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01. 君はまだ、人生の厳しさを知らない!

 大学3年の3月、多くの学生はこの時期になると就職活動を始める。


 外資系とかベンチャー企業とかだったら、とっくに終わりましたってところもあるみたいだけど、世間一般の間隔で言えば『就活始動!』って感じだろう。

 まあ、公務員や進学志望の学生や、自分の人生に何ら危機意識を持てないような人種を除いて……。

 他にも、在学中に試験に受かって今は卒業待ちですとかいう贅沢な人間もいる。

 

 神崎麟太郎(かんざきりんたろう)は、その時期を迎えるまでは順風満帆な人生を送っていた。


 大して勉強なんかせずともそこそこ優れた成績を修め、ある程度有名な大学に進学。

 順調に単位を取得し、このまま就職して悠々自適な人生…………のはずだった。


 だが、人生そんなに甘くはなかった。

 就職活動という、ほとんどの学生が避けては通れない道で彼はつまずいた。


 彼のもとに届いた不採用通知は優に100を超え、起死回生を狙って大学院を受験するもまさかの全落ち。挙句の果てに4年生で単位を落としまくって、留年が決まる羽目になった。


 翌年になんとか就職を果たすも、一度正規ルートから外れた者が入れる職場がまともなハズはなかった。

 入社から3年、26歳になっても日々奴隷のごとく酷使され、最早人生に価値を見出せなくなっていた。




「なあなあ。ええじゃないか、ええじゃないか」

「や、やめてください…………!」


 それは、もうすっかり日が暮れている時のことだった。

 この日も終電間際に仕事を終え、麟太郎はやっとの思いで駅までたどり着いた。


 乗り換えで利用している駅はいつも利用客でごった返しており、奥へ進むにはギリギリのところを歩かなければならない。


(相変わらずの人ごみだな…………)


 そう思いながら麟太郎が階段からホームへ下ると、ホームの真ん中で、臭そうなおっさんが綺麗な女子大生に変絡みしていた。

 周囲には大勢の人がいるのに、誰も介入しようとしない。皆、どうせ駅員が止めるとでも思っているのだろうか。

 麟太郎だって面と向かって注意する気力はなかった。それでも、せめてすれ違いざまにバッグで頭を叩いてやろうとおっさんの後方へと歩いた。


 目の端でおっさんの禿げ頭を捉え、片腕を振りかぶろうとした時だった。


「もー! いい加減にして!!」

「―――――――え?」


 堪りかねた女子大生がおっさんを突き飛ばし、真後ろにいた麟太郎にぶつかった。

 生憎、その駅には利用客が多いにもかかわらず、安全ドアが設置されていなかった。


 おっさんの衝撃でバランスを崩した麟太郎は、勢いを止めることができすに線路の方へ…………。


『まもなく、1番線に千葉行きの列車が参ります。危ないですので――』


 空中へ身を投げ出された麟太郎の耳に、喧騒と構内アナウンスが虚しく響いた。


(ああ、恨むぞJR…………)


 電車のライトで顔を照らさてた時、麟太郎はこれまで過ごしてきた20余年の人生が思い返された。


 決して長いとは言えない人生。

 部屋の中でゲームに興じたり、一日中本を読んだり海外ドラマのDVDを観たり、学校で授業中ずっと外を眺めていたり……。


(俺の人生しょうもなっ!!)


 神崎麟太郎の最大にして最期の突っ込みは、誰にも聞かれることはなかった。


(もし生まれ変わるなら、願わくば何不自由ない人生を送りたい)


 そうして、麟太郎の意識は闇へと沈んでいった。




   ♦




『…………ふっざけんなー!!』


「え!? 何、今の? 頭の中に声が……」


『…………あー、テステス。聞こえますかー?』


「は~い、聞こえますよ~。それより、どなたですか~?」


『あん? あんま驚かないんね。ま、いいや』


「はぁ……」


『あーもう、何で毎回毎回失敗するんかいなー。放置してもダメ、干渉しすぎてもダメ。甘くしてもダメ、厳しくてもダメ……』


「えっと、とりあえず状況を教えてくれると助かるのですが……」


『あーそうやったな。こっちと接触するのは初めてやからなー』


「“こっち”?」


『せや、こっちや。まずは自己紹介でもしとくか。俺は……そうやな、神だ!』


「はぁ、ウチはマンヨウ宗なんでそういうのはお断り――」


『ちゃうわ! 宗教勧誘じゃないわ! てかマンヨウ宗なんてもん、そっちの世界に無いやろ』


「あーよくご存じで」


『んま、神っつっても、正確に言うと観察者っていうか、シミュレーターだな。そっちからしたら神様みたいなもんやから大差ないやろ』


「はあ。では、その“自称神様”が俺に何の用で」


『なんか嫌味な言い方やな~。まあいいや。簡単に説明するとな、アンタらがいる宇宙ってのは、俺たちが生物社会の研究のために創った仮想世界なんや』


「ハロウィン?」


『それは仮装大会や! 面倒くさいな~、アンタ。まあ困難なったのも全部俺のせいなんやがな』


「ん?」


『そっちで言うところの自由研究やな。コンピュータで仮想の宇宙空間を創り上げて、そこで適当な個体(AI)の育成シミュレーションをしつつ、社会の変化について見ていかなあかんねん』


「ほう。つまりどゆこと?」


『ハァ、あれや。要するにアンタらは、たまご〇ちなんや!』


「は? 俺たま〇っちだったの!?」


『せや。厳密に言うと違うけど、まあ似たようなもんや。グループのみんなで1日ずつ、そっちだとだいたい100年くらいやな。交代で観察(プレイ)するんやけど、その際適当に中心にする個体を決めて、そいつをウィキペデ〇アにするのが最低ラインの目標やねん』


「ウ〇キペディアにそんな秘密があったとは……」


『どや、知らんかったやろ。みんな“ウィキる”って言ってるわ。歴史に名前を残した証拠みたいなもんやな。普通にしとったら無名のまま死んだはずの奴らに、俺たちが時々干渉して成長させるんや』


「なるほどねぇ」


『つっても、こっちで設定できるのも限りがあるんや。社会で求められる能力、アンタ分かるか? コミュ力、体力、語学力や。こればっかしは、そっちでどうにかしてもらわなアカン』


「あ、全部ないや」


『せや。そこそこ学校の勉強ができるやつなんて、世の中にはありふれとる。お山の大将になって調子のってたな。

 残念やけど、まともな会話できんヤツに価値はない。アンタは就職してマシんなったけど、ちぃと遅かったな。やっぱ友達くらい作っとかんと』


「や、やかましーわ!」


『まーまー。自業自得やさかい。

 てかさ、俺の前の子なんか、見えない・聞こえない・話せないとかいう無茶苦茶な初期設定ぶち込んだのに、その子はそれを克服してすげぇ立派になったんよォ』


「もしかして、ヘレン・ケラーですか?」


『なんや、知ってるんかいな。そういや確かそんな感じの名前やったな。スゲーよな。やっぱ優等生はやることが違うわ』


「ホエ~」


『ちなみにアンタは俺の2周目なんやけどな、俺が前に担当した徳川家継なんか、折角邪魔な連中を排除して将軍にしてやったっちゅうのに、8歳で死んでもうたんよ。まさか兄貴死なせた薬が残ってるとは思いもせんかったわ』


「なんか物騒なこと言ってる……」


『あれじゃ班の評価が下がるからやり直せって班長に言われたんで、俺は今回アンタを担当することになったんや』


「えぇ……。ちなみに俺の人生が成功してたらどうなるはずだったんですか?」


『…………大臣からのノーベル賞やな(願望)』


「ウヘ~、もったいない」


『俺だけ大した結果残しとらんねん。さすがに2周目やから、グループのみんなに無理言うて何回かやり直しさせてもらってるんや』


「…………ということはつまり、俺はもう何度か人生やり直してるってこと?」


『そや。そこそこ勉強のレベルを高めに設定しといただけあって理解が早いな』


「知りたくなかったその事実」


『まあそうガッカリしなさんなや。俺の方がショック受けてるんやから』


「……ちなみに今、何回目?」


『あ? ちょっと待ってな。…………えっと、7回目やな』


「7回!?」


『せや。最初はブラック企業の下っ端のまま過労死。2回目は芸人として将来が期待されるも、相方の不祥事が原因で解散。その後は引き籠りになって30なる前に死亡。3回目が大学出てエリート商社マンになるまでは良かったが、弟の痴漢冤罪で没落。4回目は高校の時、ブサイクにストーカーされた末に逆レイ――』


「分かった。もう聞きたくない」


『ん~、6回目に生まれさせた家を継がせて大企業の社長にしようと思ったんやけど、裕福にさせ過ぎたら食べ過ぎで死んだから、今度は貧乏でも勉強そこそこできるようにしたんや。まさかあーなるとは想定外やったわ』


「最初の就活から終活が始まってた気がするよ」


『大学院受ける時、ほとんど受験番号間違えてるんだもん。さすがに3回連続はないやろ……』


「はあ!? ということは、本当は受かってたはずだったの!?」


『せや。下から何番目とかやけどな。…………あー、俺としたことがうっかりしとったわ。ちょっとゲームして目を離してただけなのに』


「おいテメエ。よくも人の人生台無しにしやがったな」


『ええやん、ええやん。所詮はアンタもAIなんやから』


「おいおい。AIにも人権を――」


『それに、文系の大学院なんか行ったとこで大して期待はできへんで』


「うぐっ」


『まあいいや。終わったことはしゃーない。それに俺はもう地球を諦めた!』


「は? 何言ってんの?」


『アンタを別の世界に飛ばすことに決めた。そこで頑張って歴史に名前刻んでくれや』


「転生ってこと? てか人口に膾炙(かいしゃ)するとかイヤなんですけど……。あ、そもそもウィキペ〇ィアとかないから――」


『あーもう! ウィキペディアとかそんなんどうでもええねん。俺はもう嫌になった。それで十分や。七転び八起きとかクソ喰らえだ!

 地球での記憶は写しとくから、アンタにとってもそう悪く無い話やろ。…………っと、赤ん坊のまま人格が大人なんは気持ち悪いから、17歳くらいの子に魂ぶち込めばいいか。…………お、丁度ええのがおるやん』


「ん? 何を言って――」


『これなら言語能力も受け継げるし、不自由せんやろ。あー、あと転生する副作用みたいな感じで他の記憶も抜けるかも知らんけど、オマケも付けたるからそこは堪忍な』


「え? まぁ、楽に生きていけるなら……」


『何甘ったれたこと言ってんねんっ。さっきのヘレン・ケラーにせよ他の人たちにせよ、歴史に名を遺した偉人っていうのは、みんな苦労を重ねてる人ばっかしや。努力もせずに楽に生きて大成できると思うなよ!』


「え~面倒くさい。大成しなくても別によくない?」


『よくないっ! アンタはまだ、人生の本当の厳しさを知らない! ……ということで苦労してこい。ポチっとな』


「え、ちょっと? イヤだ。俺はもう苦労なんてしたくないんだ……って、うわーーー!!」












『お、行った行った。…………じゃ、ゲームの続きでもしよっと』





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