泣いてくれるこの人に、僕はなんてことをしたんだろう。

後悔先に立たずだね。


でも、この顔を思い出せば、もう衝動を抑えられる。

そう感じた。

何でかは分からない。




「出来が悪い後輩ですいません。以後、絶対にしません」


4人の精神的問題児の鼻をすする音だけが残った。

自傷行為って、リスカまでしなくても、多くの人がしますよね。

痛気持ちいい的な。


続きを読みたい など思っていただけましたら、

ぜひ、ブクマ・評価・感想をお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ