3.面倒くさがり、友達ができる。
まだまだ拙いですが、生暖かく以下略
では。
3.
人はみな、そう都合よく事を運べない。
昼食を終え、みんなと学食で別れて教室へ戻る。途中で買ったパックのコーヒー牛乳を自分の席でストローをさし、飲む。
コーヒー牛乳の甘い風味が、疲れた脳を癒してくれる。窓が開いており、春風がふわっと入ってきた。満腹で心地いい気分なので睡魔が襲ってくる。
(よし、少しだけ寝るか・・・)
睡魔に身を委ねようと、腕を枕にしうつ伏せる。意識が微睡んできて・・・
「あっ、コーヒー牛乳もーらいっ」
・・・は?
「いや、ちょっと。あの」
意識を手放しかけた瞬間に前の席の女の子が僕の手からコーヒー牛乳を奪い取り、それを飲む。いや、人のものをとっちゃダメって教わってないのかなこの子・・・
「ん?あ、ごめーん。全部飲んじゃったっ」
その上、半分は残っていたはずの中身を全て飲み干したと言う。いやいや、君今一瞬で全部飲んだよね。ダイ◯ンですか?
「んや、まぁいいんだけどさぁ。男子の飲みかけを飲むって抵抗ないの?」
そう、こっちが凄く疑問。
普通であれば、お年頃の女の子が同じ年齢の男の子の飲みかけを飲むって恥ずかしいはずなんだけど。姉さんとか夏生あたりなら僕の飲みかけでも気にしないんだろうけどさ、普通は嫌なんじゃないかね。それもイケメンじゃない普通の男子の飲みかけって。
「ん?あー、目の前にコーヒー牛乳があったからね。そのようなこと些末な問題ですよ。」
と、さも当然のように答える目の前の女の子。些末な・・・?些末か?
「まぁ、君がそれでいいならいいけどね」
追及するのも煩わしくなり、投げやりに言う。はぁ、なんなんだこの子。今朝といいなんか性別の垣根ないのかな。ベルリンの壁かな・・・
「みやこ」
「え?」
グイッと顔を近づけて一言。
近いんですけど、綺麗な顔が近すぎて僕キツイんですけど・・・
「だから、みやこ!私には、東 京って名前があるのっ!ひがしに、上京のきょうで、あずまみやこ。あ、みんなからは、きょーちゃんとか、みやこちゃんとか、あずまさんって呼ばれてるよっ」
近い距離で東さんが自己紹介してきた。いや、近いんですって・・・離れてくれません?
「そ、そう・・・。東さんね」
「み・や・こ!もしくはきょーちゃん。どっちかじゃなきゃ返事しませーん」
・・・面倒くさい。
ならあずまさんって呼ばれてるって言わなくていいじゃん。
「はぁ、わかった。京。これでいい?」
天秤にかける、今後クラスメイトとして付き合っていく分スムーズに事を運びたい。
多分この子は中心的人物になるだろう。(主に容姿的な面で)
ここで不興を買うよりはマシ。
「うんうん。良くできました!」
頭を撫でられる。僕は子どもかっ。
振り解くのも面倒なのでなすがまま、されるがままで無視を決め込む。
が、それでも離れてくれない。
なにが不満なのか・・・
「ねぇ、人が自己紹介したら、自分も自己紹介しなさいって教わらなかった?」
あぁ・・・はいはい。
「橘花 縁。柑橘のきつに草花のはな。ゆかりは、えんって字。んで、たちばなゆかり。これでいいですか」
「ふむふむ、ならゆっくん!」
初めて呼ばれたわ・・・。
ゆかりとか、ゆーくんなら聞き馴染んでるんだけど・・・
ゆっくんて。ユッケかなにか?
「はいはい、それでいいですよ。」
「なんでそんな嫌そうなの?・・・嫌だった?」
嫌なら謝るけど・・・
と呟き、しゅんっとなる京。
ゆかと夏生を足して割った感じかね。
「嫌なら嫌ってちゃんと言える子だよ僕。」
あくまで、嫌じゃないとは自分の口からは言わない。なんか照れ臭いし。
「なら、嫌じゃないってこと?」
上目遣いで聞いてくる京。
美人の上目遣い、僕に1万のダメージ!
「そう解釈してもらって構わない。」
「そっか!よかったぁ〜」
にへらっと顔を崩して笑う京。
その笑顔に少しだけドキッとした。
年頃だから許して。
「でもアレだよね。ゆっくん、髪ちょーやーらかい!ずっと触ってたい。」
ふふん、とほほ笑みながら京が僕の頭を撫で続ける。残念ながら僕は撫でられ耐性高いのだ。何故ならば姉さんがしょっちゅう撫でてくるからね。
「別に、楽しくもなんともないでしょうに」
普段であれば、知らない人から頭を撫でられるのは嫌なのだが、京はなんかこう許してしまう。
「なんかゆっくん、慣れてる・・・?」
一切の動揺を見せない僕に、京が疑問に思ったのかそう聞いてくる。
「まぁ、しょっちゅうされてるからね。姉さんに」
素直に答える。別に恥ずかしい事をしているわけではないのだから、隠す必要もなし。
「ほうほう、ゆっくんはお姉さんがいるのか。どんな人?」
興味を持ったのか、京は興味津々で聞いてくる。
「えっと、見たことあると思うけど・・・」
そう、姉さん生徒会所属で、副会長。次期生徒会長らしい。
「えっ!?この学校の先輩なの?」
驚く京。まぁいきなり姉がいる、見たことあるよなんて言われたらそりゃ驚くか。
「うん、多分入学式で見てると思うけど。橘花 縁。副会長やってるみたいだよ。」
「ええぇぇぇええええーー!!!」
リアクションでかっ!
いやまぁ、なんとなくわかるけど・・・
リアクションでかっ!!
「あの美人な副会長さん、お姉さんなの!?」
「うん。まぁ血は繋がってないけどね」
「さらりと衝撃的な事を言ってのけた!?」
リアクションが本当に大きい。でもなんか憎めない感じ。美人って得だなぁ。
「あれ?そーいえば、えにしさんってもしかしてゆっくんとおんなじ字?」
「おっ、鋭いね。そーだよ。漢字で書くとふりがな付けないと、どっちの名前かわからなくできる仕組み。」
ごめんね。面倒くさくして。
でもやってみたかったんだ。
誰に言ってんだろ・・・
「ほへぇ〜。あ、成る程。血、繋がってたらおんなじ漢字にならないもんね。」
いやはや、鋭いね。
勘のいい子は嫌いじゃないよ。
「そ。その辺で割と察してくれたりもする。まぁ、ややこしい事に変わりはないんだけどね」
と苦笑いが漏れる。
ゆかといい、姉さんといい。
全くもって、ややこしい。
ごめんね。
だから誰に・・・
と、僕が言い終えると同時にチャイムが鳴る。あー、寝損なった。まぁ京と話すのなんだかんだで楽しかったし、いいか。
「あ、授業始まっちゃうね。ゆっくん、これからよろしくねっ」
またもやにへらっと笑うと、京は椅子に真っ直ぐ座り前を向いた。
春風になびく茶色のセミロングを見ながら、午後の授業に勤しむのであった。