≪第2話≫祖母の愛と狂気
エイプリールに連れて行かれそうになる悟。もがいてもなかなか体に絡みついたツルから抜けることはできない。
その時、少し離れたところの茂みが揺れ、そこからミツが飛び出してきた。ミツは悟を抱えているエイプリールに睨みをきかせ、言った。
ミツ「私の孫に何をしている。」
エイプリール「おや、あなたのお婆様ですか?私は天使のエイプリール。破壊神教のものです。以後、お見知りおきを。
この子はこれから私たちとともに来ていただきます。」
ミツ「何が破壊神教だい。あんな頭のおかしいところなんかに私の孫を連れて行かせないよ。」
エイプリール「頭がおかしい?あなたはわかっていない。それと、この子を連れて行くのに邪魔はさせません。」
ミツ「私もなめられたもんだね。昔は狂い熊のミツと恐れられたものさ。」
ミツは異能は発動できないものの、体術の使い手として、周りから一目置かれていた。だからこそ、この物騒な世界で老婆一人で悟をここまで育ててこられた。悟もこの世界で生きていけるようにと家ではミツと組み手をしているも、ミツに勝てたことはない。悟のセンスも悪いわけではないが、それほどにミツは強かった。
悟「ばあちゃん、ごめん。おれ、、、。」
ミツ「バカたれ。火を使っただろ。そのおかげですぐに場所が分かったが、来てみれば変なことに巻き込まれおって。家帰ったら説教だ。」
エイプリール「家には帰れませんよ。行きなさい、あなたたち。」
エイプリールの号令で白いマントの手下たちがミツに襲い掛かる。異能者はいない様子だが、9人が近くがミツの老体に攻撃を仕掛ける。しかし、ミツは華麗に攻撃をかわし、熊の姿に変容したその腕で反撃した。威力は絶大で一人一人確実に仕留めていった。そして、最後の一人まで追い込んだ。
ミツ「ハアハア。私も歳をとったねぇ。この程度で息が上がるなんて。」
今までミツと手下の戦いを傍観していたエイプリールが縛った悟を床におろし、パチパチと拍手をし始めた。
エイプリール「素晴らしい身体能力と体術ですね。本当にもったいない。私も体術だけだったらあなたには勝てないですね。」
そういいながらもニヤニヤとしながらミツを見つめている。
エイプリール「志半ばで死んでしまっては元も子もないですからね。この子を人質にします。」
地面に倒れている悟を踏みつけ、隠し持っていたナイフを取り出す。
ミツ「くっ。卑怯もんめ。」
エイプリール「どうとでも言ってください。動かずにいてくださいね。手元が狂うと一撃では死ねませんよ、お婆さん。」
エイプリールは冷ややかな声で最後の一人となってしまった手下に命令する。
エイプリール「やれ。」
ミツはエイプリールが悟をほしがっているため、傷つけることはないだろうと考え、手下の攻撃を避けようとした。しかし、いつの間にかミツの足もとから木のツルが生え、ミツの足を絡めた。足をとられたミツはバランスを崩し、手下の攻撃を腹にくらってしまった。攻撃をくらいながらも手下の一人を捕まえ、仕留めることができた。
ミツの腹からジワリと血が滲む。
ミツ「ゴフッ。」
エイプリール「動くから、一撃で死ねませんでしたね。」
ミツはその場に倒れる。
悟「ばあちゃんっ!」
悟を踏みつけながらエイプリールは高笑いし、悟に言った。
エイプリール「あなたが弱いせいであの老婆は死にました。力がほしくはないですか。あははは。」
エイプリールは何がおかしいのか、笑いが止まらない。
悟「うわああぁぁぁ。」
悟が泣き叫ぶと悟の体中から炎が出て体を縛っているツルを燃やした。エイプリールは驚き、悟を踏みつけていた足をどかした。
エイプリール「これほど、成長が早いとは。やはりあなたは逸材ですね。」
ツルから解放された悟はエイプリールを無視し、ミツへと駆け寄った。
悟「ばあちゃんっ。ばあちゃんっ。」
ミツ「ううっ。悟。」
エイプリール「まだ息がありましたか。感動しますな、互いを心配しあう孫と祖母。しかし、私も時間がありません。悟さん、、、でしたっけ?そろそろ出発しますよ。」
ミツ「連れて行かせるものか。それにあんたらに殺される私じゃないよ。」
ミツは最後の力を振り絞り、自分のみぞおちにある鉱石。通称:HIVEをつかみ、引きちぎった。
悟「ばあちゃんっ?何してるの?もっと血が出ちゃうよ。お願いやめてよ。」
そして、ミツの横で泣き叫んでいる悟の口に無理やり押し込め、そのまま悟の口と鼻をふさいだ。
悟「んんっ。」
悟は驚いた拍子に口に入れられた鉱石を丸呑みしてしまう。
ミツの手が悟の口から離れる。そして囁いた。
ミツ「生きるんだよ、悟。」
ミツの息が止まった。