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親子。

 手帳に書かれた後半の日記は彼の子供・・・娘の日記が僅かに書かれていた。


 そこから読み解くと、父である彼と共に領主の屋敷に訪れたあの日。

 最初は温厚そうで人柄のよさそうな領主であったが父と娘を屋敷に招入れ、応接間まで着いた途端に態度が急変し後から付いて来ていた護衛の一人が剣を抜き突如として襲い掛かってきた。余りの出来事に彼は魔法を使う間もなく、娘に刃を向けられ人質に取られるのであった。


 さすがの天才魔法使いでもこの状況はどうする事も出来なかったのか、持っていた杖を床に投げ出し抵抗の意思がない事を示した。

 そして、それが彼女が観た最後の父の姿で、彼が抵抗しないことが解ると彼女に剣を向けていた護衛が乱暴に腕をつかみ、彼女を引きずる様に部屋を出て屋敷の地下まで連れた来られ。


 そこにある牢屋の一つに押し込め、鍵を掛けて牢屋の中に閉じ込められたのであった。

 それから幾月かこの地下で監禁される事になった彼女。

 牢屋の中で彼女は、自分がどうなってしまうのかと後の事を考えては恐怖し、父の安否を心配し続けていた。


 ある日の事、あの領主が下卑た笑みを浮かべ牢屋までやって来て、出ろっと短く命令し牢屋の扉を開け放ち、着いて来いと言い放ち背を向け歩き出した。

 逃げ出そうかとも思ったが、それは領主の傍らにいた剣を携えた護衛が睨みを利かせていたので諦めて仕方無く付いて行くしかなかった。 


 連れていかれたのは屋敷の中にある部屋の一つで、先に領主が入ると続いて彼女が入り部屋のドアが締められる。

 彼女は部屋に入った瞬間に自分が何をさせられるのかを悟った。

 部屋の中にあるの大きめのベットが一つだけ。直ぐに逃げようとしたが、ドアにはいつの間にか鍵が掛けられていて逃げる事はできない。

 下卑た欲望を露にした領主は、少しずつ近づき怯える彼女に、拒んでもいいが父親がどうなっても良いのか?と囁き懐からこの手帳を取り出し、投げ捨てる様の彼女の足元に放り投げた。


 彼女は驚き、父が今どうしているのか領主に問うと。領主は笑いながら


 「森の中で魔物の駆除を手伝ってくれているよ・・・毎日、一人でな。」と答えた。

 

 言葉を聞いた瞬間、彼女は青ざめる思いだった。父親の魔法の腕は彼女も知っている。旅の間、お荷物でしかない彼女を危険な魔物から守り通していたのは、他でもない父なのだから。


 しかし、毎日、毎回、魔物と戦い続けていた訳では無い。

 魔道具を使い時には身を隠し魔物をやり過ごす事もあったし、人が良く通る街道から離れた道は出来るだけ通らないよう心掛け魔物との遭遇を減らしていた。

 いくら天才的な魔法の腕前を持つものでマナには限りがある上に、魔物もその凶暴性から決して侮る事の出来ない生物である。

 その事を父から旅に出る前や旅の最中、よく彼女は言い聞かせられていた。だから、毎日魔物と戦うなど正気の沙汰では無い事が深く理解していた。


 「どうだ、兵を送り少しばかり手助けしてやっても良いんだぞ・・・だから、解るだろ。」

 いつの間に直ぐ傍までやって来ていた領主が娘の肩に手を乗せに悪魔の様に囁く。

 

 父の身を心配する娘にとってその言葉を否定する事は出来ず。頷く事しかできなった。

 その日からその部屋が彼女の部屋となり、幾度か同じ事を。・・・嫌悪感を胸に抱くが父がこれで助かるならと感情を押し殺し身を捧げ続けた。


 苦しくつらい日々だったのだろう。彼女の日記は涙がこぼれ落ち様な跡が点々とあった。

 彼女の精神が限界に近づき、自殺すれば楽に・・・と考え始めてた頃、彼女のお腹の中に新しい命が宿ったのだった。

 

 当然、彼女はあんな人間の子を宿してしまったショックを受けた。けれど、身ごもった事で自身を産んで亡くなった母親を思い出した。

 彼女の記憶にはない死別した親。話は何度も父から聞かされ、この手帳にもその時の事が書かれていた。

 産まなければ死ぬ事は無かったかもしれない。なのに毒に体を蝕まれていてもその命をとして産んでくれた母親の姿が心の内に浮んだ。

 

 相手が最低な人間で愛は無く、無理矢理迫られた末にできた。・・・けれど、新しい命には関係の無い話。彼女の心の中で一つ決意が芽生えた。


 たとえどんなことがあっても、この子を産む。

 母が私を守り産んでくれた様に、私もこの命を守りたい。


 思いを固めた彼女は行動を起こし、すぐに子供ができた事を領主に伝えた。


 この領主なら、子供を処分しろっと言いかねない事は思っていた。でも、ここで辺に隠してもいつかはバレてしまう事、ならば先手を打ち相手の虚を狙う考えだった。


 案の定領主は驚いた顔をしたらしく、隙とみた彼女は

 「この子が産めなければ私の命も一緒に絶ちます。」強い言葉で捲し立てた。


 領主は普段とは違う強気な彼女に戸惑いを見せるが数秒頭の中で思案し、いつもの下卑た笑みを浮かべ。

 

 「よかろう、お前の望み道理にしていい。・・・しかし私は正式な妻子がいる身、外聞を考えると医者を呼ぶ訳にはいかん、外に出るなど論外だ。そこで、地下のあの牢屋で一人きりで産むのならこちらは何もしない。どうだ、できるか?」


 普通の妊婦でもそんな状況は、在り得ないだろう。病弱で身体弱い彼女は殊更に不可能と言ってもいい条件を押し付ける。

 こうでも言えば、諦めるだろうとでも思ったのだろう。


 けれど、彼女の決意には微塵の揺らぎも無く。

 

 「わかりました。地下で産みます。・・・ですが産んだ後、私の命が無かったら赤ん坊はどこかの施設に預けて下さい。」

 

 最後にそう言い残すと彼女は自らの意思で地下へと向かった。


 それからの彼女に日記は地下での日々が書かれて、大半はお腹の子供の事だ。

 男の子だろうか?女の子だろうか?名前はどうしよう。

 ロクな食事が与えられなかった所為(せい)で子供がお腹を空かせて無いか。

 今日は初めてお腹を蹴った。よくお腹の子が動く、元気な子だ。


 短い言葉で嬉しそうに綴られていた。


 日記の最後は、彼女の子供の名前とその子にあてた言葉が在った。

 

 『もし、私の子供がこれを読むことが在ったら、まずはごめんなさい。

 産んだのにあなたを育てること無く死んでしまい、ごめんなさい。

 これから・・・今もなのかな、辛い日々を送ることになる事でしょう。

 

 でも、生きるのを諦めないで。

 無責任な言葉かもしれないけど、あなたには生きて欲しい。

 これは私の我が侭で、親としての願い。

 生きて幸せになって。


 そして最後にあなたにプレゼントと言うにはささやか過ぎるけど、私から最初で最後の贈り物。

 あなたの名前です。・・・最初言っておくね男の子だったら、ちょっと可愛すぎなのかもごめんね。

 

 あなたの名前は・・・』



 ・・・という親子の日記だった。

 たぶん・・・いや、間違いなくこの娘さんの子供は、ボクの事だろう。


 内容と一致する点が多くある。

 領主の屋敷のとかで産まれなんてボク以外、他に聞いた事も資料などで目にした事も無い。

 それに、この手帳を読めることが確たる証拠だ。


 読んでいる途中で気が付いたのだけど。この手帳、実は魔道具だった。

 手帳の最後には魔道具特有の文字で描かれた図式があって、調べてみると所有者の血縁以外はこの手帳を開く事が出来ない仕組みになっている。


 なので、この手帳を開いた時点でボクは天才的魔法使いの彼――つまり、ボクの祖父との血縁があると言う事だ。

 

 しかし、重たい内容の日記だった。

 祖父の話もそうだったがボクの母も中々。ほんと、あのブタ野郎(領主)はロクな事をしない。 軽く殺意が芽生えてしまうな。


 でも、嬉しさもあった。

 良い産まれ方をした訳では無いのは知っていたけど、母親からはちゃんと望まれて産まれて来たのだと解っただけでも、報われた気持ちになる。


 それと、今までは漠然と前世の夢であったスローライフを送る事が生きる目標だったけど。

 しっかり生きなきゃいけないって気持ちが心の奥底から湧いてくる。

 ボクが母親から受け継いだこの“命のバトン”とも呼ぶべきものを何かしらの形で誰かに渡すまでは、どんなに諦めが悪くても、生き延びる衝動が今のボクにはある。


 ・・・まぁ、この【結界】の中に自ら閉じ込めた人間の言う事じゃないのは重々承知です。

 だから、ため息も出るし頭を悩ませ、祖父がお母さんの為に作った魔道具に八つ当たりな気持ちを抱いた事にも反省させて貰っております。

 今度からは、もう少し慎重に行動しよう。


 お母さんから貰った。

 [ティルナ]という名に恥じない様に。

長かった。

予定してたよりも文字数が多くなったなぁ。

主人公の名前が出るまで長くなり、申し訳ございません。

駄文ばかりですが、ぼちぼち更新しますので。

今後ともよろしくお願いします。


 どうでも良い事。味噌を入れたケチャップライスはおいしい。

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