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Dream Diary  作者: 銀次
5/5

「タイムリミット」

久しぶりの投稿になりました!

すみません…。

Dream Diary第5章です!

お楽しみください。

何があっても泣かない。

初めてタケルの前で涙した私が、卒業の日に誓ったことだ。

けど、その誓いを破ってしまう日は突然訪れた。

私、間宮遥香は今、街の大通りから少し外れたところの、大きな総合病院に来ている。

今から2ヶ月前のことだ。

練習中に後輩のパスが乱れ、それを取ろうと飛び込んだ時だった。

別の角度からチームメイトが来ていることに気づかずにぶつかり、左膝に大きな衝撃を受け、立っていられなくなった。

このケガのせいで私は、引退試合をコートで終えられなかったんだ。

パスミスを謝る後輩、ぶつかったことを心配するチームメイト、駆け寄ってくる同期の仲間…。

それでも痛みは無情に広がり続けた。

悔しい思いをしたあの試合から1ヶ月が経つ。

あれ以来、何をやろうと、私の気分は晴れない。

タケルと会ったり、電話してたりする時間は純粋に楽しかった。

けど、終わった時には容赦なく、どうしようもない気持ちが、私の中を満たしていった。

総合病院の病棟の廊下のベンチに1人座っていると、そんな自分を思い出す。

暗い記憶が頭を巡り、時間が止まっているみたいだ。

だって私は、もうすぐ何もかも失う。

いや、失わなくちゃダメなんだ。


目の前に座る若い医者が、重苦しい口を開き、話し始めた。

本当は聞かないといけないことなのだろうが、今の私にはその全ての言葉が、意味の無いただの音に聞こえる。

「間宮さん、あなたは…。」

ただ機械のように返事し続けるだけ。

時間がただただ過ぎていく。

けど、しばらくしてから聞こえた医者の声は、私の耳の中に深い余韻を残していった。

「余命、2ヶ月です。」

「えっ。」

彼は私の顔色が変わったのに気づいただろうか。

私の、果てしなく広がる絶望に気づいただろうか。

もう、今まで通りの生活なんて送れるわけがない。

明るく笑顔で生きてきたけど、タイムリミットを告げられた私は、悲しいくらいに脆かった。

それでも不思議と、涙は出ない。

人って本当の絶望の中にいる時は、泣くことすらも忘れてしまうんだって思った。

どんな励ましの言葉も、私の耳には意味の無い音に響くだろう。

こんな私を、誰がそばに置いてくれるっていうんだろう。

今まで、あんなに待ち遠しく思えていた明日が、今は怖い。

来る日も来る日も、昇る朝日に怯えながら、私は生きていかなきゃいけないんだ。


部活を引退してからというもの、毎日がなんとなく味気なかった。

最近はハルカからの連絡も少ないし、受験のこともあって、2人で出掛ける機会も大幅に減っていた。

ハルカの高校は、この辺じゃ名の知れた進学校で、ハルカはその中でもそこそこの上位の成績を維持していた。

そんなハルカのことだから、やっぱり受ける大学は名門の大学。

中堅校に進学した俺では見れない景色を、ハルカは見ようとしている。

俺とハルカとの距離はどんどん離れていくだろうけど、多分この先も、何だかんだ言って2人で生きていくんだと思う。

中学の頃に付き合って結婚するカップルの割合は、どのくらいだったっけ…。

なんて思っていた真っ白な日常に、突然その日が黒く暗い影を落とした。


9月13日、その日の朝は、うるさいくらいに太陽が照っていたことを覚えている。

別に何をする訳でもない、いつも通りの朝だった。

朝ご飯を食べて、適当にテレビをつける。

その時だった。

何のきっかけかはわからない。

けど俺は、突然激しい胸騒ぎを覚えた。

不吉な予感がした。

神様とか、幽霊とか、そんな物はあまり信じていない俺だったけど、そんな俺ながらに、「これがお告げってやつなのかな。」なんて思ったりもした。

すると、布団の上に置いてあった俺のケータイが震える音がした。

気になって見てみると、そこにはLINEの通知がある。

ハルカからのLINEだった。

〈おはよう。今大丈夫?〉

ここ2日ほどはLINEもしていなかったが、忙しい朝にどうしたんだろう…。

〈大丈夫だよ。どうしたの?〉

〈あのね?〉

これは何かある…。

ハルカが〈あのね?〉って送ってから、時間が空いたことからも、それは見てとれた。

返信はまだだ。

何かを躊躇っているとも思える。

本当にどうしたんだろう…。

〈私と、別れてほしいの。〉

その瞬間、何かが崩れる音が聞こえた。

つけていたテレビの音が、遠くからわんわんとどこか遠くから響く。

俺はただ呆然と画面を見つめるだけだった。

また彼女からのLINEの通知があって、俺は我に返った。

〈急にごめんね。けど、仕方ないことなの。〉

そんなこと、俺達の4年間がこんな突然に終わるわけがない。

何かの間違いだ。

そんな思いに任せて俺は、一心不乱にLINEを返す。

〈何かあったの?俺でよかったら相談のるよ?〉

〈ううん、大丈夫だから。〉

〈別れるなんて大丈夫じゃないよ。何があったの?〉

〈ううん、大丈夫だから。仕方ないことだし。〉

〈何で?訳も教えてくれないの?〉

〈うん、ごめんね。けどこうしなきゃダメなの。〉

仕方ない、と言い続ける彼女は、俺には何も語らず、ただ俺を引き剥がそうとしているかのようだ

そして彼女は、食い下がる俺を振り払うかのように、こう言った。

〈本当にごめんね。今までありがとう。〉

そこからは、どんな言葉を送ろうと、返事なんて返ってもこなかった。


4年前の12月4日、あなたに告白されていなかったら、俺は今頃何をしていただろう。

俺の今この瞬間までの人生にハルカがいなかったらなんて、想像もつかない。

もはやハルカは、俺の大事な人というより、俺の人生の一部だった。

ハルカと2人で過ごした時間なら、どんなくだらない時間でも大切だったし、彼女のことならどんなことでも覚えている。

9月13日、永遠にも思われた俺たちの4年間は、あまりにも突然に、あまりにもあっけなく、あまりにも無慈悲に、終わりを告げた。

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