表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/206

第1話 心を失った奴隷

「ここが…王都ベリルか。」


グレムは高い木に登り、崖上から王都を眺めていた。住まう人々の住居、色彩豊かに飾られた多くの店、そして…奥にはまさに()()には欠かせない大きな城が見える。


「ここにいればいいが…。」


彼はそう言って木々を飛び移りながら、急な崖を華麗に難なく下りて正門前まで移動した。そうして門番をしている衛兵らに一礼をした後、そのまま門を潜って中に入る。


「これは…凄いな…。」


国の中に入るなり感嘆するような声を漏らし、大通りを歩きながらも周りを見渡す。


「商店、武具屋、服屋とレストランまで…こんなにも多くの店があって、ここまで整備されているとは…。」


物語で聞いたような物しか目に映らないので少しグレムは興奮していた。…実を言うと、彼は今まで魔王城からほぼ出た事が無かった。例え外出したとしても、人の国に入る事なんて無かった。それ故に、いつも同じ物ばかりを眺めていたのだ。だからだろう、彼の目に初めて映るその国の景色は、思わず感動してしまう程素晴らしい物に見えていた。


そうして彼は歩く途中で地図を見つけると、すぐにそれを取り、その上に自分が通った場所に目印を付けながら、また歩き始めた。その間、何やらぶつぶつと独り言を呟いている。


「俺が探している店は…と、流石に入口が大通りに向けては無さそうだな。この路地裏とかだろうか……あった、予想通り。」


彼がそう言った通り、その店は人通りの少ない場所に入口が作られていた。


それもそのはずである。彼が探していたのは()()()()、言わば『王都の裏の顔』。あまり目立つように大通りに向けて入口を伸ばせるような店ではない。


何故ここに来たのかと言うと…彼は仲間が欲しかった。だがその"仲間"に酷い扱いを受け、信用というものを"忠誠"では得られないと理解したグレムは、仕方がなく主人を()()()()()立場にある奴隷を仲間にすることにしたのである。


「本当は…奴隷なんて買いたくはないが…。」


グレムがそう言葉を漏らしながら店内に入ると、すぐにその店の主人が声を掛けてきた。


「いらっしゃい!おお!随分と若いお客さんが来たもんだ。何をお探しかな?」


彼はそれにこう返した。


「信頼出来る味方が欲しくてね…。」


…いかん、つい本音が出てしまった。


「ああ…成程、随分と嫌な経験をしたんだね。まぁ深いことは聞かないさ。では早速、見ていくかい?」


あまり聞いてこない人で良かった…心遣いに感謝したい。


「ああ、頼む。」


「ほいきた!」


店主は返事をすると『奴隷保管庫』と書かれたドアを開け、中を見せてくれた。だがここからではあまり良く見えない…仕方がない。


「奥に入って見てもいいだろうか?」


そう言うと、店主は「どうぞ」と言って部屋の中へと通してくれた。


そして、中にいる奴隷たちに目を向ける…が、それもそうか。そこにいる者は皆、酷く痩せこけていたり、身体中傷だらけだったり、俯いていて顔があまりよく見えない者ばかりで、あまり一言で「この子にしよう」と決められるような子はいない。


だがそんな中で、1つ気になるものがあった。それは、丁度人一人が入れるくらいの檻のついている箱で、どうやらその中にも人が入っているようなのだ。


その中を恐る恐る覗き込むと、あまりの衝撃に鳥肌が走った。


その中にいた奴隷は女性で、長く美しい白髪、肌は艶やかな褐色、そしてそのまま見つめていたら思わず吸い込まれてしまいそうな程に、綺麗な緑色の瞳を持ったダークエルフだった。


完全に一目惚れだった、もうこの子しかいない。いや、この子以外有り得ない。


「ややっ!さすがお客様お目が高い!その商品はですね…」


その時の俺には、店主の言葉はほぼ聞こえていなかった。


「…幾らだ。」


「…はい?」


聞き返すような声…聞こえなかったのか?


「この子は幾らで売ってくれると聞いている。」


「は、はい…!でしたら精算を…」


俺は彼が次の言葉を言う前に近くの机に「バン」と大きな音が鳴るほど強く手を叩きつけながら、金貨を数枚出した。


「これで足りないか!?それならもっと…」


だが、その主人は出された金貨を見てこう言った。


「3000万()()です…なので金貨では払えません…。」


「何だと!?いつの間にか、通貨も変わっていたのか…。」


その奴隷は思わず見惚れてしまう程に美しかったので、それを換金しようとも、そうしている間に他の者に買われてしまうのではないかと、グレムはそう言いながら焦っていた。


しかしそんな時、店主はその金貨を凝視すると、急に何かを思い出したかのように、


「待てよ…?少しお待ち下さい!」


と大声で言った後、店の奥へとその金貨を一枚だけ持っていった。そしてすぐに戻ってくるなり、疑いを持ったような目でこちらを見ながらこう聞いてきた。


「貴方…一体この金貨を何処で…?」


その言葉に、彼は疑問を抱きながらも返答する。


「何処って…元から持っていただけだが。」


すると、店主はそれを聞いた瞬間フンッと鼻息を鳴らして言った。


「本来は、ギルでないと支払いは駄目なのですが…今回だけ特別にお許ししましょう。」


そして、金貨を何度も確認すると彼は言った。


「金貨3枚で、あの奴隷を差し上げます。」


グレムはそれを聞いて驚き、声を上げた。


「たった3枚!?いくらなんでも安すぎるだろう!?あの奴隷にはもっと価値があってもいい筈だ!」


俺がそう言うと、店主は不思議そうにしながらこんな事を聞いてきた。


「もしかして…あなた…(きん)についての話、ご存知ないのですか?」


それに俺は何も言わず首を縦に振った。すると、店主はそのまま説明してくれた。


「実はですね…」


…その店主の話をざっとまとめると、どうやらある王国の王様が変わってから、何故かその国が全領域の金の採掘場を買収し、その国及びその地方で金を独占したらしい。


更にその地方以外では金貨を使うと罰せられ、最悪死刑にもなる…と。だからその地方以外の地域では保有する金が非常に少なくなり、金貨を作ることさえ出来なくなった。


そこで『ギル』という新たな通貨を作ったのである。


当然、金が非常に少ないのだからその需要はとても高くなり、金貨たった一枚で1000万ギルもの値段がつくようになったという事だ。金を溺愛し過ぎたあまりにも勝手な王の影響で、他の国にも被害が及んでいるというのか…なんて面倒な話だ。


そう思いながらも、店主に声を掛ける。


「では換金しようにも換金所だと捕まるかもしれない…と。つまりここでしないといけないのか……ご主人、すまないが5000万ギルほど換金できるか?」


俺の声に店主は頷いて答えてくれた。


「はいまぁ…奴隷を扱うくらいですから余裕はありますし、換金は問題ないです。」


「悪いな。じゃあ金貨を奴隷代の3枚と、換金する金貨5枚、そして()()()として3枚渡すから11枚置いておくぞ。」


店主の言葉に返すようにそう言って、俺は机の上に金貨を言った通り11枚並べた…すると、


「はい11枚で…はい?11枚!?あなた私の話聞いていました!?この3枚だけで3000万ギルもの価値があるのですよ!?」


と、店主は焦った様子でそんな事を言ってきた。おかしな事を言う人だ、と思いながらも俺は多少首を傾げ、彼のした事を確認するように言った。


「『情報代』と言っただろう?貴方は知識を持つ者でありながら、俺を騙して金貨をむしり取ろうとはせず、それどころか金貨はあまり表では使ってはいけない事や、今のこの大陸での金の需要などかなり親切な事まで教えてくれた。その情報を貰っていなければ、もしかしたら俺は捕まって死刑になっていたかもしれないからな。この3枚はその分の気持ちだ、受け取っておいてくれ。」


「は、はあ…。」


彼はそう返事をしてくれた。上手く言いくるめられたようだな、良かった。すると、今度は彼から声を掛けてきた。


「あ、あとその奴隷なのですが…。」


…まだ何かあるのだろうか。


「何だ?」


俺が聞き返すと、店主はこう教えてくれた。


「度重なる奴隷としてのお仕えのため…心を閉ざしてしまっております…。」


…そんな事を言われようが、今の俺には関係の無い話だ。何故なら…


「そうか…だが例えそうだと分かっていても、俺は心を開いてくれるまで絶対に諦めない。俺はこの子を『奴隷』ではなく()()として買うのだから。」


その言葉を聞くと、店主は安心したような表情を浮かべた。そして、ある()を俺に渡してきた。


「これは?」


俺が聞くと、店主は答えるように言った。


「奴隷の首輪の錠の鍵でございます。主人となった者以外が触れると、全身に激痛が走るので奪われる心配はありません。貴方がもう外してもいいと思われたその時には、取ってあげてください。」


()()…か。


「世話になった。色々感謝する、爺さん。」


「こちらこそです。では、よい旅を。」


店主の言葉を聞いた後、グレムは奴隷商店を出ていった。…そしてその後、彼はある事を期待しながらこう呟いたのだった。


「あの御方ならきっとあの子の心を…。」

いかがでしたでしょうか?


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ