第73話 使えない奴ら
今回は軽い準備回と言ったところになると思います。今回の話ではあまり進展がありませんが、その次の回へと続くには欠かせない部分なので、しっかりと読んでいただけると今後の展開も楽しめると思います!
それでは、どうぞ!
ドン!!!
【何やってんのよ!!あいつらは!!協力しろって言ったじゃない!!】
女神マルクはその麻里のあまりのやられっぷりと、協力して戦わなかったことに怒って、下界の様子が見える水が入った水桶の縁を叩いた。
【あ〜本当に使えない奴らだわ!!なにが『必ず世界を救ってみせます!』よ!なにが『絶対そいつを懲らしめて、世界を救ってみせます!!』よ!!何1つ出来てないじゃない!!あ〜あこんなに使えない奴ら呼ぶくらいなら自分が行った方が良かったわ〜。けどそれをしたら他の神から絶対に何かされる…ああもう焦れったい!!早くあいつを殺してよ!!】
そう言って、女神マルクは下界の様子が見える水桶の側面をガンッ!!と蹴った。
グレムたちはキグル王に逆にお願いされ、王宮に住まわせてもらっていた。麻里と戦い終わってからの次の日の朝の事である。
「君が…"元"魔王…?」
キグル王は驚いて、手を止める。だが、マーシャ姫とその母、ルリア王妃は全くグレムのその言葉に驚かないで、朝食を普通に食べている。グレムは言う。
「はい、だから、自分があのグレムっていうことは本当です。この際なので言ってしまいます。」
「ちょっと待ってくれ、整理させてくれ。マーシャは君と会ってクラスィヴィーの花を持ってきて妻を助けて…どういうことだ?」
キグル王は戸惑っている。すると、ルリア王妃は口を拭いてから言った。
「あんたが『グレム』なら、私は女神マルクをもう信用も信仰もしないよ、命を助けてもらったんだ。それにわざわざ私を助けるために出向いてくれた。それだけの優しさがあるのに、女神マルクが言っていることが本当だとは思えないからね。」
マーシャ姫も続けて言う。
「私は…グレム様がどこの誰であろうと関係ありません。こんなに優しい方が、そんなことをするわけありません。グレム様なら、寧ろ、人間に友好的に接していくと思います。だから、私はグレム様を絶対に信じます。これだけの恩を頂いておきながら、突き放すことなぞしたら正に天罰が下ります。何より…好きですし…。」
マーシャ姫はそう言って顔を赤らめる、その2人の言葉を聞いてキグル王は言った。
「確かに、君にはいい事しかしてもらってない。私たちに害をなすようなことをしたことが無い。しかも、これまでに数々の国を助けているんだ。私も君を信じよう、だが何故、何もしてない君を女神マルクはそんなに悪く言うんだ?」
「それが分かってたら…良かったんですがね…。何も分かっちゃいません、女神マルクが何を思い、何を考えてこうしているのか…。自分はただ、人助けがしたいだけなのに…。」
そう言って俯いているグレムにマーシャ姫は椅子から下りてグレムに近づき、その手を握りしめた。そして言った。
「私たちも一緒に考えます!恩人がこんなに困っているんです、黙って見ているだけでは私たちは嫌です!全力で、協力させていただきます!」
今度はルリア王妃が言った。
「マーシャの言う通りだよ。こんなに優しい人がこんなに酷い扱いを受けるのを黙って見てちゃいられない。あんたにはお世話になった身だ、私も出来るだけ協力させてもらうよ。」
キグル王も2人の言葉を聞いて「しょうがないな」というように息をついてから言った。
「はぁ…私が愛してやまない2人がこう言うんだ、私だけ手伝わない…という訳にはいかないだろう。王国として国を守りながらでもよければ、協力するよ。グレム君。」
グレムはみんなの言葉を聞いて言う。
「皆さん……けど、ありがたいことですが、大丈夫です。既に、この王国に追っ手が来ていました、そいつとは昨日戦ったばかりです。王国として『グレム』に協力しているようなことが分かれば、女神マルクはこの国をも滅ぼしてくるかもしれません。自分のせいで皆さんに被害が及ぶのは…嫌です…。」
そうグレムが言うとルリア王妃は笑って言った。
「あっはははははは!!!本当にあんたは優しい奴だね、気に入ったよ。ここまで心が綺麗な人間がいるとは驚きだ。何もこっちが協力しているという事を隠せば問題ないだろう?だからあんたは気にしなくていいんだよ。うちらが勝手にやらせてもらうからさ。」
その王妃の言葉に王もマーシャ姫も、グレムの方を見て頷いた。
グレムは自分の事を受け入れ、更に協力までしてくれると言ってくれたことに感動して涙を流し始めた。
「本当に…いいんですか…?俺は、"元"魔王ですよ?」
王妃が返す。
「知ってるさ、あんたが私たちを信じて打ち明けてくれたんだからね。」
マーシャ姫はハンカチを出してグレムの涙を拭き取りながら言った。
「私たちは、好きであなたに協力したいんです。『"元"魔王』である、優しいあなたに。」
グレムはその場の全員に言った。
「ありがとう…ございます…!!」
そのグレムの言葉に3人は全員笑顔で返した。
「はっ!!」
麻里はベッドから起き上がった。あれ?私はあいつにやられて…死んだはず…。なのに、体は綺麗だ。しかも何で宿屋にいるんだ?私…。
麻里はすぐに支度をして部屋から出て宿屋からも出ようとすると、店主に声をかけられた。
「おい、あんた。大丈夫だったかい?あんた、どうやら酷い怪我を負って運ばれてきた様子だったが…。」
麻里はカウンターに手をついてすぐに店主に言う。
「その人って誰ですか!?」
「あ、ああ。確か『グレム』とか言ってたな。『酷い傷を負ったので回復魔法をかけた状態で気絶しています、寝かせておいてあげてください』って言ってたよ。宿代もその人持ちだ、いい人と仲良くなったもんだな。」
麻里はその話を店主から聞いて考えながら宿を出た。世界を脅かしている魔王が?私の怪我を治しておまけに宿代まで出して寝かしておいてくれた?…信じられない。けどあの店主が嘘を言っているとも思えない。ああ!!もう!!どういうことよ!!
そう思っていると正面にいた男に声をかけられた。
「おい、酷いやられっぷりだったな。負け犬の救世主様。」
麻里はそう言われて少し距離をとる。それは正人であった。麻里は言う。
「あんたほどダサくはないけどね、ありとあらゆる魔法を使って負けた…あんたはどう?当たらないように剣を振り回していただけ。」
「減らず口を言わせに来たつもりでは無かったんだがな。…まぁ、俺の最初の発言が悪かった、謝る、すまない。」
「どうしたの?今日はやけに友好的じゃない。」
「…これで分かっただろ?あいつの実力が。」
麻里はそう言われて思い出す。まるで勝負を仕掛けた瞬間にはもう負けが決定していたような、圧倒的な敗北。そしてその歴然とした力の差、敵うわけがない。勝てる確率はそもそも0だった、それほどまでに絶対的な差を感じた。麻里はまだ体にその感覚が残っていて少し震える。
「その様子を見ると…分かったようだな。あいつを倒すには1人では絶対に無理だ。だから協力しよう、嫌なのは分かる。俺だって、最初は1人で何とかできると思っていた、だが結果はこれだ。さぁ、どうする?」
「悔しいけど…あんたの言っている通りよ。いいわ、協力してあげる。それ以外に倒せる方法は今のところ無いと思うし…仕方なくね。」
「意地でも上から目線を止めないんだな…ここまで来たらもう感心するよ。」
そう言って2人は握手をした。互いの目を合わせ、それぞれの思いを募らせる。手を離した後、麻里は言った。
「それで…まずはどうするの?」
「ただ突っ込むだけじゃあいつには敵わない。だから…作戦会議だ。」
「とても最初ただ突っ込んでぶちのめされた人の言葉とは思えないわね…学習したのかしら。」
「そろそろその減らず口はやめてもらっていいかな?」
「冗談よ…あいつを倒すためなら何だってするわ。」
2人は作戦会議をする為に、ある店へと入っていった。
「やっぱりご主人様は別に"元"魔王である事を隠さなくてもいいとエルは思うのです!」
ギルドのクエストボードを見ながら、エルはグレムに言った。
「何でだ?どう考えても相手に悪印象を与えるだろう?」
「悪印象を持っていた人たちがそのご主人様の素晴らしいほど優しい行動を見たらすぐに心変わりすると思うのです。それに、ご主人様が魔王だった数十年間程、魔王軍に大きな動きは無かったので、分かってくれる人もいるかと思います。」
「よっぽど魔王軍に興味があるか、片っ端から本を読みまくっている人じゃないと分からんだろう。特に現在の暮らしぶりから見て、そういう人は少ないと思うしな。」
「けど、それだと本当にご主人様はこれからもずっと隠し続けないといけません…何かきっかけがあればいいんですが…。」
ルリが言う。
「女神マルクの本当の顔を暴きだして…世界にしらしめるとか…女神マルクを倒すとか…。」
「いや〜いくら俺でも女神様相手はきついと思うぞ?やってみなきゃ分からないけどな。」
そう言ってグレムはあるクエストに目をつけた。
「これ…どうだ?行ってみないか?依頼主がだいぶ困ってるみたいだし…。」
それを聞いてエルとルリは少し笑い出す。
「何がおかしいんだ。」
「いや、だってご主人様、こんな状況なのに他の人の心配をするんですもの。」
「普通…神に狙われてるとかなら…もっと怯えて…動かない…それに…自分の事ばかり考える…と思う…。」
「そういう訳にはいかない。自分が命を狙われている間にも、困っている人が増えていくんだ。それなら、動かなきゃダメだろ?」
ルリが少し笑ってから言う。
「ふふ…ご主人様…そういう所だよ…。けど…そういう所が…私は好き…。」
「私もです!!」
エルも続いて言った。どうしよう、2人ともめちゃくちゃ抱きしめたい。この衝動を抑えきれるか…?
グレムはなんとかその感情を堪えておこうと思ったが…爆発した。
グレムはギュッと2人を抱きしめる、そして言った。
「やっぱり2人ともめちゃくちゃ可愛い!!仲間にしてよかった!!ありがとう!!」
また公共の面前でグレムは2人と抱き合った。2人は顔を真っ赤にして、喜んでいた。
どうでしたでしょうか?
次回は主人公たちのバトルシーン多めの回となります。また、この章に関しての重要な新キャラも…?是非、期待しておいて下さい!
それでは、また次回お会いしましょう!




