≪第3話≫禁忌を犯した火猿の暴走
息を引き取った祖母と今までの状況が呑み込めず呆然とする悟。
そんな悟に構わず、エイプリールが微笑む。
エイプリール「素晴らしい。これであの老婆の死は無駄ではなくなった。そして、あなたは禁忌を犯したものとなった。あなたが呑み込んだ祖母のHIVEはあなたに力をもたらすでしょう。これで益々、あなたを連れて行きたくなりましたよ。」
悟「・・・。」
悟は訳も分からず、その場に座っている。今わかるのは体の芯が熱く、力があふれてくる。祖母を奪ったあいつが憎い。溢れ出す力と憎しみで我を忘れそうになる。
エイプリール「おやっ。早速、瞳とHIVEの色が変わりましたね。禁忌を犯したものの瞳を見るのは初めてですね。」
禁忌とは肉親のHIVEを食すこと。禁忌を犯したものの瞳とHIVEは紅く変化し、戻ることはない。今、悟に禁忌を犯したものの印が刻まれた。
悟の瞳とHIVEは紅く輝き、その瞳には涙がいまだに浮かんでいる。悟はゆっくりと立ち上がる。
エイプリール「強くなったとはいえ、所詮は子供。私の敵ではありません。無駄な抵抗はやめて、もう行きますよ。」
エイプリールは、また悟を捕らえようと地面からツルをだし、悟を縛りあげる。縛られた悟はニヤリと気味悪く微笑む。
次の瞬間、エイプリールの視界から捕らえたはずの悟が消え、自分の隣にいる。
エイプリール「なっ、に、、。」
驚く間もなく、悟のこぶしがエイプリールの腹部にめり込み、エイプリールが吹き飛ぶ。木にぶつかり、やっと勢いが止まった。
エイプリール「ガハッ。」
エイプリールはその場で血を吐き、立ち上がれずにいる。
悟が体に炎をまとって近づいてくる。悟の周りの木々は燃え始め、すぐに周囲は炎の海となった。
エイプリール「この私がこんなガキに負けるはずがない。私は、、、破壊神教、天使エイプリール様だぞ。負けるはずが。」
悟はゆっくりと歩き、エイプリールの前で止まる。
エイプリール「ひぃっ。」
悟の豹変してしまった風貌に悲鳴を上げる。悟は動けないエイプリールに執拗に攻撃した。まるで玩具で遊ぶ子供の用に、笑いながら。いつの間にか、エイプリールは息絶えていた。
悟「死んだ。イヒヒッ。そう、俺の力がないからばあちゃんも死んだ。俺に力を、、、。力がほしい。」
悟の頭の中はぐちゃぐちゃだったが、その中でエイプリールに言われた言葉がぐるぐると回っている。悟はゆっくりとかつてはエイプリールと呼ばれた男の亡骸の隣に座った。そして、その亡骸のHIVEを無我夢中で食べ始めた。
悟「バキッ。ゴキッ。、、うっ。おえっ。」
血の味が口の中に広がる。自分のしている行為に嗚咽がしながらも手を止めることはなかった。HIVEは食べれば食べるほどに力があふれ、次第に力がコントロールできなくなった。姿も猿の半獣であった可愛らしい姿から毛むくじゃらの猿の化け物になっていた。悟は暴走し、いつの間にか山全体を燃やし、眠りについた。
悟が目を覚ますとあたりは夜になっていた。周囲の木々はすでに鎮火し、周囲は静かだった。所々に焼け焦げた人の死体らしきものが転がっている。周りを見渡し、一瞬で今までのことを思い出した。
悟「あああぁぁぁ。」
フラフラと立ち上がると悲痛な叫びをあげた後、白衣のマントを着たエイプリールの手下たちの焼け焦げた死体からHIVEを探し、食べた。寝てもなお、エイプリールの言葉は頭を離れない。先ほどと同様、異能が暴走し、体中から炎を出っぱなしになっている。何人のHIBEを食べたころからか、無意識のうちにそのおぞましい行為を続けていた。
その紅い瞳からは涙が流れ、誰かが止めてくれるのを待っていた。