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たまごストーリー  作者: みくに葉月
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第九章 夜鷹ストーリー


今日は日曜日だった。

休日は基本的にお客さんの数が多いのでシフトも普段より多い人数で組まれる。

僕は開店時間の八時から入っていて、飛鳥もオーナーも同様にフルで入っていた。

今日も僕達は忙しいながらも、お客さんへの心遣いを忘れずに、立派に働いた。


「飛鳥、休憩入りなよ。今はそんなに忙しくないから大丈夫だよ。」と僕は飛鳥に休憩するように促す。

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」と言って飛鳥はウィンクして僕の横を通り過ぎてさっさと奥に入っていった。

飛鳥のこういう遠慮のしないところが好きだ。決して節操がなっていないのではない。必ずしもそうではないが、遠慮をするということは相手にも遠慮を強いてしまう要素がある。それを彼女は心得ている。だから彼女は敢えて真正面から自分の気持ちをぶつけているのである。


よくよく考えてみれば飛鳥と会うのは久しぶりかもしれない。

彼女はちょっと前と比べて少し大人っぽくなったような気がした。同時に、少しだがなんだか僕と彼女の距離が遠くなった気がした。なんでも彼女は今、試験勉強というものをしているらしく、ろくにバイトも出来ないし、学校が終わった後も勉強をするため、自由な時間はあまりないそうだ。

そのことをさっき休憩中に飛鳥から聞いた。彼氏として何か出来ないものか、と考えたがこの世界の学校なんて行ったことがないものだから何も手伝えることが出来ないと踏んで諦めた。


そんなことを考えている一方、今か今かと待ち構えている僕が居た。日曜日にはきまってヨダカがやってくる。だから今日もきっと来るはずなのだ。来たら僕についての全てを聞くつもりだった。どんな結果でもいい、今はそれが最善の策であることは明白なのである。きっとどんなことになっても僕は受け入れられるはずだ。

自分のため、というのもあるが、知ることがこの世のためであり、自然な成り行きとしてなされるべきことではないだろうか、とほぼ直感的に感じた。僕は知らなければならない。自分のため、飛鳥のため、それから何か漠然としたもののために。

そう念じて彼がやってくるのを働きながら待ち構えた。


午後四時を過ぎた。ピークが終わったので客足も段々減ってきた。少し余裕が出来てきたので、僕と飛鳥は合間合間に顔を合わせて他愛もない話をしていた。オーナーは決まってのほほんとしていた。

「いらっしゃいませ!」と僕は大きな声を出して言う。作業をしながら言っていたので最初は分からなかったが、振り返ると、そこにヨダカの姿があったことを認めた。僕は息を飲んだ。


「よう鴎、繁盛しているようだね。」

「お陰様で。」と僕は決してかしこまっていないような口ぶりになるように努めてそう答えた。

「ん?今日の鴎はなんだか変だな。そこは、店の心配なんかいらん!とか言うところだろ~。」とヨダカは言った。


鋭い。僕はそう思った。


「変じゃないよ。疲れているだけさ。もう少しでバイト終わるから待っていてくれないか?離したいことがあるんだ。」と僕は言った。

すると、ヨダカは急に真面目な顔になって「うん」とだけ答えた。


バイトが終わって奥から出てくると、ヨダカは窓際の席に座って真剣な顔で小説を読んでいた。いつもはふざけたようなことしか言わないからついそういうやつだと決めつけてしまっていたのだが、こうやって見るとヨダカは案外真面目なやつなのかもしれない。


「お待たせ。」そう言って僕はヨダカの向かい席に座る。

「それで、話と言うのは?」ヨダカは本を閉じて言った。

「なあ、散歩しないか?外を歩きながら話したい気分なんだ。」と僕は提案した。ヨダカも異存はないようだった。


僕達は近所にある大きな公園を歩いていた。公園には、散歩コースが遊具やバーベキュースペースを囲むように敷かれており、熱心にウォーキングするお年寄りが多く見られた。

僕達は右側に遊具、左側に並木を置いて歩いていた。この日は天気が良くとても過ごしやすい気候だった。

外を歩いていて初めて気づいたのだが、もう紅葉が始まっているようだ。赤色の落葉が道の左半分を埋め尽くしていた。今まで気づかなかった。外を歩くことなんてしょっちゅうあったのにどうして季節の移り変わりい気づかなかったんだろう。僕は自分の鈍感さに呆れはてた。


「それで、話というのはなんだい?」ヨダカは早速本題に触れようとした。

僕はそれを聞かれるとややあっと返事をして少しずつ話していくことにした。

「ヨダカと僕は今年の春に知り合ったよね?僕達はあちこち出かけて遊びに行ったりはしなかったけれど、それなりに仲良くやってこれた気がする。君はどう思う?」

「ああ、俺も鴎のことは親友だと思っている。喫茶店で話すことが多かったけれど、俺達は兄弟って言われるくらい気の合う仲だった。互いに話を持ち寄ってお互いの知識を高め合ったりもした。そのことについて何の不満もない。今更そのことがどうかしたのか?」とヨダカは何の疑いもなく言った。

僕はヨダカのその言葉を聞くと一度溜息を吐いて意を決して言った。


「ヨダカ、本当は、僕達はずっと前から知り会っていたんだろう。」


「どういうことだ。」

「正直に言うと、僕は記憶を失っていた。もちろん、君が最初に僕と会った時、既にそれに気づいていたようだけど。君は知っていながら僕に合わせていた。なぜ?どうして本当のことを言ってくれなかったの?教えてほしい。僕とヨダカの間で培った思い出に対して、君はどんな眼差しで見ていたのか。今なら言えるはずだ。正直に話してほしい。」

「記憶が戻ったのか…?」

「ああ、そうだよ。記憶が戻ってから気づいたよ。ヨダカは僕に隠し事をしているってね。君は一体何を企んでいるのかい?」と僕は言った。


話の後半に関しては自分でも一体何を言っているのか分からなかったが、出まかせを次々と言いまくるおしゃべり口は止まってくれなかった。

今も記憶が戻っていないことは伏せておいた。その方がヨダカも昔のことについて話しやすいと思ったからだ。


すると、ヨダカは突然うろたえ始めた。目の焦点が合わず、手足ががたがた震えている。

「どうしてって?それはこっちが聞きたいくらいだ。鴎、お前は記憶を失ったことで責任を放棄した大罪人だ。お前はあの時、飛鳥を守ることが出来なかった。でも飛鳥はお前を信じると言った。だから俺もお前を信じようと思った。けれど、現実世界に来たお前は飛鳥を守るという目的も、お前自身の気持ちも、何もかも忘れてしまっていた。絶望だった。飛鳥でさえも記憶を失っていたのだからどうしようもなかった。それでも俺はお前を信じようとした。だから、俺はお前に合わせて初対面のフリをした。そして俺は記憶があるのにも関わらず、何もしようとしなかった。それが一番飛鳥のためだったからだ。何故だか分かるか。いや、分かるまい。俺がどれほど飛鳥のことを思っていたかお前は知らない。お前は何も知らない。愚か者だ。」


「知ってるよ。」と僕は言った。


思い出した。何もかも全部。

僕はヨダカの言う通り、愚か者だった。



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