第四章 中心街ストーリー
僕はいつからこの世界にいるのだろう。
もちろん、この地球という惑星に存在する世界にしか人間として生きられる環境はないのだから生まれてからだとは思うのだけれど、それでは色々納得のいかない点がいくつかある。
そもそも、僕の記憶がはっきりしていないのだ。
幼い頃の記憶がない。それどころか僕の両親の記憶さえも無い。
僕は何歳なのか、どこでどんな風に育ってきたのか何一つ分からなかった。
仕方ないので僕は分からないなりに苦労して生きてきた。
その結果、知らない間に喫茶店で働くことになって、とりあえずの居場所は作ることが出来た(と思う)。だからもう何も心配せずにここでそれなりの苦労をして生きていけばいいのだろう。
けれど、そう簡単に思い込むことが出来なかった。
それだけでは足りない。何かが足りない気がする。それは何だろう。
僕はそんなことを考えながら中心街を歩いていた。空を見上げながら歩いていた。
澄んだ空は川みたいに何の抵抗もなく流れ、薄暗く、遠慮がちに宇宙が顔を出した。
星は何一つ見えなかった。その宇宙は悲しそうな顔をしていた。
中心街はどこを見ても眩い光によって照らされており、夜の暗さなどあっという間に地上から蹴散らしていた。僕はその光に囲まれながら歩いていた。
こんな無機質な人工物が光っているのになぜか心がポカポカしてきた。
光るものならなんでもいい心地がするのだろうか。
僕はとあるファストフード店に入ってハンバーガーとポテトを頼んだ。
僕は窓際の席に座り、外を見た。外の光は店内の明るさに負けて、もはやそこには暗さしか見つけることが出来なかった。
店内は静かなBGMに包まれていて、そこには眠たそうな店員と僕しかいなかった。まるでこの空間だけが時間が止まっているかのような錯覚を感じずにはいられなかった。
僕は落ち着かないので何かしなければと思っているうちに、一人で頭の中の迷路をあっちこっち駆け回って散りばめられた記憶の断片をかき集めていた。その断片はいくらかき集めてもパズルみたいにぴったりくっつくことは無かった。それらは全く組違いのパズルで、全て関連しないものなのかもしれない。それか、僕は今千ピースのパズルのように壮大なパズルを組み立てていて、今集まっている断片はまだほんの一部に過ぎないのかもしれない。
とにかく、その記憶の断片達は僕の頭の中をきれいにしてくれるどころか余計ぐちゃぐちゃにしてしまったのだ。
こうやって考え事をしているといつの間にかお客が奥の席で座っていた。誰かを待っているのだろうか。しばらくすると予想通り、また一人客が来店して先客の方へと駆けつけた。風貌から見て二人とも僕と同じくらいの年齢だろうか。学校に通っている飛鳥なら彼女たちと知り合いかもしれない、とのんきなことを思っていたのだが、よくよく見てみると後から入ってきた方の客は紛れもなく飛鳥だったことに気がついた。
先に待っていた方は飛鳥の友達だろうか。二人は顔を合わせると、とても楽しそうに会話をしていた。そのせいか僕の存在には一向に気づいてくれる気配がなかった。仕方ないのでそのままにしておくと、十分くらいしてようやく飛鳥の方がこちらに気づいた。
彼女はもう一人の方に断りを入れてからこちらに近づいてきた。
「びっくりした。鴎君いつからいたの?全然扉の音に気がつかなかったよ。瞬間移動でもしてきたの?」と飛鳥は驚いた様子で聞いてきた。
「もとからいたんだよ。瞬間移動なんて出来るわけがないだろう。」と僕はぶっきらぼうに言う。
「まあね。」と飛鳥は苦笑いする。
飛鳥の冗談は冗談なのか本気なのかさっぱりわからない。
そのせいで場の空気が気まずくなり、会話の糸口を見失うことが多々あった。なので、僕もこの通りどのように対応していいのか分からず、ついうっかり素っ気なく対応してしまう次第である。この癖は治そうとすればするほど治らず、意識すればするほど僕の神経を衰弱させるだけであった。
「鴎君の存在が薄すぎるのが悪いんだよ?はんぺんよりも薄いよ?」
「もう勘弁してくれ。」
僕は頭を抱えながらもまだ奥の席に座っている飛鳥の友達を目線が捉えた。
「あの娘は?」
「私の一つ下の後輩。奈津美っていうの。奈津美、もうそろそろ時間でしょ?」
「あ、はい。もうそろそろお邪魔します。カモメさん?初めましてです。また機会があればよろしくお願いします。」
と奈津美は言って走り去ってしまった。
奈津美は飛鳥とはまた違った魅力があるとこの一瞬で感じてしまった。飛鳥は真っすぐで正直な性格で、見た目もそれが露わになった感じで明るく、綺麗だった。その一方、奈津美はふわふわした感じで、誰の心も優しく包み込んでしまうのではないかと思う程優しそうな印象であった。見た目は何よりも彼女の優しそうな目とセミロングの黒髪が素敵だった。




