「お隣さん」
Dream Diary第3章です!!
ハルカの怪我から回り始めたストーリー。
彼女の親友登場!
お楽しみください。
あれから2ヶ月経っただろうか。
ハルカの復帰は引退試合には間に合わず、コートでの引退は叶わなかった。
俺はハルカに言われて、ハルカのチームの引退試合を見に行った。キャプテンとして、1人の選手として、チームを盛り上げる彼女の顔には悔しそうな色は全く差していなかった。
俺もその時の表情を見てほっとはしたけど、彼女がどれだけコートに立ちたいかは痛いぐらいにわかっている。
だからこそ、俺をチームの引退試合に呼んだのも、自分が応援している物を一緒に応援したかったからなんだと思ったし、とても嬉しかった。
試合はもちろん、エースを欠いたハルカのチームが2回戦で敗退した。
ベンチから試合を見守るハルカは、チームメイトの敗北に涙を流している。
そんな悔し涙さえも、俺にはかっこよく映ったし、自分も、バスケを辞める時はあんな風に泣きたいって思えた。
俺たちもそのすぐあとに引退試合があったが、3回戦で私立の超強豪と当たってしまい、手も足も出ずに完敗。
相手チームは、試合時間の大半を控え選手に任せた余裕の勝利だった。
その時俺も、何を思ったか自然に涙がこぼれた。
色々なことが頭をめぐる。
練習だったり、自分や仲間のファインプレーだったり、ケンカしたことだったり…。
そんなことを思い出すと、やっぱり目頭が熱くなっていく。
ハルカも俺も、立場は違えど、バスケに賭けた思いは同じなんだと思ったし、その場にいなくても、2人で頑張ってきたんだって強く思った。
引退試合から1週間たった日の昼のことだ。
何もせずにぼーっとしていることの多い俺は、すぐに隣の物音に気がついた。
隣には誰もいないはずだから、新しく誰が引っ越してきたのだろう。
どんな人なんだろう?
別に俺自身は、人付き合いが苦手な方ではない。
中学の頃、伊達に生徒会長やってたわけではなかった。
とはいえ、壁の向こうのお隣さんが気になる。
よくわからないけど、テレビの音量とか気にしないといけないのかな…。
突然、インターホンが鳴り響いた。
のろのろと歩き、受話器をとる。
「はい。どちら様ですか?」
「失礼致します。今日からここに住むことになった者ですが…。」
聞いたことのある声だった。
「今伺います。」
扉を開けた先にいたのは、予想外の人物だった。
「えっ、タケル?」
「もしかしてアリサ?」
そこにいたアリサこと小野寺愛莉沙は、ハルカの中学時代の友達だった。
「そうだよ。びっくりしたでしょ?」
アリサは、ハルカと同じバスケ部で、チームのエース。
主将のハルカとエースのアリサ。
2人に引っ張られたチームは地区では敵なしで、全国まであと1歩のところまで進んだらしい。
アリサはクラスでも活発で明るい人気者で、教室では大人しいハルカとは似つかない空気をまとっていたが、2人の間に流れる時間は、俺にも割って入れないものだった。
「びっくりしたよ。どうしてここに?」
「バスケで推薦もらった大学が近くにあるし、受けることにしたからね。」
「うわー…。まじか。」
思わず言葉を失ってしまった。
高校生になってからアリサの試合は見ていないが、すごい選手だってハルカから聞いた記憶がある。
「すごいなぁ。」
「まあ、楽ではないけどね。」
不意にハルカを思い出したせいか、少し辛くなった。
けど俺は、アリサみたいな人こそ夢を見て、叶えてほしい。
とか思っていた時だった。
「ハルカ、やめちゃったんだよね?」
中学からの仲なんだし、知らないはずもない。
この話題は俺にも辛かったけど、アリサの顔を見た時から、ハルカの話になるのは覚悟していた。
「そう…らしいな。」
俺の表情が曇ったのにアリサは気づいただろうか。
「ハルカ、バスケは高校で辞めるって言ってたけど、高校のバスケはやり通したかったって。すごく残念。」
アリサの声のトーンが変わっているのがわかった。
「俺も、もうハルカにあんな辛そうな声出させたくない。」
「うん…。」
俺には、心から親友と呼べる人がいないのかもしれない。
だから気づかなかったけど、アリサと俺の抱いているハルカへの気持ちにはなんの違いもなかった。
友情と愛情っていうのは、それを持ってる人の違いで、どっちも『自分よりも相手のことを思う』ってことなんだ。
重い空気を察してくれたのか、アリサが口を開いた。
「言ってなかったけどね、実は私エイトと付き合ってるの。」
「えっ?エイトと?」
エイトってのは、俺の友達、白神瑛叶のことだ。
サッカー部に所属していた、俗に言う『イケメン野郎』で、学年で一番モテてたと思う。
けどエイトは硬派なタイプで、女子の告白を受けたことは一度もない。
学年で一番の美人だったサトミが告白した時は、ついにビッグカップル誕生だ!って噂で持ちきりになったこともあったが、エイトはそれすらも断った。
そんなヤツがどうして今になって、アリサと付き合ったんだろう…。
「うん、卒業式の日にエイトに告白されて…。」
「まじで!エイトから?」
俺は簡単には信じられなかった。
あのエイトが女子に愛の告白なんて……。
そんなことを思っていると、アリサが口を尖らせた。
「ちょっと、なんでそう『信じられない』って顔なのよー?」
「いや、俺はエイトと仲良かったし、付き合うなんてまだ先だと思ってたから…。」
俺たちの中学校はサッカー部が強かった。
エイトはそのエースで、名前とかけて背番号は『8』をつけていた。
エイトは何よりもサッカー優先だったから、あまり知られてはないが、俺は割とエイトとは仲が良かった。
信じる人は少ないかもしれないけど。
「なんかびっくりしたよ。おめでとう。すごく応援する。」
「ありがとう。」
そういうアリサは、少し顔を赤くしていた。
「アリサはエイトのこと好きだったの?」
「まぁ、ね?」
「両思いだったんだ。学年一番のイケメンだもんな。そりゃ無理もないよ。」
「私はそんなんじゃないよ?」
そんなんじゃないって、エイトの顔に惚れたんではないってこと?
「当然そういう人もいるけどね。色々言われたよ。エイトにフラれた友達の中には、仲を裂こうとする人もいた。けど私は、そういう外見だけで何でも判断する人になりたくなかっただけ。」
エイトに告白するヤツなんて、あのイケメンを隣に置きたいヤツがほとんど。
その中のどんなヤツが近寄ろうとも、エイトの鋼鉄の扉の前には手出しできず、終わっていく。
なのにアリサの何が、エイトの扉を開けさせたんだろう。
エイトの何が、アリサの心を掴んだんだろう…。
「アリサは、エイトのどこが好きなの?」
「それは、内緒。」
堂々としたアリサの顔は、もう赤くなかった。




