第一章 くつろぎストーリー
「もう、これでコーヒー何杯目だと思ってるの?あなたの脳はいつまでブレイクタイム中なの?いっそ、本当に頭をブレイクした方がいいと思うけど。」と、彼女は可愛らしい顔とは裏腹にこれ見よがしに畳みかけてくる。
「まだ五杯目だよ。」
「もう五杯なのよ。」
僕は窓の外の景色を見ながらコーヒーをすする。
と言ったらとても聞こえがよく、西欧のカフェに訪れる男性のような、ダンディな姿が想像されると思う。しかし、みんなが実際に僕の有り様を見ると幻滅するだろう。
コーヒーといっても砂糖は小さじ一杯半、ミルクは必須。それから注文するデザートはイチゴケーキときた。おまけに僕の姿はダンディとはとても言い難いほど幼く、未成熟なチェリーボーイであった。
彼女は僕に背を向けてメニューを持ち去ってしまった。
ドラマみたいにかっこよくコーヒーをすする僕を演じきれない極めつけはどこにでもありそうなこの喫茶店だ。なんでも、戦後すぐに建てられた喫茶店らしく、入り口のドアも、客席の椅子も、テーブルも、えらく年季が入っていた。それがかえって「味がある。」と言って訪れる客も多いそうだが僕にとってそれは逆効果であった。
「このケーキ、あんまり好きじゃないんだよね。」
「じゃあなんで頼んだのよ。」
「これが一番安かったんだ。」
「変な人。」
そうやって僕の発言に逐一横やりを入れながら机にイチゴケーキをきちんとセットしてくれる彼女はこの喫茶店のウェイトレスだ。僕がこの喫茶店に通うようになってすぐに自然と話すようになった。
彼女の名前は「福富飛鳥」。福冨という名字は三年前に変わったらしい。ここのオーナーの名字も福冨だから家族ぐるみの経営なのだろう。それはさぞ大変なはずだ。
飛鳥は用事がすむと落ち着いた様子でまたキッチンに戻っていった。
飛鳥の顔は可愛いのに発言は可愛くない。飛鳥の細い体とそれを包むように纏っている清潔なメイド服は飛鳥から漂う何か普通じゃないオーラを隠しきれていなかった。僕はその普通じゃないオーラが何か悪いものである気がして仕方がない。しかし、それを説明しろと言われると、それもまた難しい話なのである。
しばらくすると、飛鳥が私服になってキッチンの方から出てきて、何の躊躇もなく僕の向かいの席に座った。一つ奥の窓の向こうに咲く花が隠れた。さっきオーナーが買い出しから帰ってきて、「もうあがってもいいよ」と言われたそうだ。
嗚呼、これでまた一つ理想の「喫茶店でくつろぐ人」から遠のいた。と僕は心の中で溜息をついた。




