第67話 『最低最悪な魔王』
今回はグレムたちのアイギス王国での冒険者としての活動を中心としています。グレムを悪者と扱うアイギス王国の人々との話も出てきます…。一体女神マルクの野望とは何なのか…考えながら読んでいってください!
それでは、どうぞ!
グレムはまだエルとルリが起きていない時間に起き、音を出さないように外へと出ていった。
グレムは確認したいことがあったため、かなり朝早くからアイギス王国の図書館へと向かおうと思っていたのである。
図書館に着くと、ドアは開いていたが、中には誰もいないようだった。余程治安がいいのか、ただ注意力が足りないのか…。グレムはそう思いながらも自分が確認したかったことが書かれた本を探す。
主に歴史の本が置いてあるエリアに足を運ぶグレム。本棚を一つ一つ上から下まで調べていく。3つ目くらいの本棚であっただろうか、その本が見つかった。本の作品名は『女神マルクと魔王グレム』。
グレムはこの国にとって、『最低最悪な魔王』と呼ばれている。その理由が何なのか、グレムは知りたかったのである。グレムは本をめくり始めた。
まずは女神マルクがいかに素晴らしい女神であるかがずらずらと書かれている。誇張しているような表現が多くある…これは罰当たりか。
グレムは更に本をめくっていくと、遂に自分のことが書かれているページに到達した。グレムはそこから先をゆっくりと読み始める。
『魔王グレムは人間たちを物扱いする残虐非道な悪者である。過去には、魔王城に近い場所にある小さな町に、魔王軍を送り込み、その軍事力でその町の住民たちを平伏させ、ありとあらゆるものを奪い去っていったことがあったそうだ。それを見かねた女神マルクは、正義の使者をその町に送り込み、魔王軍を壊滅させ、その町の平和を取り戻したのである。
だが、魔王グレムはそれだけでは飽き足らず、他の国々にも魔王軍を送り込み、その国々からあらゆるものを奪い去っていった。正に強欲で傲慢なことが伺える。国を滅ぼすときには、ドラゴンを使役し、建物のみならず、その住民までもを焼き殺してーーー』
バタン!!
グレムはそこで本を閉じた。そして、力が抜けたように本棚に寄っ掛かり、そのままずるずると座り込む。
やった事の全てが真逆で偽りで…正に最低最悪だ。女神マルクは何を見ていたというのか。俺が何をしたって言うんだ、俺が魔王軍をどう動かそうとしていたのか知っているのか?俺が何を思っていたのかをちゃんと知っているのか?あまりにも酷い。これなら、何を言われようが誰にも何も言い返せない、なぜなら罪を犯した事になっているのだから。
グレムは数分の間、その場所に力が抜けたような状態で座っていた。
「どれにするか…。」
グレムたちはギルドのクエストボード前で何を受注しようか悩んでいた。エルが言う。
「キマイラ3頭は…簡単すぎますし、素材も良くないですし、この〜ブリザードネルモス2頭というのはどうでしょうか…?」
エルの『キマイラ3頭は簡単すぎますし』の言葉にギルド内の者は全員驚いて言葉を失っていた。
「ブリザードネルモスかぁ…ありっちゃありだが役に立つ素材がな…雌しか持ってないし、さらにその雌が持ってる確率が低いっていうのが怖い。」
え?問題はそこ?倒せるか微妙とかじゃなく?とギルド内の者は首を傾げる。
ブリザードネルモスは一応1頭でも討伐難易度星20を超え、アダムアビスランクでも手を焼くと言われている魔物である。ルリはグレムの言葉を聞いて言う。
「けど…1頭でも雌だった時はかなり大きい…いい素材を求めるのなら…この中だとブリザードネルモスが1番かも…。」
「ん〜まぁ確かに賭けにはなるが、もし素材が得られたらかなり嬉しいかもな。いっちょ行ってみるか。」
グレムはそう言うと受注書を破りとり、カウンターへと持っていった。昨日会話した受付嬢にクエスト受注の確認をしてもらおうとすると…その受付嬢は昨日の態度とは真反対の対応をしてきた。
「ブリザードネルモス!?しかも2頭!?大丈夫ですか?もしあなたたちの身に何かあったら…。」
グレムはその対応を見て不思議に思いながらも言う。
「あれだけ選ぶのに悩んでいたのにこれを言うのは少しおかしいですけど…結局優先するのはクエストを出した依頼主の安否と思いです。誰かが行かなければ、依頼主は一生困ったままです。それなら、誰かが行くべきでしょう。その誰かがたまたま自分たちだっただけです。それに…俺らは負けませんから。」
グレムは言葉の最後の方で表情を笑顔にして言った。受付嬢はしっかりと受注の確認をして、依頼に関する紙を渡して言う。
「絶対…帰ってきてくださいね…?」
「はい、勿論です。」
グレムはそういうと、エルとルリを連れてギルドを出ていった。その受付嬢は、最後までグレムたちを見送った。
「なんか久しぶりな気がする〜攻撃魔術使うの。」
ブリザードネルモス1頭を目の前にしてグレムは言う。エルとルリはグレムの魔術を見るのは久しぶりだからか少しワクワクしている。その様子を見てグレムは言う。
「あまり期待しない方がいいぞ、ただの魔術だ。魔法を使ってるエルの方が凄いだろう。」
エルが首を横に振って言う。
「いえいえ、ご主人様の魔術には敵いませんよ!さぁ…久しぶりにやっちゃって下さい!」
グレムはその言葉を聞いて少し笑ってから詠唱を始めた。グレムの真下に紅蓮の魔法陣が光りながらほとばしる。ルリは目をキラキラさせている。
「<向かうは氷、通すは炎…我の中に住まう赤き焔よ…今、紅蓮の炎となりて、我が前に立つ氷塊を焼き払え>!!!」
「ビシェェェェェェ!!!」
ブリザードネルモスが吹雪を出してくる。が、グレムには関係なかった。
「<<紅蓮の氷壊炎>>!!!」
その紅蓮の炎は、ブリザードネルモスの吹雪を完全に打ち消しながら、そのままそのモスを焼き払っていった。
ボワアアァァァァ!!!
ブリザードネルモスをこれでもかとその炎は焼き尽くす。真っ黒焦げになり、ほぼ灰とかしたその体から、1つのとても綺麗な白い玉が出てきた。
「おっ!雌だったのか!これはかなりラッキーだな。」
グレムがそれを拾うと、仲間がやられたのを見に来たのかもう1頭が出てきた。
「キシェアアアアアア!!!」
「…五月蝿い。」
ズバッズバッ!!!
そうルリが言った瞬間に、モスの羽根は斬り取られた。そして胴体だけが残ったブリザードネルモスにエルが近づいて魔法をかける。
「せめて楽に逝ってください…<<慈愛の光>>。」
そう、エルが魔法をかけると、モスはブブブと出していた音が次第に小さくなり、死に絶えた。
ルリはすぐにそのモスの体に切り込みを入れ、素材を探していると…ルリが声を上げた。
「あっ…!!」
「お?まさか?」
グレムが近づいていくと、ルリがモスの体の中からこう言いながら綺麗な白い玉を出してきた。
「…ジャジャーン…!!」
「おお!どっちも雌だったのか。めっちゃ運がいいじゃないか。」
エルも喜んで言う。
「やったーー!!これでギルドをびっくりさせられますね!!」
「ああ、十分すぎるくらいだ。よし、帰ろう。」
グレムがそう言うと、ルリが何かを感知したのか言う。
「あっちに…なにか…ある…。」
「向こうに?…行ってみるか。」
グレムたちはルリの指した方向へと足を運ぶ…すると…
『あっ!!!』
3人は同時にその光景に驚いた。
「まさか『クラスィヴィーの花』の群生地が見つかるとは…今回は運が良すぎたな…よく気づいたぞルリ〜!!」
ルリはグレムにこれまでにないくらい優しく撫でられた。ルリは「えへへ…。」と言って喜んでいる。
「クラスィヴィーの花って…確かどんな病気にも良い効果があるっていう素晴らしい花ですよね!?こんなに取れちゃっていいんですか!?」
「せっかく群生地を見つけたからな…フェニキライトどころかアダムアビスでも見つけづらいクラスィヴィーの花がこんなに取れたのはかなり大きい。少しだけ取っておこうか、いつかの為に。」
「そうですね!報酬が楽しみです〜!!」
3人は笑いながら帰り道を歩いていった。
ギルド近くをグレムたちが歩いていると…ある酒場の方から話が聞こえた。
「大変だ!!アズさんが『ゲラル熱』を発症しちまった!!」
「なんだと!!?アズさん!!しっかりしてくれ!!」
「大丈夫だよ…あたしはこんなもんじゃ死なないって…うっ…。」
寝ている状態からアズは起き上がろうとするが、思ったように体が動かず、もう一度倒れてしまう。
『ゲラル熱』は『ミルス』と同じ奇病の1つ。未だに何故かかるのかが分かっていなく、さらに、かかった者は体の自由が奪われたように、体を動かせなくなり、高熱が出るという奇病である。
グレムはすぐにクラスィヴィーの花を1本だけ取って搾り、それから出た蜜を水筒の水に溶かして、そのアズの元へと持っていく。
ある程度近づくと、周りにいたおじさんに言われる。
「なんだ!あんたは!!」
グレムは急いで水筒の水をアズに飲ませながら言う。
「冒険者のグレムという者です、助けに来ました。」
もう1人その場にいたおじさんも言う。
「助けに来たって…それに…お前みたいな名前の奴がそんなことするわけねぇ!!毒でもその水に混ぜてあるんだろ!!」
酷い考えだ、名前がなんだっていうんだ。…だが、俺には言い返せない。罪を犯したのだから。
「ほら!!すぐに離れろ!!」
グレムはアズから引き離される、抵抗はしない。
「大丈夫か!アズさん!!ほら見ろ!!お前のせいで苦しそうに…」
そのおじさんの言葉の途中でアズが言った。
「ありがとうお前さん…グレムっていうんだっけ…?神様も変なやつだねぇ…あんたみたいないい人を名前だけで悪者扱いするのかい…。」
近くにいたそのおじさんが言う。
「アズさん!!どうした!?苦しいんじゃないのか!?」
「それがねぇ…そのグレムっていう人から飲まされた水を飲んだら…スーッと体が楽になったんだ。まるで治ったみたいに…お前さん…何を混ぜたんだい…?」
「クラスィヴィーの花の蜜です。体が楽になったのならよかったです、それでは。」
「お、おい…あんた…。」
おじさんが何かを言おうとしているのを無視して、そう言ったグレムは主人を少し心配していたエルとルリの元に戻り、ギルドへと向かった。すると、アズが声を上げた。
「おい、あんた!!」
グレムは振り向く。
「ありがとう…。」
その言葉にグレムは笑顔で手を振って返した。そして、グレムたちはギルドの中へ入っていった。
私は鑑定士、ルンド・メソワール。少しの傷でも素材についていたら許さない。状態が悪いとすぐに値段を下げる。それ故に、頑固な鑑定士と言われている。だが、私は鑑定に手を抜いたり、大目に見ることは無い。
今まで数々の冒険者の素材を鑑定して、文句を言われてきたが、全て論破して返した。だから少し、冒険者には嫌われている。それでも鑑定には手を抜く気はないーーー
「すみませーん、鑑定して欲しい物があるのですが。」
今回の相手は…、黒いローブを着た人間に見た目は幼く見える獣人、それに綺麗なダークエルフ…あまり凄い冒険者には見えないな。
「で?何を鑑定して欲しいと?」
「少し多くなるんですが宜しいですか?」
数で押してこようとしているのか?ふん。どーせ下らないものを見せられるに決まって…
「まず、ブリザードネルモスの宝玉ですね、それも2つ。」
は?今なんて?『ブリザードネルモスの宝玉』と言ったか?…ま…まぁ…見てやろうじゃないか…。
な、なんだこれは!?形、色、鮮度なにをとっても完璧すぎる!!傷も全くない…一体どうやって倒したんだ…。
「す、素晴らしいです…こんなにいい宝玉は未だに見たことがありません…。」
こんな事言うのは初めてだ。だが、次はそうはいかない。今度こそ下らないものを…
「それじゃあ、次は…よいしょっと。これらは全部クラスィヴィーの花です。」
グレムはバッグにパンパンに詰まった状態でその花を渡す。
「はぁ!?」
思わず声を出してしまった…ありえないだろそんなこと…クラスィヴィーの花はまっっったく見つからないことで有名だ…造花か何かで騙そうとしてるに違いな…
鑑定士ルンドはその花を1本1本触って確かめる。どれを取っても確かに全て本物。造花など1つも混じってない。こんな事が…。
「どうでしょうか…?」
「あ、ああ。これだけの量だ、さすがに今日中に全部鑑定するのは難しいだろう。また明日来てくれるかね?その時に報酬を渡すので…。」
「はい、分かりました。お願いします。」
グレムたちは頭を下げて、鑑定所から離れてギルドを出ていこうとする道中に、こんな声が周りから聞こえた。
「嘘だろ…あの頑固な鑑定士をあそこまで…。」
「俺…あのおっさんが『素晴らしい』なんて言ったの初めて聞いたぞ…?」
なんだろうとグレムたちが不思議に思っていると、受付嬢がこっちに走ってきて聞いてきた。
「あの鑑定士さんに何か嫌なこと言われませんでしたか!?実はあの人、鑑定が頑固なことで有名で…。」
グレムが返答する。
「ああ、そういうことでしたか。でも、別に悪いことは言われませんでしたよ?逆に『素晴らしい』とか言われましたし。」
受付嬢は驚いて言う。
「あの人が…そんなことを…?」
「はい、確かに言ってましたよ。じゃあもう遅いので宿に帰ります。お疲れ様でした。」
そう言ってグレムたちはギルドを出ていった。受付嬢は余計にグレムに魅力を感じていた。
「(あの頑固な人にまでそんなことを言わせるなんて…素敵!こんな冒険者初めて…あぁ…グレム様!!)」
宿への帰り道…
エルが聞いてきた。
「ご主人様?そういえばご主人様が言っていた『強そうな人』は見ましたか?」
「いや?まだ見てないな。多分王宮にでもいるんだろう。」
「王宮…ですか?どうして…?」
「勇者って言うような正義の味方は、王宮に召喚されることが多いんだ。」
「『勇者』?『召喚』?ご主人様…一体何を…?」
「まぁ…そういう事だ…。」
「なんですかご主人様!!教えてくださいよ〜!!」
グレムは思っていた。いつか絶対に会わなければならない日がくると、戦わなければならない日がくる……と…。
どうでしたでしょうか?
次回は…遂に…勇者とグレムが対面!?
楽しみにしていてください!
それでは、また次回お会いしましょう!




