第37話 醜悪な『人間』
今回からはデガル王国とマシル王国、第3章のタイトル通り、獣人と人間の話になっていきます。楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、どうぞ!
グレムたちは朝からデガル王国に向かおうと馬車に乗っていた。エルが言う。
「ルリちゃんの故郷ですよ!どんな感じなんでしょう…私少しワクワクしてきました!」
ルリがその言葉に対して言う。
「普通だよ…?ただ獣人が過ごしているだけの…普通の王国…。」
グレムは昨日の王様への返答を思い返していた。
『私は…この世界を争いの無い、みんなが幸せでいられるような世界にしたいのです。だから、今回の外交には全力で取り組みたいと思います。獣人と、人間のために。』
べラム王はその言葉を聞いて言う。
『争いの無いみんなが幸せでいられる世界か…夢のような話だ…だが…お主は本気なのだろうな、その目を見れば分かる。我も同じように、戦争などはしたくない。だから、獣人との関係を親密にしておきたいのだ。グレム、今回はかなりの重役となってしまう。ひとつの失言でも、獣人を不快にさせたらおしまいだ…それだけのリスクがあるが…それでも、やってくれるか?』
王様がそう聞き返すと、決意に満ちた表情でグレムは言った。
『勿論です、必ず、獣人との信頼を築き上げてきます。』
「信頼か…。」
グレムは窓の外を見ながら言った。自分が1番信用できない言葉だ。
そのグレムを見ていたルリはいつものご主人様と様子が違うことに少し不安を抱いていた。
「よいしょっと。」
グレムはいつもの様に最初に馬車を降り、後から降りてくる2人の手を取って降りるのを支えてあげる。そこで、馬車乗りが頭を下げて言った。
「それでは、よろしくお願いします。」
グレムは分かってるよと右手を振って合図をし、そして戻っていく馬車を見送った。
「それじゃあ、入ってみますか。」
グレムは少しあることを心配しながらもデガル王国の門へと向かった。すると早速、門番に言われる。
「何の用だ。」
「マシル王国から人間と獣人の交友関係を結ぶために外交に来ました。マシル王国の国王から連絡は入っていませんか?」
グレムは簡潔に来た理由を述べた、その時、門番は「チッ」と舌打ちをしてから言った。
「分かった、入っていいぞ。」
グレムたちは門を通される。
あの舌打ちは…いや…悪く考えないでおこう。少しでも相手に不信感を抱かせたら良くない。
グレムはそう思って、あまり考えずにデガル王国の門から中へ入っていく。
目の前には「町」というよりかは「村」と言ったように、自然溢れるどこか懐かしい感じをさせる景色が広がっていた。
今まで見てきた王国は、ずらりと家や店が並んでいたため、このような景色が見れるのに新鮮味を感じる。
グレムはそう思いながら道を歩いていると、突然横から小さめの石が何個も飛んできた。
グレムはなんの抵抗もしないでその石を受ける、当然痛い。石が飛んできた方を見ると、獣人の子どもがこう言って石を投げてきていた。
「なんで人間がこの国に来てるんだ!出ていけ!」
「そうだそうだ!出ていけ!」
子どもたちはそう言って石を投げ続ける。グレムはなんの抵抗もせずに石を受ける。その時、エルとルリには当たらないようにグレムは結界を張っていた。
エルが思わず心配する。
「ご主人様!!大丈夫ですか!?」
エルはそう言って回復魔法をかけようとすると、グレムが止めた。
「子どもたちがああいうくらいだ、よほど人間は嫌われているんだろう。エル、心配するな、このままでいい。それでエルまで目をつけられたら危ない。」
「でも…。」
エルはまだ心配している、ルリが我慢できずに言う。
「あなたたち…この人があなたたちに何かした…?」
「ひっ!」
子供たちが脅える。ルリをグレムが止める。
「ルリ、言わなくていい。」
「いいえ…我慢できません…。ご主人様は何も悪いことをしていないのに…こんな扱い…。」
「それでもだ。当然なんだよこうされるのが、それほど嫌われることをしてしまったんだろう。しょうがないんだ。」
グレムはそう言って心配してくれたルリの肩にポンと手を乗せる。そして言った。
「今回だけは…見なかったことにしてくれ。これから起こる事にも。」
ルリは少し涙目になりながらも嫌々頷いた。
その言葉通り、この後も酷いものだった。
「ふざけるな!何が外交だ!また見下したようなふざけた条件をつけるんだろうが!!」
そう言って狼の男に殴られるグレム、一切の言い訳も抵抗もしないで。女性の狼の獣人が止める。
「やめて!あなた!その人は何もしてないじゃない!!!」
「それでも許せないだろ!!?こいつらは俺たちを常に見下しているんだ!!クソ野郎が!!」
そうしてグレムはまた殴られ続けた。
王城に着く頃にはグレムはボロボロだった。顔は腫れ、頭からは血を流し、更にあらゆる場所に痣が出来ていた。
そのグレムの姿をみてエルとルリは今にも泣き出しそうにしている。
3人が王城の前まで来ると、グレムは言った。
「エル、すまないがこれから王族と会うんだ、だから顔だけでも治してくれないか?」
グレムがそう言うとエルは「はい!」と大きく返事をし、涙目になりながらも回復魔法をかけた。
「ありがとう。」
そうお礼を言ったグレムはどこか悲しそうだった。
王城の門を開ける、正面玄関のドアの前には、獣人の狼の兵士が2人立っていた。恐らく門番だろう。グレムは先に言う。
「マシル王国から外交のために来ました。冒険者のグレムと言います。」
門番は普通に対応してくれた。左にいた門番が言った。
「王から聞いている、マシル王国の国王が人間を寄越したとな。」
右にいた門番が続けて言う。
「決して無礼なことはしないでくれよ?入れ。」
そう言って門番は正面玄関のドアを開けた。グレムたちは城の中へと入る。
どうやら玄関から直接玉座の間へと繋がっているようだ、奥に玉座に座ったライオンの獣人とその横に秘書らしき狐の女性が立っているのが見える。
グレムたちは前へと進み、その王らしき人物がしっかり見えるくらいの位置で止まり、膝を着いて頭を下げた。そして、グレムが言った。
「マシル王国から外交官役として来ました。冒険者のグレムと申します。」
そうグレムが言うと、玉座に座っているライオンの獣人はかなり低い声で言った。
「噂にもマシル王国の国王にも聞いている、過去に2回、王国を魔の手から救った英雄とな。だがなぜあちらの王はお前を寄越したのだ?」
グレムは嘘偽り無い本当の内容を話す。
「マシル王国の王族をデガル王国との外交に寄越すと、上から見たような発言が多いらしく、不快感を与えてしまっているのではないかと王は思い、私であれば同じ目線で対等に話し合えると考えたようです。…あまり信用できないかもしれませんが…。」
それを聞いた王は笑いながら言う。
「対等か…確かに、王族は上から目線の発言が多かった。ならお前はそうしないというのか?変わらないと我は思うぞ?人間は皆そうだからな。」
グレムは下げていた顔を上げ、その王と目を合わせて言った。
「必ず、証明してみせます。」
王はグレムがその言葉を言うと、「フッ」と笑ってから言った。
「…まぁこんな所で話すのもそちら側が辛いだろう。対等に話すべく客間へと行こう。着いてこい。」
王はそう言うと玉座から立ち、案内を始めた。グレムたちは王についていく。
案内の途中で王が言った。
「そういえば…我の名前を教えてなかったな。我はデガル国王、ユーダルト・ダイムという。…お前たちとはできるだけ対等に話したいからな、『ダイム王』と呼んでくれればいい。」
そう言って客間に着いたダイム王は扉を開け中へと入り、入口から見て右側の椅子に座った。グレムたちは反対側の椅子に座る。ダイム王は言う。
「…それで?どのような要件で外交に来たんだ?」
「マシル国王から、協力関係を結んでいるがその条件をあまりよく思っていないと聞いております。」
「なるほどな…そういうことか…お前、国王からマシル王国はどのような条件をデガル王国に求めているか聞いているか?」
ダイム王が言うと、グレムは「すみません」というように手を合わせる。ダイム王はそれを見て言う。
「はぁ…外交官がそれでどうするんだ…。しょうがない、ダイナ、資料を見せてやれ。」
横にいた秘書はどうやら「ダイナ」というらしい。秘書は持っていたファイルのようなものから、資料を取り出し、グレムたちに渡した。グレムはそれを見るや否や、絶句した。
その資料に書かれていたのはとんでもないものだった。まず、毎年100億ギル相当の特産品の用意、さらに貿易時にはマシル王国にしか利がない税率の引き下げ、挙句の果てにはマシル王国が戦争で援軍が必要な時、デガル王国に利益がない軍事要請。まだまだ問題があるが、それは数え切れない程だった。
グレムは資料を見て震え、怒っていた。こんなもの、人間が獣人を見下しているのを絵に描いたようなものだ。あまりにも酷すぎる。グレムは怒りに震えながらダイム王に言う。
「この条件を…何年の間…続けていたんですか…?」
「もう…12年ほどになるかな、それがどうした?」
ダイム王は疑問に抱いて言う。グレムは立ち上がって頭を下げ、言った。
「私の誠意だけでは到底足りませんが、今まで申し訳ございませんでした。」
ダイム王はぽかんとしている、なぜなら、今までそう言ってきた外交官は誰も、いなかったからである。
「こんなにも人間は獣人を良いように使って、利用してきたのですか…。それなら、石を投げつけられたり、殴られたりしてもおかしくありませんね。」
ダイム王はその言葉を聞いてまさかと思い、驚きながら言った。
「服の袖を…まくってみてくれ…。」
グレムは服の袖を両方まくり、その傷や痣の跡をダイム王に見せる。ダイム王は言う。
「反撃を…どうしてしなかったんだ…?」
「私は、人間と獣人との関係を対等かつ親密にしたいと思っています。これは、今まで人間が獣人を見下してきた罰です。私たちは傷や痣をつけられるくらいの事をしているんだと思っていました。それならしょうがないです、私たちが悪いんですから。」
ダイム王はグレムがその言葉を言うとポロッと涙を流した。その後に言った。
「あぁ…失礼、少し目にゴミが入ってな。…確かに証明されたな。お主は今まで外交に来た人間の中で間違いなく1番、こちらの気持ちに寄り添い、対等に話してくれている。」
「分かっていただけたのなら何よりです。この後、私はすぐにマシル王国へ行き、国王に条件の引き下げを要求します、何か要望はありますか?」
ダイム王はこう言った。
「いや、これはお主に決めてもらいたい。国にとっての大事な交渉だが、私はお主にこの一件を預けてみたい。だから、お主が決めてくれ。」
グレムはそのダイム王の言葉に対して少し戸惑いながらも聞き返す。
「本当に…私に預けていいんですか?」
ダイム王は「勿論だ」という顔をして言う。
「ああ、頼む。」
「分かりました、それでは。」
グレムたちはそう言って客間から出て、マシル王国へと戻って行った。
ダイナが言う。
「本当に…宜しかったのですか?人間なんかにそんな国の大事なことを預けてしまって…。」
「あの者には、普通の人間には無いものを感じた…もしかしたら…彼は国境を越えてまで他国までも変えてくれるかもしれん。…心配か?ダイナ。」
「いえ、王がそういうのであれば。」
グレムはデガル王国を見渡し、何かを決意した表情でエルとルリを連れ、マシル王国へと歩いていった。
どうでしたでしょうか?
これから先の展開が気になる方はまた次も見に来てくれたら嬉しいです!次回は2つの王国とまたもや良くないことが起こるかも…?
それでは、また次回お会いしましょう!




