≪第5話≫ハーゼの判断
新人部下はいまだ立てずにパニックを起こしている。その部下の前へとハーゼは立ち、猿の化け物との間に入った。そして、冷静に異能を発動した。
ハーゼ「お前ら、とりあえず落ち着け。」
すると、走ってこちらへ向かっていた猿の化け物は急に地面に這いつくばり立てずにいる。まるで、地面に吸いつけられているようだ。
アオ「さすが、ハーゼ少佐。少佐の異能"重力"には誰も敵いませんね。」
ニヤニヤしながらアオが呟く。
ハーゼ「アオうるせぇぞ。」
ハーゼの異能は重力。決められたターゲットや範囲の重力をコントロールできる。重力で地面へと押さえつけられた猿の化け物は炎も出せずに呻いている。
猿の化け物「ヴヴッ。」
安全を確信したハーゼの部下たちは猿の化け物に近づき、ハーゼの殺せという命令を待った。しかし、ハーゼは部下の予想とは異なる命令を下した。
ハーゼ「村に置いてあるワクチンを持ってこい。」
部下全員が驚いた表情でハーゼの方を見る。
アオ「少佐何言ってるんですか。殺さないんですか?この化け物。」
ハーゼ「あぁ、早くしろ。オレの異能は長くは持たない。」
アオ「それは知ってますが…。」
ハーゼ「こいつはオレ達が追っているエイプリールではない。だったら、村人だろ。」
アオ「理屈ではそうですが…。それにあのワクチンは王都研究所で莫大な資金をかけて作られたもので。」
ハーゼ「いいから、持ってこい。アオ。」
アオの話を遮るかの様にハーゼは命令する。アオはため息をつき言った。
アオ「オレが村まで取ってきますから、それまで異能頑張ってくださいね。本当に人使いが荒いんだから。まったく。」
ハーゼ「頼んだぞ。」
ブツブツと文句をいいながらアオは夜の空へと旅立った。
アオを待つ間、ハーゼは重力の異能を発動し続け、疲弊していく。額からは汗が流れ、息が乱れる。それだけ、重力という異能は強大で負担が大きい。そんな中、猿の化け物は動こうと踠いている。
アオを待っている間、腰を抜かした新人がバーゼに話しかけてきた。
新人「さっきはすみませんでした。ありがとうございました。」
ハーゼ「いや、敵の偵察とはいえ…夜の森に新人のお前を連れてきたオレの責任…だ。すまなかったな。ハアハア。」
ハーゼは異能の発動で息も途絶え途絶えで返事を返す。
そんなハーゼの姿を見て、新人は疑問を投げかける。
新人「なんで、そんなにそんな化け物の為に頑張るんですか?先ほど、村人だからって言ってましたが、それだけではないですよね?」
ハーゼ「ハァハァ…。あぁ。こいつは異能を持ってるってだけで村から追い出された。だから…ハアハア。」
アオ「きっと、昔の自分と重ねているんでしょう?少佐。お待たせしました。」
アオが帰ってきて、ハーゼの話を遮った。
ハーゼ「おせぇよ。」
アオ「大体30分くらいですか?割と頑張って取ってきたんですがね〜。」
ハーゼ「いいから、早くワクチンを奴に打て。」
アオ「はい。はい。」
疲弊しきったハーゼの代わりにアオが動かずにもがいている猿の化け物の背中にワクチンを投与した。
猿の化け物「ゔゔぅっあぁ。」
猿の化け物は大声を上げて苦しむ。ワクチンを投与してから2分ほどすると姿の変化が始まり、10分たつと猿の半獣の男の子へと姿が戻った。
猿の化け物だった男の子は意識を失っており、異能の炎もおさまった。
それを見たハーゼは異能を解除した。
ハーゼ「ハァハァ。やっぱり子供だったか。あと…10分休憩したら、山を降りるぞ。」
10分後、ハーゼとその部下は化け物から猿の半獣の姿に戻った悟を連れて、山を下りた。
姿の戻った悟はうつろとする意識の中で大きな背中のぬくもりを感じ、安心して眠りについた。