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手帳。

 「あぁ、どうしよう。」


 ため息を吐きだしながらボクは呟く。

 あの騒動があった夜から感覚的に1ヶ月が経過した。


 現在はボクは、地下の牢屋部屋に上から持ってきた大量の物と一緒にとても安全な(・・・・)引きこもり生活をエンジョイしている。・・・嘘です。


 この引きこもりは自主的にってよりも強制的に引きこもっている。

 もっと、詳しく言うならボクは地下から出る事が出来ない状況にいる。でも、その原因を作り出したのも、ボク自身なのだから。怒りを向ける対象もいないので、ただ落ち込むしかない。


 で、何が原因でこの場所から出れないのかと言えば、ボクが起動した魔道具(・・・・)にある。


 魔道具とは魔法が使えない者でも魔法と同じ様な事が出来る道具の事。


 この世界の人々の身体にはマナと呼ばれる(ゲームで言いう所のMPや魔力)ものがあり。それは人によって許容量の大小があるけれども必ず身体に存在していると言われ。

 そしてそのマナを呪文を使い、杖などの触媒を通して炎や水と言ったものに変換する超常の技術を魔法と呼んでいた。

 しかし、残念なことに全ての人々が魔法を使える訳ではなく、その人が持つマナの総量や才覚などによって魔法を使える者とそうでない者がいて、魔法を使える者はそう多くなかったと本では書かれていた。

 

 そんな魔法の使えない人達のために産み出されたのが魔道具である。

 

 呪文やマナを変換する際のコントロールのイメージを文字と図に置き換え、マナを道具に流すだけで火を熾したり、空の大瓶の中を水でいっぱいに満たしたりするだけでなく。

 マナの総量が少ない人でも使える様に魔物の体内で稀に精製される鉱物、《魔石》を用いてマナを道具に溜めて置ける電池みたいな仕組みまで組み込まれた物もあり、利便性をさらに上げこの世界の人の生活の一部を支えているのだ。


 特に稀代の天才魔法使いが作り出した魔道具は、本来大人数でやっと行使が出来る大規模魔法を、マナを大量に消費してしまうっと言う欠点があるものの、時間を掛けてマナさえ溜めれば一人でも発動する事が出来てしまうと言う破格的な性能を見せ代物で。

 

 その彼が創り上げた道具がこの屋敷にも何種類かあり。

 クーデターの際にこの屋敷の中に誰も入れない様に行く手を阻んでくれた【結界】を作り出す魔道具もその一つで。

 予備として倉庫にあった物をボクがこの地下まで運びこみ、起動し閉じ込められどうしようもない事になている訳だ。


 ・・・少し訂正を加えるなら、ちゃんとした取扱説明が書かれたかなり厚めの手帳もあったのだけども。起動の仕方だけをちょっと読んで、良く解らないままに起動してしまったのだけども。


 うん、自業自得。

 後になって、なんかおかしいなっと思って調べてみると外に出れなくなっている事に気が付いて、しっかりと手帳を読んでみるた所。


 この魔道具は起動前に細かな設定が必要で。範囲からどのようなものを通さない様にするのか。の設定をボクは、適当に地下の牢屋部屋全体と害在る(すべ)てからとデタラメな感じで設定して起動してしまった。


 本来なら、そんな良く解らない設定で魔法が発動する事はないはず、なのだけれども。この魔道具を作った天才さんは、かなり無茶な設定であろうが魔力さえあれば理論的には起動でき、ソレに耐える事の出来る強度と発動を可能にする複雑な魔法を構築しこの魔道具を創り上げた。


 いや、知らんし。間違っているなら動かないと思うじゃん。


 そりゃ詳しく取説を読まず、適当に起動したボクが悪いのだろう。けれども、適当に起動する事が出来てしまう物を創り上げたこの天才魔法使いの彼にも十分に問題があったではないだろうか。

 現に、今ボクは誤作動を起こし【結界】の外に出る事が出来ないのだから。そうボクは思い、憤りを感じたりもした・・この前までは。

 

 別にこの一月のあいだ、何もせず喰って寝てを繰り返し無駄に時間をつぶしていた訳ではなく。


 【結界】に閉じ込められている事が解ってからは、抜け出せないか色々と試してみたり。止め方が書かれていないか手帳を調べもした。ただ、手帳の方は専門用語や殴り書きが多くって解読するのに時間が掛かってしまい。数日前にやっと、読み終える事が出きた。


 結論から言ってしまえば、この【結界】を止める事は今のボクでは無理だと言う事が解った。


 どうも止める為にはクーデターの人達がやっていた風に魔法で中和するか。結界をその強度を越える強力な魔法で破壊するぐらいしか方法が無く、未だ勉強中で魔法など使った事もないボクには無理な話。

 けれど、魔道具の内部にある魔石に溜められたマナを使い果たせば勝手に止まるらしいので、一生このまま引きこもり生活をせずに済みそうだ。


 その事が解り、心に幾分かの余裕を取り戻したボクは今後の事を考えて他に何か使える事が書かれていないかと手帳を読み進めてみる事にしてみた。


 それで手帳を読んでみた所、この手帳は前半は魔法の理論や新し魔道具の作り方などをメモしていたのだけど。後半は、彼の日記に近いものに変わっていき。最後の数ページは、天才魔法使いの彼とは別人の日記に変わっていた。





 天才魔法使いの彼の日記の方は、平民の出であった彼は魔法の腕と知識を買われ、とある国の宮廷魔法士とになり、結婚をして愛する妻が出来た所から始まり。少し日が経つと妻のお腹の中には赤ん坊がいる事が解り、更なる幸福を悦び子供の名前を幾つも考え書き記していた。けれど、その幸せな日々は長く続かなかった。


 月日が経ち、お腹の子がもうそろそろ産まれる頃、自身が仕えていた国と隣国が不穏な空気になり。

 始めは小競り合い程度のものだったが段々とエスカレートし、規模が広がり激しい戦争へと発展してしまったのだった。


 すぐさま宮廷魔法士である彼は前線へと送られる事になるのだが。その持ち前の魔法を遺憾なくは発揮し、魔道具を用いて戦況が悪い所を好転させていき。

 その国の英雄とまで言われる活躍を収めていく。


 このまま戦争が終結するのかと思えていたある日、彼が戦場にいて離れているのを狙い。

 住んでいた屋敷に複数名の侵入者が現れ、屋敷で働いていた使用人から愛する妻まで襲われた。


 その知らせを一早く聞いた彼は、すぐさま戦線から離脱し屋敷へと向かう。

 屋敷に着くと、働いていた使用人は殆どが死亡している事を聞き嫌な予感を募らせつつも、妻が運び込まれたと言う治療院に急ぐ。


 そうして、治療院に着き妻がいる部屋に彼は入るが、時すでに遅くベットの上で息を引き取り冷たくなった最愛の妻の姿が目に映る。

 その姿を目にした彼は言葉が出ず絶望の中、ただ立ち尽くすばかりであった。

 そんな彼に、後から部屋にやってきた医師は話す。


 何者かに毒を飲まされ、こちらで解毒はしましたが完全ではなく、衰弱し彼女とお腹にいた子供は生命の危機に立たされ。どちらか一方しか救う事が出来ないと判断した我々は、申し訳ないのですが母親である彼女を優先させ、子供は諦める事を決断しました。・・・が彼女はそれを拒み、子供生かす事を強く望み。

 

 あまり体力が無い中、必死で子供産み、あなたに全てを託し彼女は息を引き取りました。

 医師は話し終えると彼に白い布で包まれ、小さな赤ん坊を腕に抱かせた。

 

 彼の腕の中にすっぽりと納まり、すやすやと静かに眠る我が子のを見た彼は、嬉しさと悲しみが同時に込み上がり涙を流ししたのだった。


 その出来事が在った数日も掛からない内に隣国との戦争は自国の勝利で終わりを告げられた。

 彼は勝手に持ち場を離れたことで、戦場から逃げた。隣国に与する予定だったのでは。とあられもない噂で騒ぎ責められ宮廷魔法士の職も戦争で得た功績も同時に無くす事に。

 

 あの襲撃事件は、もしかすると功績を上げ続ける平民出の彼を、疎ましく想う貴族派閥の誰かが送ったものだったのかもしれない。


 だが、彼にはもうどうでも良い事だった。

 

 計画を企て妻の命を奪ったヤツは憎く。・・・だが、犯人を見つけ復讐した所で妻が蘇る事は無い。

 それよりも残された愛する我が子の事が気がかりで。


 本来の出産する日取りよりも早くに産まれ。妻が受けた毒が体内に居た子にも影響を及ぼしていた。それで彼の子は病弱な体質に成り、医師からは余り長生きが出来る様な身体では無い。と伝えられた。


 彼はそれを治す為に医学を学び、書物から得た知識や時には伝承にある魔法など様々の方法を試した。

 宮廷魔法士の時に稼いだお金の大半を使い果たしたが、どれも完全に子供を治すものは無く。

 

わずかながらも体調を良くする程度のものばかり。それも子供が大きく成るにつれて乏しくなり、効かなくなりつつあった時の事。

 とある国の辺境の街、そこに在る森に万病を治す薬になる物が存在する。と言う噂を聞き、調べてみると古い文献にも似たが話が書かれてあり。

 どうやら精霊が住まう聖樹なるものが森の奥にあって、その葉で作る薬は高い効能がある事が解る。


 彼はこの聖樹に一塁の望みを託し、子供と共にそこを目指す旅に出る事を決意し実行する。

 

 子供の体調に合わせての旅で、かなりの年月が掛かってしまったが何とか無事に子供と目的の街までたどり着く事が出来。文献では目的の聖樹に行く為には、どうもこの街を収める一族の力が必要と書かれていたのでこの街の領主に面会を求めた。


 断れるかと思った申し出は、不思議なぐらいすんなり通った。これでうまく話が纏まれば聖樹に行き、その葉を使い薬を作れると喜ぶ所で彼の日記は終わっていた。

 

あれ?日記が予定より長い・・・



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