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逆転のひらめき・・・か?

魔法は【】で書こうと思います。

 「殺してやる!」

 「出てこい!くそ領主!」

 「死んだ子供を返して!!」

 

 屋敷の外からは罵声と怒声が入り混じった叫びが聞こえ、当たりを照らす片手に持た松明の火が彼らの心の怒りを象徴するみたいに燃え盛っている。


 怒り満ちた民衆に屋敷を取り囲まれ、一人屋敷に取り残されているボク。

 先程より正門の空間が揺らめきを増している所を見るに、彼らの行く手を阻む【結界】の魔法もあと少しで無くなるのだろう。

 そうなれば、彼らはこの屋敷の中へとなだれ込み、部屋を荒らし簡単にボクを見つける事など造作もない。

 

 見つかり、彼らに捕まればボク自身がどうなるか。嫌な想像が簡単に頭に浮かんでくる。


 一番良い想像が、みすぼらしい格好の子供だから奴隷の子供だと判断され、2,3日取り調べを受け。その後、良ければ孤児院に送られるか、悪ければ金銭目的に奴隷としてその手の商人に売られるか。

 これは、しばらくは身の安全があるので良い方なのかもしれない・・・奴隷として売られれば後の事は解らないけどね。ただ、命が続くだけましな方でもっと最悪なパターンだってある。

 

 その最悪なパターンは、この屋敷に居る人間は皆殺しだ。残っている人間は自らの意思で悪徳領主に従う者として同罪、牢屋に投獄し、後に公開処刑される。と言った感じだろう。・・しかもこれが今の所、一番濃厚な可能性だ。


 なんせボクは、現在民衆が憎み、打倒しようといている悪徳領主の子供なのだから。


 血縁がある言うだけで、厄介な存在。もし、当の逃げた領主一家が見つけられなければ、怒りの矛を治める為にも体のいい人柱になること間違い。


 例え領主一家がボクの存在を表に出さない様に軟禁し外部に情報を洩らさない様にしていたけど、内部となると話は別。

 

 クーデターが起きる前、事前に逃げ出していた使用人たちは元からクーデター側のスパイか見逃す事を条件に内部の情報を売った人間なのだろうと予想ができる。

 その中の誰かがボクと言う存在を話していたら・・・もう、そこでお終いだ。




 いつの間にか死んでしまっていて異世界に転生していたと思ったら、転生先の環境は最悪で奴隷と同じ扱い。なんとかしてそんな劣悪な環境から抜け出して、異世界でスローライフを楽しもうと希望を持って行動を起こしている矢先に起きてしまったクーデター。

 逃げ道は無く、この状況を打開する策も思いつかない。


 最早、運が悪いとかの次元じゃなく、何者かに呪われているのではと思えてくる。ゲームなら、初期ステータスの所にあるLuckの数値が0なんじゃないかってレベルの話。

 

 刻々と迫る自身の死。どうする事も出来ない絶望的なこの状況に、心の底から諦めと悔しさがこみ上げていた。

 

 その時だった。

 遠くからドンっと爆発音が轟き、直後に違う場所からカンカンと激しく打ち付けられる鐘の音が鳴り響く。


 突然の出来事に屋敷を囲む民衆たちは騒ぐのをやめ、せわしなく辺りを見回している。ボクも何が起きたのか把握する為そっと窓際まで近寄り、囲んでいる人達にバレない様に窓を少し開け外の音に耳を澄ませた。


 「魔物だ!魔物が外壁を壊して、街にまで!!」


 何処から聞こえた声なのか解らなかった。だが鳴り響き続ける鐘の音よりも大きく必死さが伝わる声色で、街の危機を知らせるものだった。

 その声は、屋敷を囲む人々にも聞き取れていた様で、動揺が伝播しざわめきが起きる。そして数秒もしない内に再びドンっと破壊音が轟くが先程のとは少し違い、複数の場所から聞き取れる。更には街の所々で火の手と煙が昇る。


 「も、戻らねぇと!おっかぁが!!」

 

 ひどく慌てた声が屋敷を囲む人たちの中から上がり、一人その場から走り去る。その人がきっかけとなり、周囲の人たちも街に残した家族や友人を心配し、兵士などは魔物から町の人々を守るために次々と街へと駆けてき、屋敷を囲む民衆は誰一人いなくなった。


 「た、助かったのか?」

 

 突如として起きた魔物騒動に、頭の整理が追い付けていなかった。けれども、どうやらあの民衆がこの屋敷に攻め入るのは暫くは無さそうだ。

 だが、命が助かったのかと言われれば、何とも言えなかった。

 

 

 この辺境に在る街は近くに存在する森の様々な恩恵を得る代わりに、森の魔物数が増え過ぎない様に間引きする役目を担っていた。けれども、今の領主はまともに仕事にをせず、兵に使う経費を減らし、ここ数年ロクに森に兵を送る事は無かった。

 その事をボクは資料で目にしていたし。この前、情報集めの一環で執務室に忍び込んだ際に森の魔物による被害増加の報告書もあった。

これは森の魔物は繁殖し、森で生息するキャパを越えた結果。魔物の暴走モンスタースタンピードが起きてしまたったのだ。


 街の兵が正常に働いていればこの魔物の暴走モンスタースタンピードを鎮める事ができたのかもしれない。だけど、今はクーデターと言う異常事態が起き。

 領主を味方する兵士は多分、捕縛し牢屋にでも入れているはず。なら兵士の数は少なくなり、しかも大半はこの屋敷を取り囲んでいて対応にも出遅れていた。


 普通に考えれば、もう手遅れな感じだ。物語に出てて来るような一騎当千の勇者みたいな人物がいれば話は別だけど。そんな人物がいるなら、既に屋敷の中まで入っていた事だろう。

 つまりは、人から魔物へと危険の対象が変わっただけ。まだ、この後ボクがどうなるのか解ったものじゃない。




 街についた炎は燃え広がり煙が立ち上る場所が増え、街の至る所に爆発音や獣らしき生き物の遠吠えが聞こえる。魔物と言う災害に飲み込まれ崩壊しつつある街の景色を茫然と屋敷の窓から眺め、頭の中でこれはチャンスではないか?という考えが浮かび上がった。


 屋敷の中にはボク一人きりで、屋敷を取り囲む人もいない。街中は魔物や火事で大混乱。状況だけで言えば、この土地から離れるのには絶好の機会。


 ただ問題は、この混乱の大本である魔物。窓から聞こえる鳴き声や街に広がる火の手の具合からかなりの数の魔物が街中をうろついているはず。魔物と遭遇してしまう方がかなり高く、どんな魔物がうろついているのか判らない。

 

 万が一でも出会ってしまえば、街中の地理に詳しい訳でもないのだから逃げ切る自信は無い。屋敷にある武器を持って行ったとしても子供の身体じゃあたかが知れるだけ。もっと言えば複数に囲まれたらそこでお終いだ。



 むしろ、皮肉な事に屋敷の中に居たほうが安全だ。

 現在屋敷は、強固な【結界】が周りを覆っているので簡単に魔物に侵入される心配は無い。前に、森の魔物の多くは獣型で深い知性を持って魔法を操る魔物は生息していないっと資料で観ていたので、先程のクーデターの時みたいに【結界】に穴を開けて侵入するなんて事は無いと思う。


 そこで一つ、逃げずにこのまま屋敷に籠城する。という思い付きが脳裏に浮かんだ。


 今は、魔物の暴走モンスタースタンピードで凶暴な魔物が街中を餌を求めうろついているので、安全に逃げ出す事は出来ない。なので、ここは安全な【結界】が周りを囲む屋敷の中でやり過ごし、しばらくしてから逃げる。というシンプルな考えだ。


 街の炎の上がり具合や壊れた外壁からみて、一度街を抜け出し近くの街に救援を求めたほうが得策。と街の人々は考え行動するはず。


 現代の地球と違って舗装された道を自動車で1~2時間走らせれば到着とはいかない。資料の記録ではこの街と同じぐらいの規模の街まで馬で急げば6日ほど、徒歩なら2週間も掛かる。そんな距離を逃げ出した街の人々が大勢で歩くのだ。

 ロクに装備も物資も十全に準備している余裕などないだろう。何もない中、魔物に追われる恐怖で精神的に追い詰められている。よほど強靭な精神の持ち主でなければ、まともに歩き続ける事なんて無理な話だ。


 一人だけ先行させて、救助要請しに行かせても。

 その街が、避難民であるこの街の人々をすぐさま保護し、この街の魔物を倒しに来るなんて事は難しいはず。その街だって多少の混乱はするだろうし、どうなっているのか様子を見るために調査するしたり流れ込んでくる人達の対応で忙しくなる事だ。

 よほどのことが無い限り早くて1~2月ぐらい、時間を置いてから安全にこの街を取り戻すための人を送って来る。


 その間、魔物の方もエサである人間などがいなくなって次のエサを求め移動したり、魔物内で縄張り争いが起きたりして。街で暴れている魔物の数よりずっと減る事にだろう。


 そして、街を取り返しに来た人達と入れ替わる様に逃げる事が出来れば、魔物に襲われる可能性はかなり低くなり、出来る限り安全にこの街からさようなら出来、楽しみでいた異世界スローライフが送れる。


 と言った感じの、すこし都合の良い予測の元に思い付いた考えだった。 

 でも、完全に的外れとはいかないはず。


 魔法等のファンタジー要素がどういった動きをするのか判らないけど、資料や本で得た情報から感じたこの世界ならこんな感じに動くだろうし。今、下手に動いて魔物に襲われ生きたまま食べられるよりも、人の手の方が幾分かマシだ。と言う気持ちもある。


 「よっし。なら引きこもり準備しなきゃな!一応結界が無くなって魔物が入って来た時の事も考えて・・・地下かな。あそこなら入り口を塞げば簡単には入って来れないだろうし。あっ、確か倉庫の目録に室内用の結界を張る道具があるって書いていたような・・・・」


 暗くなりつつある思考を切り離す様に明るい声を出し。記憶の中にある、うろ覚えの資料からこれから必要になりそうな物を口に出し確かめ。屋敷の中からそれらを集めるために歩き出す。

 その足取りは転生してからで一番軽い物だった。

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