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06. ミッション・コンプリート! のはずが……

〇前回のまとめ

・おっさんファイブにビビって藪に隠れた。

・彼らが落としたロープとメモを入手した。

・メモの暗号を解読した。

 メモの通り、山頂には大きな岩があった。

 そして、エリンたちがその裏へ回ってみると……。


「あった」


 そこには、直径1,2メートル程の穴がぽっかりと開いていた。ラトナは大きな穴と言っていたが、エリンの予想よりは小さかった。

 それでも子供が落ちるくらいだから、シデラ目線では大きいと言えるのだろう。


 エリンは穴の近くにある木の枝にロープの一端を結びつけ、もう一方の端を穴の中に投げ込んだ。

 このロープはそれなりに長い。山登りで使うくらいだから、様々なシチュエーションを想定しているのだろう。


「おじさんたちに感謝しないとね」

「ソウデスネ」


 エリンは心の中で自己の行為の被害者に謝意を述べ、モヴィーに続いて穴に入っていった。


 2人が降りている部分は傾斜が比較的緩く、頑張れば歩いて戻れるかもしれない。

 しかし、突然傾きが急になることだってあり得る。それに行きは良くても帰りは子供を連れてくることになる。用心に越したことはない。


 エリンは一度死んでいるだけに、自分が必要以上に注意深くなっているように感じた。

 他方モヴィーはトントンと進んでいき、早く来るように言ってくる。こういうところはやっぱり子供なんだなと思う。


 下へ下へと降りるにつれ、傾斜はむしろ緩くなっていった。そして、出口らしきものが見えてきた頃、ロープの長さが足りなくなった。

 仕方なくエリンはロープをその場に放った。ロープの端と穴の出口がそれほど離れていないことラッキーだった。


「うわぁ、広いね」

「うん、よく山の中にこんな場所があったね」


 出口を抜けると、そこには大きな空間が広がっていた。高校の教室2,3個分はありそうだ。

 2人は空洞の奥へ進んでいった。山の内部にこのようなスペースがあることに驚愕し、忘れそうになった迷子のことを思い出して探し始めた。


「お~い、シデラくーん」

「ラトナさんが探してるよー。出ておいでー」


 現世の“神崎麟太郎”がこんなことをしていたら、いくらイケメン(そう言うのは親戚のおばさんくらい)とはいえ、不審者のレッテルを貼られてすぐに通報される。

 だが、エリンはかわいらしい(?)少女であり、そこまで警戒されないだろう。それに子供をなつかせるため、いくつかスウルーを持参してきた。


 「お菓子をあげるからとか、お母さんが入院したから病院まで連れて行ってあげるからとか言ってくる人について行ってはいけませんよ」と小さい子供は大人からよく言われるが、あれは実際にそういう手口の事件が起きているからだ。

 ということはつまり、美味しい木の実をあげるから一緒においでと言えば、数時間放置されている子供なら容易に付いてくるはずだ。

 エリンもとい麟太郎、この世界でならきっと立派な犯罪者になれることだろう。


(そういえばあのおっさんたち、子供については何も言ってなかったな)


 もしかしたらここ以外にも穴があるのかもしれないし、おっさんファイブを警戒した子供が岩陰に隠れたのかもしれない。そもそも眼中になかったということもあり得よう。


「誰?」


 エリンがモヴィーとは反対側をきょろきょろしながら歩いていると、不意に後方から声をかけられた。振り向くと、岩陰にはラトナから聞いたシデラの特徴と合致する子供が座り込んでいた。

 エリンが子供の方に歩み寄っても、子供は騒いだりする様子もない。ただジッとこちらを見つめてくる。

 視線が辛い……。エリンは動物の他に子供も苦手だったことをすっかり忘れていた。

 だが、こちらが怯むと子供にも動揺が伝わるかもしれない。エリンは寛大な心を意識して話しかけてみた。


「君がシデラ君? 私はラトナさんに頼まれて君を助けに来たよ」

「ラトナが……!?」




   ♦




「坊ちゃま~!!ご無事でなによりですゥー!」

「心配かけてすまない、ラトナ」


 あれからエリンたちはシデラを抱えて脱出し、元来た道をたどってラトナと出会った場所にまで戻ってきた。さすがにおんぶはしなかった。もちろん頼まれても断っただろうけど。

 今のエリンはかつての引きこもりの頃と異なり、かなり体力的に発達しているようだ。それでもかなり疲れたことには変わりない。

 ラトナは元いた場所にずっといたようだった。やっぱりこの人アホだ。他にできることあっただろっ!

 …………まぁ、終わり良ければってところかな。


「さぁ坊ちゃま帰りましょう!」

「うん」

「ちょっと待て」


 エリンとモヴィーなどいなかったかのように帰ろうとする2人に突っ込みを入れると、ラトナは何か用ですかと言わんばかりの表情だ。こいつ、救いようのないクズの極みだな。

 モヴィーはモヴィーで、無事でよかったねぇとのほほんとした顔だ。お人好しは正義じゃないんだよ。


「オルティス家とは、身の危険を顧みずに御曹司を救い出した恩人に対して礼を言うこともできない低俗な家柄なのでしょうか?」


 帰り道でエリンたちはシデラのほぼ一方的な話を聞かされていた。

 シデラはフェケテシティという街に住むオルティスという男爵一族の次男坊であること、シデラが世話係のラトナと共にスウルーを採りにあの山に遊びに行ったこと、などを聞き出していた。


 オルティス家をバカにすることはシデラをバカにすることのようだが、長男でないシデラは自分の家を居心地が悪いと言っていたから構わないだろう。それに男爵だからね。芋みたいなもんでしょ。


「何ですかあなたは。無礼ですよ!」


 忠誠心溢れるラトナが怒り出しているがまあ気にしない。むしろ腸が煮えくり返りそうなのはこちらの方だ。


「ラトナさん言いましたよね。そこの坊ちゃんを助け出したら相応のお礼をさせていただきますって。この場合だと坊ちゃんの命と同等のお返しをしてくれるのが条理でしょう。

それともあれですか、平民風情との約束なんか守らなくてもよいとか傲慢な考えだったのですか?」

「フッ、平民? 何を言っているのですか。どこからどう見ても奴隷風情のあなたが。首輪付けていなくても、私たちからすれば奴隷と大差ないんですよ!」

(うわー、本性表しやがったな。こんな奴に育てられた子供の将来が心配だわ……)


 口元では笑みを浮かべつつも、ラトナは額に青筋を浮かべている。その様子を見て、エリンはもう怒るというより呆れてきた。


「その奴隷風情に泣きついてきたのはどこのどなたですかねぇ。いや、そもそも私は奴隷じゃないし……」

「はぁ、どこからどう見ても奴隷でしょうが!」


 そりゃ確かに薄汚い格好しているのは認めるけども、外見だけで差別するのは良くないと思うよ。


「エリン、シデラ様も無事だったんだしもういいよ」


 モヴィーはシデラの家が貴族と聞いてからシデラ様と呼んでいる。身分制社会に生きる者とそうでない者の価値観の相違だろう。平民は貴族のわがままに従って当たり前。

 だがエリンにとって、前世での上司や取引先でもないモブキャラに遜るなどもっての外だった。


「はぁ!? お前は相手が貴族なら親の首でも黙って差し出すんか? あ?」


 ここまで平静を意識していたエリン。しかしモヴィーの介入で、つい声を荒げてしまった。

 最初の頃の異世界への感動などとっくに薄れ、ただ憤りだけを感じていた。

 モヴィーに詰め寄ると、エリンは腕をとられて抑えられた。幼いわりに意外と力が強く、抵抗が難しい。


「あーもう大丈夫です。この子はオイラが何とかしますんで、もう大丈夫ですよ」

「旦那様もご心配なされますし、今日のところはこれくらいで勘弁して差し上げますわ」


 エリンの逆上に多少たじろいだ様子を見せたラトナだったが、すぐに持ち直し、フンッと鼻を鳴らしてシデラを連れて去っていった。

 エリンは、ラトナたちと距離が開くまでモヴィに取りおさえられていた。


「もうエリンったら、落ち着きなよ~」

「放せモヴィーよ。私は権力に従うのが嫌いなんだ。非暴力・不服従が座右の銘なんだから」

「何を言ってるか分かんないよぉ。それにそんなんじゃ記憶が戻る前に捕まっちゃうよ」

「やかましいわっ。ていっ!」

「うぐぅ!」


 エリンは腕を回しこんでモヴィーの股間をギュッとつかんだ。モヴィは悶絶してエリンを開放する。

 ガンジーもビックリの強引な手段だ。

 手をはたいて立ち上がったエリンは、ラトナが歩いて行った方向を鋭い目で眺めていた。


 既に陽は傾き、エリンが登った山は紅に染め上げられていた。





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